月別アーカイブ: 2017年11月

内縁関係の法律問題について

(質問)
 私には、長年交際している内縁の夫がいるのですが、突然、他の女性と交際していることを告げられ、別れ話をされました。
 結婚はしていませんでしたが、20年以上同居しており、周囲には私達が結婚していると思っている人も多くいます。通常の恋愛関係とは違って事実婚状態でしたので、突然の別れ話には納得いきませんし、相手の女性も許せません。
 法的に何か請求できないのでしょうか。

(回答)

1 内縁とは
 判例によれば、内縁は、「婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合」であり、「婚姻に準ずる関係というを妨げない」としています。
これは、内縁関係を、制度としての婚姻に準じたものとして法的に保護する考え方で、準婚理論と呼ばれるものです。
法的に保護される内縁関係が認められるためには、一般に、婚姻意思(社会的実質的に夫婦になりたいという意思)があり、夫婦共同生活を営んでいること、社会的にも夫婦と認められていることなどが要件とされます。
これについては、子供の有無、同居の期間や生活費等の管理・支出の状況等、個別の事案によって総合的に判断されることになります。

2 内縁の破棄と慰謝料
 内縁関係が認められる場合、正当な理由なくこれを破棄することは、不法行為となり損害賠償責任が生じ得ます。慰謝料の金額は、内縁解消の原因、内縁の期間や子供の有無、収入等の事情から判断されます。
なお、内縁の夫婦間の権利義務は法律婚に準じますので、夫婦には貞操義務も認められます。不貞行為は、内縁の夫婦間において不法行為が成立するだけでなく、不貞行為の相手にも、故意又は過失が認められるときには共同不法行為が成立します。
 今回のケースでも、相手の女性が、内縁の妻の存在を知りながら男性と交際していたような場合には、当該女性に対しても慰謝料請求が認められるでしょう。

3 内縁の終了と財産の清算
 内縁関係の不当破棄の問題とは別に、内縁関係の終了にあたって、離婚のような財産分与は認められるでしょうか。
この点、裁判例では、内縁終了の場合にも財産分与の規定の類推適用が認められており、基本的には法律婚と同様の考え方で処理されることになります。手続としても、内縁解消の場合にも離婚時の財産分与と同様に、家事調停を利用できます。
 ただし、死別によって内縁関係が終了する場合には、財産分与の規定は類推適用されないと解されています。法は、死亡の場合の財産の承継は、相続によることを予定しているためです。内縁の配偶者は相続人にはなりませんので、死亡後に内縁の配偶者に財産を承継させるためには、生前に遺言を残しておくこと等が必要になります。
 内縁関係というものは昔からありましたが、現在は、結婚に対する価値観や夫婦の生活のあり方もより多様化し、あえて法律婚をしないという選択をする夫婦も増えています。内縁関係の法律問題は、法律婚以上に難しい問題を孕んでいますので、お困りの際は弁護士にご相談ください。

業務上ミスをした従業員に対する損害賠償請求について

(質問)
 当社では,業務上に度々ミスをする従業員がいます。当従業員に対して、当社は損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?
 また,賠償金を給与から天引きすることはできるのでしょうか?

(回答)

1 会社の従業員に対する損害賠償請求は制限されることが多い
 従業員が故意または過失によって会社に損害を与えた場合,会社はその従業員に対し,不法行為に基づき,会社が受けた損害を賠償するよう請求することができます(民法第709条)。
 もっとも,判例によれば,会社は従業員に対し,受けた損害の全額を当然に請求できるわけではなく,損害賠償額が制限されたり,そもそも会社の損害賠償請求が認められなかったりということもあります。
 すなわち,判例は,会社の事業の性格,規模,施設の状況,従業員の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防ないし損失の分散についての配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で,会社は従業員に対し損害賠償請求をすることができるとしています。
この判例の考え方の背景には,会社は従業員を雇うことによって事業を拡大し利益を上げている以上,従業員を雇うことによるリスクも引き受けるべきであるという考えがあります。
 基本的には,従業員が故意・重過失により会社に損害を与えた場合(従業員が会社の資金を横領した場合等)でもない限り,会社は受けた損害全額を賠償請求することはできず,損害の一部についてのみ賠償が認められるにとどまると考えられます。

2 賠償金を給与から天引きすることは,原則としてできない
 会社からの損害賠償請求が認められる場合でも,従業員が自発的に支払ってくれるとは限りません。このような場合,会社としては,損害賠償額を従業員に支払うべき給与から天引き(相殺)すればいいと考えるでしょうが,給与からの天引きは,労働基準法第24条(賃金の全額払いの原則)に反するため,行うことができません。
 もっとも,従業員からの同意があれば,給与からの天引きも認められますが,会社が従業員に同意を強制する危険があるため,判例は,従業員の同意が自由意思に基づきなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合でなければならないとしており,容易には,従業員の自由意思に基づく同意とは認めない傾向にあります。

3 リスクが発生しにくい体制を整える!
 会社としては,過重な労働を従業員に指示しない等,そもそもミスが生じにくい労務環境を構築することなどを通じて,リスクが発生しないようあらかじめ対策をとることをお勧めします。