月別アーカイブ: 2018年12月

下請法とは

(質問)
 当社は製造業を営む会社ですが、順調に業績を伸ばして規模を拡大してきた反面、社内規定や契約書などの整備が追いついておらず、コンプライアンス面に弱みがあります。先日、他社との取引の際は下請法に注意しなければならないと耳にしたのですが、これはどのような法律でしょうか。

(回答)

1 下請法とは
 下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者の下請事業者に対する優越的地位の濫用を規制し、下請事業者の利益を保護するのための法律です。
下請法が適用されるのは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4種類の取引です。
下請法という言葉のイメージからは建設業に適用される法律のようにも思いますが、業種ではなく取引の種類に着目した法律で、建設工事自体は対象としていません(建設業は建設業法によって規律されています)。

2 下請法が適用される事業者
 下請法は、取引の種類のほか、資本金額によって適用の有無が決まります。
まず、製造委託、修理委託、政令で定める情報成果物(プログラム)作成委託、政令で定める役務(運送、物品の倉庫保管、情報処理)提供委託に関しては、①資本金3億円超の法人と個人又は資本金3億円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超3億円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。
 また、上記以外の情報成果物作成委託、役務提供委託については、①資本金5000万円超の法人と個人又は資本金5000万円以下の法人が取引する場合、②資本金1000万円超5000万円以下の法人と個人又は資本金1000万円以下の法人が取引する場合に適用されます。

3 親事業者の義務
 下請法では、親事業者の義務の義務として、①発注書面の交付義務、②取引記録書類の作成・保存義務、③下請代金の支払期日を定める義務、④遅延利息を支払う義務が規定されています。
下請法が適用される取引についてはきちんと書面に残しておく必要があり、口約束のみで処理することは違法になります。なお、下請代金の支払期日は、物の受領や役務の提供を受けてから60日以内としなければなりません。

4 親事業者の禁止行為
 親事業者の禁止事項として、①受領拒否、②下請代金の支払遅延、③下請代金の減額、④返品、⑤買いたたき、⑥物の購入強制・役務の利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給原材料等の対価の早期決済、⑨割引困難な手形の交付、⑩不当な経済上の利益の提供要請、⑪不当なやり直しが定められています。
 典型的な違反は、支払遅延のほか、買いたたきや下請代金の減額があります。
 下請法は、下請事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、発注後の下請代金減額を禁止しています。そのため、たとえば、代金を支払うときに振込手数料を差し引いて送金することも、下請事業者の同意がない限り違法になります。
 下請法は意外と見落としがちな法律で、知らず知らずのうちに違反状態になってしまうことがあります。適用の有無については、取引の種類と資本関係に注意する必要があります。

隣地使用権とは

(質問)
 私は、この度、老朽化した自宅の修繕工事をしようと考えています。しかしながら、敷地が狭いため、工事をする上でどうしても隣の土地に立ち入る必要があります。
 隣人が立ち入りを承諾してくれない場合には工事ができないのですが、どうすればいいのでしょうか。

(回答)

1 隣地使用権とは
 所有権は物に対する絶対的な権利ですので、原則としてその物をどのように使用するかは所有権者が自由に決めることができます。
 そのため、他人の土地を無断で使用することは、その土地の所有者の所有権を侵害することになりますし、不法占有による損害賠償義務も生じます。
 もっとも、この原則を貫くと、今回の事例のように不都合が生じることから、民法は、一定の場合に隣地の使用請求権を認めています。
 具体的には、民法第209条第1項が、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」と規定しています。
 本件でも、自分の敷地に余裕がない場合には、工事に必要な範囲で、敷地に立ち入ったり、足場を設置すること、材料や機械を隣地に一時置くこと等が認められます。

2 隣人が承諾してくれない場合
 上記のとおり、民法上の隣地使用権が認められる場合に、これを隣地所有者が拒否した場合はどうなるのでしょうか。
 民法第209条第1項の場合には、一方的に隣地所有者に通知することで使用が認められるのか、あくまでも隣地所有者の承諾が必要なのかが問題になります。
 この点について、一般的には、使用について隣地所有者の承諾が必要と解されています。
 そのため、隣地の所有者が承諾をしてくれない場合には、裁判所に、「承諾に代わる判決」を求めて訴えを提起し、勝訴判決を取得する必要があります。
 隣地使用が認められる場合であるからといって、相手の承諾がないのに使用を強行することは、違法な自力救済にあたりますし、場合によっては住居侵入罪等に問われる恐れもあります。
 もし、判決を待っていては壁が崩壊して修復不可能となる等、緊急を要する場合であれば、隣地使用に関する保全処分として、仮処分決定を得て隣地に立入ることになります。
 以上のように、一定の場合には隣地の使用請求権が認められますが、無断での使用が認められているわけではありません。
 また、承諾を得て隣地を使用する場合でも、使用によって隣地所有者に損害を与えた場合には、これを賠償する義務があることにも注意が必要です。