月別アーカイブ: 2017年4月

インフルエンザの法務リスク対策ー流行を未然に防ぐための法的手段とは?ー

(質問)
 当社の従業員から、妻及び2人の子どもがインフルエンザに罹患してしまったと聞きました。今のところ、この従業員自身は、高熱は出ていないようですが、倦怠感があるようです。当社でのインフルエンザの流行を防止するために、当社は、法的にどのようなことができるでしょうか?

(回答)
 

1 集団感染を防止する!
 インフルエンザは、高熱を伴う、関節痛を伴う等の症状がある恐ろしい病気ですが、感染力が高いということも恐ろしいところです。使用者は、職場の従業員に対して安全配慮義務を負っている以上、インフルエンザの流行について漫然と放置するのではなく、何らかの対策を検討する必要があります。
 

2 従業員に自宅で待機してもらうことはできる?
 ご相談では、当該従業員自身がインフルエンザに罹患しているかどうかは分かりません。しかし、インフルエンザは、感染力が高い以上、インフルエンザに罹患した同居の家族から感染してしまうリスクが十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に罹患している可能性も否定できないところです。そのため、職場での集団感染を防止するために、まずは、当該従業員に対して、自宅での待機を促すことが考えられます。自宅待機を促した結果、当該従業員自身が同意した場合には、自宅で待機してもらうことになります。
 

3 自宅待機を命ずることはできる?
 自宅待機について、任意に促す方法ではなく、業務命令として行うことは、仮に就業規則に明示の根拠規程がない場合にも、一般的な労務指揮権の一環として可能であると考えられます。もっとも、このような命令を行う場合には、従業員の様子、従業員の被る不利益の大きさなどの事情を考慮する必要があります。
 ご相談では、従業員と同居している親族全員がインフルエンザに罹患しており、当該従業員自身も観戦するリスクは十分に考えられます。
 また、当該従業員自身、倦怠感があるとのことですので、既に観戦している可能性も否定できません。ほかに、当該従業員を一定期間自宅待機させることについて、当該従業員にとって大きな不利益となる事情も見受けられません。そのため、職場での集団感染を防ぐために、一定期間、自宅待機命令を行うことも可能であると考えられます。
 

4 自宅待機の期間の賃金はどうすればいい?
 従業員が自宅待機している期間は、当該従業員において労務を提供していることにはなりません。そのため、賃金を支給する必要があるかではなく、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要があるかを考える必要があります。
 ご相談における従業員の休業は、確かに、従業員の家族がインフルエンザに罹患したという、会社外の原因によるものであり、かつ、このことについて使用者が最大限の注意をしたとしても避けることができたものであるとはいい難いものです。
 そのため、このような休業は、一見すると不可抗力に基づくものであると考えられそうです。
 しかし、当該従業員自身は、インフルエンザに罹患しているかどうか分からない以上、形式的には、就業可能な従業員を会社の自主的判断で休業させていることになります。
 そのため、当該従業員に対しては、休業手当を支給するほうが無難であると考えられます。
 

5 職場の従業員の安全を確保する!
 使用者は、従業員に対する安全配慮義務を負っていますので、インフルエンザの感染予防に限らず、従業員の健康を守る措置をとることも必要になります。安全配慮義務に関してどのような措置をとっていくべきかお悩みの方は、弁護士などの専門家にご相談することをお勧めします。

スマホの転売は違法?

(質問)
最近,私の知人が,副業として,スマートフォンを大量に転売してお金を稼いでいるようです。詳細はよくわからないのですが,私としては,知人が違法なことをしているのではないかと心配です。
 スマートフォンを個人で転売することは,法律上問題ないのでしょうか?

(回答)

1 通話可能な携帯電話の転売は違法
 携帯音声通信事業者(携帯電話会社)と契約済みの,通話可能な携帯電話については,基本的には,転売することは認められていません。携帯電話が犯罪等の不正な目的で利用されることを防止するために,携帯電話不正利用防止法によって,譲渡・譲受けが規制されているからです。
 具体的には,自分が契約している携帯電話を他人に譲り渡すためには,親族等に譲渡する場合を除き,事前に携帯電話会社に承諾を得る必要があります。これに違反して,通話可能な携帯電話を業として有償で譲渡すると,刑事罰が科せられます。
 また,他人から,その人が契約者でないことを知りながら通話可能な携帯を譲り受けた場合にも罰則があります。

2 白ロム端末の転売は適法?
 携帯電話会社と契約をしておらず,SIMカードが挿入されていない端末を,一般に,白ロム端末といいます。
 白ロム端末は,通話が不可能な空の端末であり,通信機能を持たない他の電子製品と同様に考えることができます。携帯電話不正利用防止法でも,譲渡・譲受け行為は規制されていません。
 そのため,白ロム端末を中古市場で仕入れて販売するような転売行為は,それ自体,違法ではありません。

3 古物営業法に注意 
 白ロム端末の譲渡・譲受け行為が違法でないとしても,転売行為が古物営業に該当する場合には,古物営業の規制を受けることになります。
 古物営業を行う場合には,都道府県公安委員会の許可を得る必要があり,無許可で古物営業を行った場合には罰則があります。
 「営業」該当性は個別に判断されますが,営利目的をもって反復継続して古物取引を行う場合には,古物営業と認められます。
 また,たとえ1回目の行為であっても,行為の客観的な態様(大量に端末を仕入れている等)から,反復継続して行う意思が認められれば,古物営業に該当すると考えられます。

4 転売目的の契約は詐欺になる? 
 近時,「スマホを契約する簡単なアルバイト」,「端末の購入代金はこちらが負担するから心配しなくてよい」などと勧誘して,転売用の携帯電話を購入する契約を締結させる悪質な転売業者がいるようです。
 これは,転売目的を隠して(自己利用目的・代金支払い意思があるかのように装って),携帯電話会社から端末を騙し取る行為であり,典型的な詐欺行為です。
 学生や外国人留学生などがターゲットにされやすいのですが,携帯電話の契約をするだけでバイト代がもらえるという甘い言葉につられて,詐欺に加担させられることにならないよう,注意が必要です。

相続税対策と養子縁組の有効性

(質問)
節税対策のために養子縁組をすることは問題ありますか?

