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業務に支障を出している妊娠中の女性従業員を注意したらマタハラになるのか?

(質問)
 妊娠している女性従業員の当日欠勤・早退が頻繁にあり,業務に支障が出ています。
 その女性に注意をしたらマタハラになるのでしょうか。

(回答)

1 マタハラとは 
 最近,テレビ等でマタハラという言葉をよく耳にするようになりました。マタハラとは,マタニティ・ハラスメントの略語で,女性が妊娠・出産を理由に職場で精神的・肉体的嫌がらせや不利益を受けることをいいます。
 2014年の新語・流行語大賞のトップテンに選ばれる等,一般の方にも広く認識されるようになってきました。 
 社会が,女性が妊娠・出産したのを機に退職を強制したり降格させたりすることは,昔から存在している問題ですね。

2 マタハラの裁判例 
 このマタニティ・ハラスメントについて,最近注目すべき最高裁判決が出されました。
 この判決事案は,病院に副主任として勤務していた理学療法士の女性が第2子妊娠にあたり,労働基準法65条3項に基づき,軽易な業務への転換を希望したところ,病院が岩が軽易な業務への転換とともに副主任を免ずる措置を行い,育児休業後に職場復帰しても副主任に戻れなかったというもので,副主任を免ずるという降格措置が男女雇用機会均等法9条3項に違反するかが争われたものです。
 最高裁は,均等法の趣旨に照らして,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たり無効となると判断した上で,例外的に有効になる場合として,事業主が当該労働者について降格の措置を執らずに軽易な業務へ転換させることに人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合などで,降格措置について均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しない特段の事情が存在するときをあげています。

3 最高裁判例の安易な解釈には注意を 
 しかし,この最高裁判決がいう特段の事情が認められるケースというのは実際にはあまりないと考えられます。
 最高裁の判例は今後の同種事件の先例となりその影響力が大きいものです。今後生じうる類似事件について,事件の背景事情を一切考慮せず,不利益な措置をすべて無効にしてしまうのは妥当ではない場合も考えられます。そのため,事案に応じた解決ができるよう例外が認められる余地を残すということがあるのです。
 このように考えると,最高裁が例外を認める余地があると判示している場合であっても,例外が広く認められると安易に解釈すべきものではありません。
 そのため,今後,妊娠を理由として解雇,降格等不利益な措置を講じることは原則として,無効とされることになることに十分注意していただきたいところです。

4 ハラスメントのリスクにご注意を 
 近時マタハラ,セクハラ等を含むハラスメントに対する企業の責任について,厳しい責任が問われる傾向が強くなっています。
 ハラスメントに対する対応は一つ間違えると,法的紛争へ発展するリスクがあるのみならず,会社の社会的信用まで失いかねません。
 ハラスメントへの対応にお困りでしたら,弁護士にご相談されることをおすすめします。

パワハラの法的責任

(質問)
 当社のある従業員Yは、いつも注意されているにもかかわらず事務作業で何度も同じミスを繰り返したり、業務時間の最中にどこに行っているか分からないことが多々あるなどの問題行動を起こしていました。そのため、上司が、当該従業員に対して、これらのことについて指導したところ、当該従業員はこれはパワハラになりますと言ってきました。
 当社に何らかの法的責任が生じるリスクはあるでしょうか。

(回答)

1 パワハラに関する相談は依然として増加している。
 ご質問の内容が貴社の言われるとおりであるとすれば、誠に腹立たしい限りで、私もこのような相談を中小企業から受けたことがあります。
 都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられる相談において、パワハラに関する相談件数は、依然として増加しているようです。
 都道府県労働局に寄せられたパワハラの相談件数は、平成26年度は62,191件、平成27年度は66,566件、平成28年度は70,917件とのことで、前述のセクハラの相談件数と異なり、増加の一途を辿っています。

2 パワハラに対する企業のスタンス 
 企業が、職場の秩序を維持するためには、従業員に対して一定の指導等を行うことは必要です。
 会社の管理職等がパワハラになることをおそれて指導することを委縮してしまう状態は、健全な職場とはいえませんし、職場の秩序を維持することができません。
 しかし、指導がついつい行き過ぎて、パワハラになってしまうリスクがあることに注意する必要があります。

3 パワハラにおける加害者・使用者の責任
 労働者には職場秩序遵守義務があり、使用者には職場環境配慮義務があります。
 したがって、使用者も労働者もお互いがバランスを取って、快適な職場の中で仕事をしていく必要があり、使用者は業務の改善に向けた一定の指導を行うことは当然ですが、その指導が度を超えてしまうとパワハラ(不法行為)になるリスクがあることに注意する必要があります。
 パワハラを行った者は、不法行為に基づく損害賠償責任のほか、名誉毀損罪(刑法第230条第1項、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)、傷害罪(刑法第204条、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)等の犯罪に該当する可能性があります。
 また、会社は使用者責任又は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うリスクがあります。

4 回答 
 ご質問のケースでは、貴社は、Yに対して、いつも注意しているにもかかわらず、事務作業で何度も同じミスを繰り返すとか、業務時間の最中にどこに行っているか分からないことが多々あるなどの事情があるようです。
 そこで、貴社とすれば、当該Yに対して指導する必要がありますが、 一般的な指導の程度であれば、およそパワハラには該当しないと考えられます。

セクハラの申告に対する初動対応

(質問)
 当社では、女性従業員Yが上司の課長から何度もしつこく食事に誘われて困っている、ときどき肩を触れられたりして不快感を感じているというセクハラの相談を受けました。
 当社は、どのように対応すれば良いでしょうか。 

(回答)

1 セクハラの件数
 都道府県労働局雇用均等室に寄せられたセクハラの相談件数は、平成25年度は9,230件、平成26年度は11,289件、平成27年度は9,580件とのことです。
 しかし、これは、実際のセクハラ事案の氷山の一角と考えられます。
 実際、私は、中小企業からさまざまなセクハラの相談を受けたことがあります。

2 事業主が講じなければならない措置
 男女雇用機会均等法第11条では、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定されています。
 また、厚生労働大臣の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号、最終改正は平成28年8月2日厚生労働省告示第314号)では、事業主が講じなければならない措置として、次の事項が定められています。
 ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応、④①から③までの措置と併せて講ずべき措置(以上、具体的内容は省略)。
 そして、事業主が上記の措置を十分に講じていない場合は、使用者責任(民法第715条)や安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負い(同法第415条、第709条)、また企業名の公表という制裁を受けることがあります(男女雇用機会均等法第30条)。

3 回答 
 貴社は、Yからセクハラに関する事実関係の調査を行った上で、加害者である上司にその内容を確認することになります。そして、Yと上司との間で事実関係が一致していれば、上司への懲戒処分を検討することになります。
 ただし、実際は、Yと上司との間で事実関係が一致しない場合が多くみられます。その場合は、5W1Hについて、Yと上司の言い分のどこがどのように食い違っているかを明確にして、一つ一つ事実関係を筋道、条理に基づいて認定していかなくてはなりません。
 ケースによっては、Yが嘘を言っている可能性もゼロではないことを踏まえ、予断を持たずに周りの関係者からも事実関係を聴取して、事実認定を行うことになります。
 そして、セクハラの事実関係が認められれば、上司の懲戒処分、Yの被害が深刻であれば会社と上司とで慰謝料の支払を検討することになります。