月別アーカイブ: 2023年11月

従業員への貸付けと給料の天引き

(質問)
 当社の従業員が、資金繰りに困っているため、会社からお金を貸し付けて、返済は月々の給料から天引きすることをしたいと考えています。また、返済し終わるまでに退職した場合には退職金で相殺をしようと考えています。この場合に貸付けにあたって注意すべきことはありますか。

(回答)

1 賃金全額払いの原則
  労働基準法上、賃金の支払いについての定めがあり、その中の一つに全額払いの原則があります。これは、その名の通り賃金は全額支払わなければならないというものです。そのため、従業員が会社に追っている債務と相殺することも原則認められません。労基法では例外として、①法令に別段の定めがある場合か、②過半数労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定がある場合には、賃金を控除することができます。
 ①法令に別段の定めがある場合とは、所得税の源泉徴収、社会保険料の控除などが該当します。

2 労使協定の必要性
  会社の貸付金の返済のために天引きをしたいのならば、②を満たすことが必要となります。そのため、労使協定が必要となります。とはいえ過半数労働組合がない場合には、過半数代表者と協定しなくてはならず、その充足性が問題となります。
 法律上必要とされている要件は、㋐管理監督者でないことと、㋑投票、挙手の手続により選出され、使用者の意向に基づく選出でないことです。
 ㋑の要件は近年否定されている事例が発生しています。要件が否定される例としては代表者を社長が指名するもの、勤続年数のみを理由に代表者を選定するものがあげられます。本来的に過半数代表者は従業員全員が候補となり得、選挙の方法により互助で選出されているといえなくてはなりません。

3 労使協定が無効とされる場合に備えて
  労使協定が締結されているからと、会社貸付をするにあたって漫然と天引きすることについての定めを置いたとき、労使協定の効力が否定されれば賃金全額払いの原則に反するとして天引きができなくなる可能性が生じます。
 そのため、念のため、労使協定が無効と判断されたとしても、労働者の自由な意思に基づいて天引きや相殺に合意したといえるような状態にすべきであるといえます。
 そのため、契約書自体に天引きや相殺についてきちんと規定を置くだけでなく、規定を置いたことを従業員に説明をし、場合によっては、説明を受けたことについてサインをもらうといったことをするべきかと思われます。