生成AIを取り巻く著作権の問題

 現在、「生成AI」の活用が注目されていることはみなさんご存じのとおりです。
 しかし、先端技術と法規制は切っても切れない関係にあります。
 「新しい」ということは、それだけ「どこまでなら安全か、明確な境界線がない」ということにつながりやすいからです。
 生成AIの代表格である「ChatGPT」に対して、「小林裕彦法律事務所のコラムを参考にして、参考元が分からないようにして、人事評価の落とし穴と法的対処法に関する記事を書いてください」という指示を出すと、参考元となったコラムとほとんど同じ表現の記事が作成されます。
 このような生成AIの利用が著作権侵害になる可能性があることは、直感的にお分かりいただけるかと思います。
 そこで今回は、生成AIを業務で用いる場合に気を付けるべきポイントの1つである、著作権との関係についてお話しします。

1 著作権侵害の判断基準とは?
 生成AIは大量の情報を集積・組み合わせ・解析した結果を出力します。
 このとき、意図せず集積元の著作物の著作権を侵害するリスクがあります。
 では、どのような場合に著作権侵害となるのでしょうか。
 判例上、既存の著作物との類似性と依拠性がいずれも認められる場合に著作権侵害となるとされています。
 そして、類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることをいいます。
 「表現上の本質的な特徴」というと分かりにくくなりますが、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法(以下「法」といいます。)2条1項1号)であることからすれば、思想、感情、アイデア、事実、事件などの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するに過ぎない場合には著作権侵害にはならないことになります。
 また、私的利用のための複製や引用のような権利制限規定に該当する場合には権利者の許諾を得ることなく著作物等を利用することができます。
 例えば、情報解析に用いるといった、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、著作権者の許可を得ることなく直作物を利用することができます(法30条の4)。

2 生成AIによる著作権侵害のリスク
 元の著作物と類似性のない要約、事実やアイデアなどが出力されるに過ぎない場合には、著作権者の承諾なく元の著作物を蓄積・入力しても、著作権侵害にはなりません。
 これに対し、冒頭のコラムの例のように、元の著作物の創作的表現がそのまま出力される場合には、権利制限規定に該当しない限り、著作権侵害に該当する可能性があります。
 特に、既存の著作物と類似する生成物を作成させる目的でプロンプトに既存著作物を入力する行為は、生成AIによる情報解析に用いる目的だけでなく、入力した目的物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法30条の4が適用されず、著作権侵害となるおそれがあります。
 著作権侵害が認められた場合、侵害者は、差止請求、損害賠償請求及び著作権侵害に基づく刑事罰の措置を受ける可能性があります。
 このうち、差止請求と損害賠償請求については、故意がない場合であっても対象となるため注意が必要です。

3 AI生成物は著作物となるか?
 生成AIを活用したビジネスモデルを考える際、AI生成物が著作物となるか否かは重要な問題です。
 そもそも、生成AIにおける著作者が人なのかAIなのかも気になるところです。
 まず、「著作者」とは、「著作物を創作する者」をいいます(法2条1項2号)。
 そして、AI生成物が著作物に該当すると判断された場合の著作者は、当該AIを利用して「著作物を創作した」人となります。
 少なくとも今のところ、AIは「者」に含まれないようです。
 次に、AI生成物の著作物性の有無の検討に当たっては、AI利用者が創作的寄与をしたかという視点が重要になります。
 例えば、プロンプトの内容が創作的な表現を具体的に示す詳細なものであった場合には、AI生成物はAI利用者の創作的表現を反映したものといえ、著作物と評価される可能性が高くなります。
 これに対し、単なるアイデアにとどまる指示であれば、著作物には当たらないことになります。

4 生成AIとの付き合い方
 AIは、中小企業の業務において、リサーチの高度化・迅速化、各種文書の作成・レビュー、機械的業務の処理などに役立つ強力なツールです。
 その反面、著作権法や個人情報保護法といった法律との関係に留意する必要があります。
 また、生成AIは確立に基づいて次の単語を予測しているに過ぎないため、しれっと嘘をつきます。
 法的リスクと対策を十分に理解し、戦略的なAI活用を進めていくことが、持続的な成長への鍵となるでしょう。