月別アーカイブ: 2018年7月

営業秘密の要件

(質問)
 当社は、製品製造のノウハウを他社に知られないように、営業秘密としての管理を徹底しようと考えています。
 営業秘密とはどのようなものでしょうか。
 

(回答)

1 営業秘密とは
 営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法・販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(不正競争防止法第2条第6項)をいいます。

2 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 秘密管理性については、①営業秘密に関して、その保有者が主観に秘密を有しているという意思を持っていること(秘密保持の意思)、②客観的に秘密として管理されていると認められる状態にあること(客観的な秘密管理性)の2つの要件が必要であるとされています。
 また、経済産業省の営業秘密管理指針では、秘密管理性が認められるためには、企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があるとされています。
 そして、秘密管理措置とは、紙媒体の場合は、「マル秘」など秘密であることを表示したり、施錠可能なキャビネット等に保管することとされています。
 また、電子媒体の場合、記録媒体へのマル秘の付記、電子ファイルを用いた場合に端末画面にマル秘の付記、電子ファイル等の閲覧に要するパスワードの設定等が挙げられています。

3 有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)
 この要件は、経済的な利用価値のある秘密、あるいは、法的保護を行うに足る社会的意義と必要性がある秘密のみを保護の対象とする趣旨です。

4 公然と知られていないこと(非公知性)
 不正競争行為によらないで当該情報が不特定多数のものに知られる状態になれば、もはや営業秘密としての保護が及ばなくなります。

5 営業秘密のリスク
 企業においては、製品製造のノウハウが他社に漏れてしまって、それが利用されると、事業継続自体が脅かされるリスクにもつながりかねません。
 営業秘密の不正取得、不正使用、不正開示に対しては、企業は差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求の民事上の措置を採ることができるほか、営業秘密侵害罪の刑事罰が規定されています。
 しかし、民事上、刑事上の措置はいずれも事後的措置にすぎず、被害が完全に回復できないリスクがあるので、企業とすれば、営業秘密の管理を徹底すべきです。

有名な他社の名称の使用リスク

(質問)
 当社は、この度、レストランを新規出店するのですが、店名を私の好きな洋服の有名ブランド名と同じにしようと考えています。法的に何か問題はあるのでしょうか。

(回答)

1 商標権侵害のリスク
 洋服の有名ブランドは、商標登録を行っていると考えられますが、指定役務に飲食物の提供が含まれていないと、貴社がカフェの店名にその有名なブランド名を用いても商標権侵害になりません。
 この場合は、不正競争防止法違反のリスクが問題になります。

2 周知商品等表示混同惹起行為
 商標や商号のように他人の業務に係る商品や営業であることを示す表示である商品等表示のうち、周知な他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用することで、自分と他人の営業等を顧客が混同するような行為は不正競争に該当します(不正競争防止法第2条第1項第1号)。
 この混同行為については、商品等の主体を混同する虚偽の混同だけではなく、他人の周知な営業表示と同一又は類似のものを使用する者と当該他人との間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させるいわゆる広義の混同を生じさせる行為をも包含すると解されているので(最高裁判所平成10年9月10日判決)、注意が必要です。

3 著名表示冒用行為
 商品等表示のうち、周知よりも有名の度合いが高い著名な(全国で世間一般に知られている)商品等表示と同一又は類似のものを使用することは不正競争に該当することが規定されています(同項第2号)。
 つまり、商品等表示が周知よりも有名な「著名」になると、周知レベルで要求される顧客の混同の有無は問わず、その著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を他人が使用することは不正競争に該当し、差止請求や損害賠償請求のリスクが生じます。

4 まとめ
 洋服の有名ブランド名(商標)が、著名とまではいかなくても周知である以上は、それを貴社のカフェの店名として使用することは、親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係等を誤信させるとして、周知表示混同惹起行為に該当すると判断されるリスクがあります。
 また、洋服の有名ブランド名が著名と判断されれば、貴社のカフェがその有名ブランドと何らか関係があると混同されなくても、第2号の不正競争に該当すると判断されるリスクがあります。
 このように他人の商標権侵害を生じなくても、周知又は著名な商品等の使用は、不正競争行為になるため、十分注意が必要です。

合同労組への団体交渉義務

(質問)
 当社の従業員が合同労組に加入したとして、合同労組から団体交渉の申入書が届きました。
 当社はどのように対応すればよろしいでしょうか。

(回答)

