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過重労働-脳・心臓疾患の労災認定基準-

(質問)
 従業員に過重労働となるような長時間労働をさせないよう気を付けたいと考えていますが、どこからが過重労働になるのでしょうか。いわゆる「過労死ライン」に達していなければ問題ないと考えてもよいでしょうか。

(回答)

1 なくならない過重労働
 令和3年5月17日、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)とが共同で行った研究の結果として、2016年に長時間労働が原因で死亡した労働者の人数は世界で74万5000人にも上ることが報告されました。長時間労働と死亡との関係を世界的に調査した研究は初めてとされており、過重労働は、今、世界的に問題視されています。
 そのような状況のなか、日本では、この9月14日、「業務による過重負荷を原因とする脳・心臓疾患についての労災認定基準」が、実に20年ぶりに改正されました。今回は、この新しい労災認定基準の内容をもとに、事業者が過労死対策のためになすべきことを考えていきましょう。

2 脳・心臓疾患の労災認定基準とは?
 「脳・心臓疾患の労災認定基準」は、労働者が対象となる疾病(脳内出血などの脳血管疾患及び心筋梗塞などの虚血性心疾患等)を発症した場合に、その疾病が業務に起因するものといえるかどうかを判断するために厚生労働省が定めた基準です。厚生労働省は、業務の「過重負荷」が認められる場合には疾病が業務に起因するものであると評価できるという考えのもと、「過重負荷」があったと認められるための基準を定めています。この基準は、事業者にとっても、労務管理を行う上で重要な指針となるものといえます。
 この基準の中で、よく取り沙汰されているのが、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる基準です。その内容は、「対象となる疾病の発症前1か月間に100時間、または発症前2~6か月平均で月80時間を超える時間外労働をしていた場合、その疾病と業務とが強く関連付けられる」というものです。
もっとも、この「過労死ライン」は、これを超えないように守ってさえいれば安全安心であるといえるようなものではありません。

3 過重負荷となるかは総合評価で決まる!
 前記労災認定基準は、長期間労働が「過重負荷」と認められる基準として「過労死ライン」を定める他にも、時間外労働時間が月45時間を超えて長くなるほど疾病と業務との関連性が強まること、労働時間以外にも勤務時間の不規則性、事業場外の移動を伴う場合のその態様、心理的・身体的負荷や作業環境など業務が労働者に与える様々な負荷要因を考慮して業務の過重性を判断すべきことを定めています。
 また、今回の改正で、労働時間が「過労死ライン」に満たない場合でも、これに近い時間外労働をしており、それに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められれば、疾病と業務との関連性が強いと評価できる旨が明確に基準として明示されました。
すなわち、「過労死ライン」は「過重負荷」の有無を決めるためのあくまで目安となるものであって絶対的な指標ではなく、「過重負荷」の有無は、業務が従業員に与える様々な負荷を総合的に考慮して判断されるものなのです。

4 事業者としてすべきこと
 このように、「過労死ライン」は、単にそれを死守していれば労働者に過重負荷を与えていることにならないというものではありません。
事業者としては、第一に、従業員の労働時間を正確に把握できる仕組みを構築した上で、労働時間だけでなく勤務の態様や業務の内容を総合的にみて従業員への「過重負荷」が生じていないかを評価し、必要があれば十分休息を取らせるなど適切に労務管理を行うことが求められています。
 コロナ禍の現在、テレワークの普及により「隠れ長時間労働」が増加していると言われており、これによる過労死の増加も懸念されているところです。

 従業員の健康被害のリスクや労働時間の管理についてお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。