月別アーカイブ: 2020年7月

SNS上の誹謗中傷

(質問)
 SNS上の誹謗中傷が問題となっていますが、発信者の特定についてどのように法整備が議論されているのですか。
 

(回答)

1 問題視されているSNS上の誹謗中傷
先日、ある民放番組の出演者が、SNS上での多数の誹謗中傷の書き込みに追い詰められて自殺するという事件がおきました。この事件を受けて、政府が、「インターネット上の発信者の特定を容易にするための方策を検討する」という方針を明らかにしたことが話題となりました。
 これまでも芸能人がネット上で執拗に誹謗中傷されることは問題視されていました。ネットでは匿名で簡単に書き込みができることもあり、「指殺人」という言葉もできました。

2 発信者の特定についての法整備
被害者が採る手段としては、発信者を特定して、名誉毀損などによる損害賠償を請求することが考えられます。これによって、安易な書き込みについての抑止力となったり、被害者の救済につながったりします。
 これまで、書き込みの発信者を特定する方法として、プロバイダ責任制限法という法律があります。「権利侵害の明白性」などの要件を満たした場合に、発信者情報開示請求ができると定められています。この制度により、まずは書き込みをした人物を特定します。具体的には、SNSの運営会社など(コンテンツプロバイダという)に対して、IPアドレスを開示するよう訴訟を提起します。そうすると、どの会社のインターネットサービスプロバイダを利用したか(たとえばKDDIなど)が分かるので、この会社に対して、発信者情報の開示請求訴訟をすることになります。
 しかし、これらの会社が任意で情報を開示してくれればいいのですが、任意で開示してくれることはあまりないです。その理由としては、たとえば、「権利侵害の明白性」がないのに開示してしまうと、逆に、発信者から会社に対して責任追求されかねないからです。
 そこで、通常は訴訟をすることになり、書き込みをした人物を特定するまでに2回訴訟をすることになるので、時間とお金がかかります。
 さらに、「権利侵害の明白性」も主張しなければならなりません。たとえば、「早く消えてよ」などの書き込みが、名誉毀損にあたるとは言い切れません。
 このように、多くの人は、書き込みの人物を特定することができずに、損害賠償請求を断念することになります。
 今回の法整備の議論はまだ始まったばかりで、いろいろな案があるところですが、たとえば、会社が権利侵害の明白性について検討したことを疎明すれば免責されるような制度を作ることで、会社が任意開示に応じやすくなるという案もあります。このように、人物の特定方法がより迅速になれば、書き込みの抑止と被害者救済が厚くなるといえます。