1 合同労組とは
 合同労組(合同労働組合)とは、一定地域に存在する中小零細企業の労働者が、個人加入を原則として、企業の枠を超えて組織する労働組合です。日本の労働組合は、企業別組合が一般的ですが、合同労組の場合、複数の企業や異業種の企業の労働者がメンバーとなっています。
 これらの組合の多くは、個々の労働者の解雇、残業代不払い、セクハラ・パワハラ問題等の個別労働紛争を個々の企業との団体交渉によって解決することを主要な活動としています。

2 合同労組に関する情報収集
 団体交渉前にできる限り合同労組の情報を収集する必要があります。それは、一口に合同組合といってもその性格は様々であり、団体交渉に臨むに当たって注意すべき点等も変わり得るからです。
 当該合同労組のホームページ等があれば、過去の実績などからその組合の性格が分かることもありますし、また、経営者団体に問い合わせることも考えられます。

3 合同労組への団体交渉義務
 貴社が合同労組を軽視して団体交渉に応じないと、不当労働行為となり、労働委員会から救済命令等が発されるリスクがあります。
 また、団体交渉を拒否した場合、労働組合が会社近くでのビラ撒きや街宣活動等の抗議行動を行ったり、労働委員会への不当労働行為救済の申立てを行ったりするリスクを頭に入れておく必要があります。
 一方、対応を急ぐあまりに準備不足で団体交渉に臨むと、合同労組のペースに乗せられ要求を飲まざるをえなくなり、後々後悔することにもなりかねませんので、弁護士と十分に対策・方針を協議の上、迅速かつ的確な対応が必要となります。

物品のデザインの権利の保全

(質問)
 当社は、ボールペンの先端部分の形状を独創的に工夫し、今までにはない使い心地の製品を開発しました。
 他人が模倣することを防止したいのですがどうすれば良いでしょうか。

(回答)

1 意匠登録を検討すべき
 同じ機能を有する同種の物であっても、個性的で見栄えの良いデザイン(外観)を有する物が他の物よりもよく売れることはよくあり、産業の発達を促進するには、物のデザインは極めて重要です。
 デザインについて、他人の模倣を防止し創作意欲を促進するため、優れたデザインを創作した者に、それを一定期間独占できる意匠権という知的財産権が設けられています。

2 意匠権とは
 意匠登録の対象は、物品の形状、模様及び色彩に関するデザインであり、視覚を通じ美感を起こさせ、工業的に量産できるもの等を対象としています。
 このようなデザインのうち、次のような要件等を満たすものを特許庁に意匠登録出願すれば、意匠登録を受けて意匠権を取得できます。
 ①工業上利用することができる意匠であること(工業上利用性)
 ②出願時に知られていない意匠であること(新規性)
  これには一定範囲で例外が認められる場合がありますが、例外申請にはさまざまな書類が要求されたり厳しい適用要件を満たす必要があるので、出願迄はデザインを秘密にしておくことを原則にすべきです。
 ③容易に創作できたものでないこと(創作非容易性)
 ④先願意匠の一部と同一、類似の意匠でないこと
 ⑤公序良俗違反でないもの
 ⑥他人の業務に係る物品と混合を生じないこと
 ⑦機能確保のための形状でないこと等

3 意匠登録の効果
 意匠登録により与えられる意匠権は、登録されたデザインと同一及びこれに類似するデザインにまで専用権と禁止権が認められ、そのデザインと同一又は類似する模倣品を他人が勝手に製造したり販売することを禁止することなどができます。

4 回答
 ご質問のボールペンのデザインについては、意匠登録の対象となると考えられます。
 意匠権は登録料を払えば、登録から20年間認められ、デザイン保護には極めて有効な手段です。

定款の内容と実際の運用の食い違い

(質問)
 当社では、内容の違う定款が数種類見つかりました。しかし、どの定款にも監査役設置規定がないにもかかわらず、当社では、従前から監査役が選任されていますし、株券を発行していないのに株券発行会社として登記されています。
 このような状況で、当社は今後、どのように定款を整理していったらよいでしょうか。
 なお、公証人の認証を受けた定款は、もはや存在しません。

(回答)

