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職場における窃盗事件と盗品の取戻し

(質問)
 X社は、X社の所有する備品・機材等を従業員Aに盗まれました。従業員Aは、窃盗を認めましたが、すでに盗んだ備品・機材等を中古品の買い取りを業として行うY社に売却していました。X社は、これらの盗品を取り戻すことができるでしょうか。

(回答)

1 職場における窃盗事件
 最近、このような職場における窃盗事件の相談がありました。当然、この場合、X社としては、警察に被害届を出すとともに、Aに対する懲戒処分を行うことを検討します。
ところで、このとき、盗品に関する法律関係はどのようになるのでしょうか。

2 即時取得制度と盗品の回復請求権
 ⑴ 即時取得の成否
 まず、AはY社に対して他人の所有する動産を売却していることから、即時取得の成否が問題となります。即時取得は、取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利(所有権など)を取得できるとする制度(民法192条)です。
事例の場合、中古品の買い取り業者であるYは、Aから売買契約に基づいて備品・機材等の引渡しを受け、取引行為によって平穏かつ公然と占有を取得します。また、通常は、買い取りを申し込んだAが所有者でないことを知らず、知らないことに過失もないでしょうから、善意無過失です。Y社には、即時取得が成立すると考えられます。
 ⑵ 盗品・遺失物の例外
   即時取得の要件を満たす場合、買主であるY社は所有権を取得してしまい、X社は、盗品を取り戻すことができないように思われます。しかしながら、即時取得制度には、取得した動産が「盗品又は遺失物であるとき」に例外があります。具体的には、即時取得が成立する場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求できるとされます(民法193条)。事例の場合、Aが盗難してから2年間の間であれば、X社はY社から盗品を取り戻すことができます。

3 有償か無償か?
 盗品の回復請求は無償でできるのが原則ですが、これに関しては、盗品・遺失物の取得者が、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することはできないとされます(民法194条)。
  事例でいえば、Aが中古品の販売業を営んでいる場合などでない限り、XはY社から無償で返還を受けることができますが、仮に、盗品がY社から転売されて、Zが購入していた場合には、その代金を弁償しないと、X社はZから盗品を取り戻すことができません。この場合、弁償した代金相当額について、X社は、Aに対し、不法行為に基づいて損害賠償請求をすることができます。

4 取得者が古物商又は質屋の場合
 民法194条の場合でも、取得者が古物商ないし質屋である場合には、無償返還が義務付けられています。ただし、盗難又は遺失の時から1年を経過した後においては、この限りではないとされます(古物営業法20条、質屋営業法20条)。
盗品をY社から購入したZが、古物商又は質屋の場合には、Xは盗難の時から1年以内であれば、無償で盗品を取り戻すことができます。

職場における盗難事件に限らず、不祥事が発生した場合には、民事及び刑事上の責任追及、懲戒処分等の会社の対応については、弁護士にご相談ください。