月別アーカイブ: 2021年11月

内定者の突然の辞退

(質問)
 入社日の直前になって、内定者から「他社に就職することにしたので、内定を辞退したい」と連絡がありました。辞退の連絡が突然すぎて、非常識だと思います。
 このような非常識な内定辞退が許されるのでしょうか。また、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

(回答)

 内定を辞退するにしても、できるだけ早めに連絡をしたりお詫びをしたりするなど、常識的な対応をしてほしいというのは当然のことだと思います。
 入社日直前の辞退や事前連絡がないままの辞退に対しては、何かしらの対応をしたくなるという気持ちも分からないではありません。

1 内定者は自由に辞退できるのか
 法律的には、内定が決まった時点で労働契約が成立したことになります。したがって、「内定者が内定を辞退する」ということは「労働者が労働契約を解約する」ということになり、その意味では退職と同じです。
 民法上、労働者はいつでも労働契約の解約の申入れをすることができ、解約の申入れの日から2週間を経過することによって労働契約が終了することになっています(民法627条)。このルールは、労働者の退職の自由を保障するための強行規定であると考えられています。
 したがって、労働者に退職の自由が認められる以上、内定者にも辞退の自由が認められるということになります。

2 損害賠償を請求することができるのか
 労働者の退職の例でいえば、退職が社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われた場合には、債務不履行責任や不法行為責任を負うこともあるとされています。しかし、悪質な一斉大量引抜きなどが行われない限り、債務不履行責任や不法行為責任が成立することはほとんどないと思われます。
 これとパラレルに考えれば、辞退の連絡が突然すぎるという点のみをもって、辞退が社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われたと評価することは困難です。会社が内定者のために多額の設備投資などの特別の準備をしていて、そのことを内定者も十分に認識していたような場合でない限り、損害賠償を請求することは難しいと思われます。

3 見方を変えると・・・
 仮にそのような内定者を採用していた場合、会社の業務でも重要な連絡をしないなどの問題が生じていたかもしれません。しかし、問題のある労働者であっても、簡単に解雇できるわけではありません。
 見方を変えると、そのような事態が生じずに済んだ、会社がそのような問題に巻き込まれずに済んだと考えることもできます。新たに良い人材を採用することができるよう、気持ちを切り替えるのが生産的だと思います。

 お困りの際は、弁護士にご相談ください。

高齢者の雇用確保と就業確保

(質問)
 2021年4月から高齢者の雇用のルールが変わったと聞きました。どのように変わったのでしょうか。 

(回答)

 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(通称:高齢者雇用安定法)が改正され,70歳までの雇用確保と就業確保に関する新しいルールが導入されました。70歳就業法といわれることもあり,4月1日から施行されています。
 これまでのルールと,70歳就業法によって新しく導入されたルールを確認していきましょう。

1 これまでのルール‐60歳以上の定年と65歳までの雇用確保
 企業が従業員の定年を定める場合,60歳以上とする必要があります(60歳以上の定年)。
 また,企業が65歳未満の定年を定めている場合,①65歳まで定年を引き上げる,②65歳までの継続雇用制度を導入する,③定年を廃止する,のいずれかを講じなければなりません(65歳までの雇用確保)。
 これらは努力義務ではなく,義務です。多くの企業は,定年を60歳とした上で,65歳までの再雇用制度を導入しているといわれています。

2 新しく導入されたルール‐70歳までの雇用確保と就業確保
 70歳就業法では,これまでのルールである65歳までの雇用確保義務はそのままで,さらに70歳までの雇用確保と就業確保の努力義務が規定されました。
 努力義務の内容は,①70歳まで定年を引き上げる,②70歳までの継続雇用制度を導入する,③定年を廃止する,④70歳まで業務委託契約を締結することができる制度を導入する,⑤70歳まで社会貢献事業に従事することができる制度を導入する,のいずれかです。
 ①②③の内容は,これまでのルールである65歳までの雇用確保義務の延長線上にあるといえます(70歳までの雇用確保)。
 これに対し,④⑤の内容は,①②③とは少し異質です。フリーランスとして仕事を受けたり,社会貢献事業に参加したりして収入を得るのですから,従業員ではなくなるわけです(70歳までの就業確保)。その影響から,④⑤を導入するためには,過半数組合か過半数代表者の同意を得ることが必要とされています。

3 企業の対応
 現時点では努力義務にとどまりますが,政府は義務化を検討すると明言しており,今後,義務になることも十分に考えられます。
 義務化された場合,70歳までの再雇用制度を導入する企業が多いのではないかと思われますが,いずれの措置を講じるにせよ,就業規則の見直しは必須です。

 お困りの際は,弁護士にご相談ください。