1 定款の確定
 定款には、公証人による認証を受けた「原始定款」と、株主総会の特別決議で変更することになった「現行定款」があります。
 会社法では、役員の任期、株式の譲渡を承認する機関、監査役の監査の範囲等、定款規定の自由度が高まり、定款で定めることにより、その会社のルールとして認められることになっています。
 原始定款を認証した公証役場が判明しており、かつ、その認証の時から20年を経過していない場合には、認証を受けた公証役場へ連絡し、交付申請をすることで原始定款の謄本を入手できます。
 原始定款を認証した公証役場が判明していなくとも、登記申請をしてから5年以内であれば、設立登記をした法務局が設立登記に関する書類の一部として定款等を保管しているので、そこで原始定款を閲覧することができます。
 上記の方法によって定款を確定できない場合は、あるべき定款を再度作成するしかありません。

2 定款の変更
 定款の内容を変更する場合は、原則として、株主総会の特別決議が必要となります(会社法第466条、第309条第2項第11号)。
 また、株式譲渡制限規定を設けたり、譲渡制限会社で株主ごとに異なる取扱いを行う規定を設ける場合には特殊決議が、会社が特定株主から自己株式を取得する際に、他の株主からの追加請求を排除する定款変更を行うには、株主全員の同意が必要となります。

3 定款の重要性
 貴社は、会社の実態を踏まえて、定款を確定する必要があります。
 まずは、社内に存在している古い株主総会議事録、取締役会議事録、複数の異なる定款を寄せ集めて、その内容が現在の会社の実体と整合しているかどうかを確認します。
 そして、整合していない場合は、あるべき定款に合致するように会社の実態を変更するか、会社の実態に合わせて、あるべき定款の変更を行うか、いずれが合理的か検討することになります。

4 回答
 ご質問のケースでは、どの定款にも監査役設置規定がないにもかかわらず、監査役が選任され登記されていることから、実態と合わせて監査役の権限の範囲を検討した上で監査役設置会社としての定款を作成するか、会社の実態を変更して監査役を廃止するかを選択することになります。
 また、株券については、旧商法時代から存在している株券発行会社は、会社法施行後、定款を変更していない場合は、依然として株券発行会社であるとされているので、定款の規定により株券不発行を規定することになります。

パソコンのウイルス感染による情報漏洩のリスク

(質問)
 当社では、従業員のパソコンからウイルスに感染し、顧客のデータが一部流出してしまいました。
 当社はどのように対応したら良いでしょうか。

(回答)

1 情報漏洩リスク
 企業のリスクとして、ご質問のようなパソコンのウイルス感染による情報流出、従業員による情報漏洩、標的型サイバー攻撃による情報流出等のリスクは、被害の広範性、即時性、拡散性等から企業存続の致命傷にもなりかねない極めて大きなリスクといえます。
 企業が一度でも情報漏洩をしてしまうと、被害者への謝罪費用、原因調査費用といったコスト面だけではなく、社会的信用やブランドイメージの低下など、そのダメージは計り知れません。

2 情報漏洩の典型的なパターン
 誤操作、盗難や置き忘れ、ノートパソコンなどのモバイル機器やUSBなどの持ち運び、ソフトウェアのバグ、コンピュータウイルスの感染、不正アクセスによる攻撃、内部関係者による意図的な情報の流出が挙げられます。
 NPO日本ネットワーク・セキュリティ協会「2013年 情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によると、同年に発生した1388件の個人情報漏洩事例の原因は、誤操作、紛失・置き忘れ、管理ミスなどのヒューマンエラーが約80%を占めています。
 ご質問のケースもまさに貴社のパソコンのセキュリティーの不備と従業員の不用意なパソコンの使用が原因となっているので、ヒューマンエラーに該当します。

3 情報漏洩事実の公表
 顧客情報が漏洩した事実を速やかに公表することは、当該情報がプライバシーなどに密接に関わる情報であり、漏洩による個人の人格的、財産的利益に対する被害や、なりすましによる商品の購入などの二次被害を最小限に抑えるために必要です。

4 個人情報流出の初動対応
 貴社の個人情報流出に対する初動対応の流れは、次のとおりです。
 ①事故状況、内容の把握(流出データの特定、漏洩原因の調査)
 ②警察署、監督官庁への第一報
 ③二次被害の防止措置(クレジットカード会社等への連絡)
 ④被害者に対する通知、公表(マスコミ発表を行うかどうかの検討)
 ⑤被害者対応(Q&Aの作成、お詫び状の送付、コールセンターの設置、問い合わせとクレーム対応)
 ⑥監督官庁への報告(情報漏洩の原因、経緯、漏洩発覚後の対応、今後の再発防止等)
 ⑦再発防止策の策定と実施