(回答)
 

1 養子縁組の有効性が争われた裁判
 平成29年1月31日に,養子縁組の有効性が争われた事案で注目すべき最高裁判決が出ました。
 訴訟で争われたのは,ある男性と孫との間の養子縁組の有効性です。
 男性には配偶者がおらず,長男,長女,次女の3人の子供がいました。しかし,亡くなる前年に孫(長男の息子)を養子にしていたため,法定相続人は孫を含めた4人になりました。
 養子縁組をして相続人を増やすことで,相続税の基礎控除額が増えたり,生命保険の非課税枠が増えるなどの節税効果があります。男性が孫を養子にしたのも,税理士からのアドバイスを受けたものだったようです。
 これに対して,娘2人が,男性と孫との養子縁組は節税目的であるため無効であるとして提訴しました。 
 

2 最高裁の判断
 民法は,当事者間に縁組をする意思がないときには,養子縁組は無効とする旨規定しています。そのため,訴訟では,節税目的の養子縁組に縁組意思があるといえるのか否かが問題となりました。
 この点について,最高裁は,「節税の動機と縁組をする意思とは併存し得る」として,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合」であっても,そのことから直ちに縁組意思がないということはできないと判断しました。そのうえで,今回の事案では縁組意思がないことをうかがわせる事情はないとして,養子縁組の有効性を認めています。
 

3 節税目的の養子縁組にお墨付き? 
 今回の最高裁判決に対しては,裁判所が,従来から相続税対策の定石であった養子縁組による節税手法を追認したものと評価する記事も見受けられます。
 しかしながら,判決の読み方には注意が必要です。
 まず,今回の最高裁判所は,節税の動機と縁組意思が併存し得るとしており,節税目的の縁組が絶対に有効であると判断したわけではありません。
 そして,より重要なのは,あくまでも民法上の養子縁組の有効性に関する判断であり,「税法上,相続税を減らすための養子縁組を認めた」ものではないことです。
 民法と税法の解釈は,必ずしも一致するわけではありません。
 その証拠に,相続税法には,「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」に,相続税の計算上,養子の数の算入を否認できるという規定があります。実際には節税目的の養子縁組が否認されることは殆どありませんが,それは,「不当」という点の立証が難しいという事実上の理由にすぎません。相続税法は,専ら相続税を減少させる目的での養子縁組を認めているわけではないのです。
 今回の最高裁判決は,民法の解釈上重要な意義を有するものですが,相続税対策という文脈では誤解を招くおそれもありますので,注意が必要です。

預貯金は遺産分割の対象に含まれる?

(質問)
先日父が亡くなりました。父の預貯金を相続人間で分けようと思いますが,預貯金は遺産分割の対象に含まれますか?

(回答)
 

1 相続人全員が合意しないと預貯金を引き出せなくなる?
 先般,被相続人が金融機関に対して保有していた預貯金は,遺産分割の対象となるとする重要な判例変更がありました。
 言うまでもなく,遺産分割とは,相続人間において,被相続人の財産(遺産)を分けることです。
 一般の方からすると,被相続人の預貯金も,不動産などといった遺産と同様に,相続人間で話し合って分けるものと思われている方が多いと思います。
 しかし,従前の判例では,預貯金について,被相続人の死亡により法定相続分に従って,相続人が当然に取得するとされており(=遺産分割の対象とならない),各相続人が法定相続分に応じて,金融機関に対し,被相続人の預貯金を払い戻しすることができました(ただし,実務上は,金融機関は相続人全員の同意がなければ払戻しに応じないという対応をとることが多く,その場合,実際に払戻しを受けるには金融機関に訴訟提起する必要がありました)。
 ところが,最高裁平成28年12月19日判決は,従前の判例を変更して,被相続人の預貯金は,遺産分割の対象となると判示しています。すなわち,預貯金についても,不動産などと同じように,話し合いによってどの相続人が取得するかを話し合い,合意に達しなければ,預貯金を分けることができないということになります。この最高裁判決は,預貯金には単なる金銭債権と異なる側面がある(現金に近い)ことを念頭に,上記の判示をしていると考えられるため,他の金銭債権(たとえば,賃金債権)の場合には,従前どおり,相続開始により当然に法定相続分に応じて,各相続人が取得することになると思われます。
 

2 最高裁判例による影響
 今回の最高裁判例により,金融機関に訴訟提起しても,預貯金の払戻しを受けることができず,相続人全員の同意が得られない限り,金融機関から預貯金を払戻しすることができなくなります。そのため,相続人が多額の相続税を納付する必要がある場合でも,相続人のうち1人でも預貯金の払戻しに同意しない人がいると,その資金を確保できない事態が生じる可能性があるので,生前から対策を取っておく必要があります。 
 

3 実務の動向に要注意! 
 最近でいえば,節税目的の養子縁組を有効とした最高裁平成29年1月31日判決など,近年新しい判例が出ています。
 有効な相続対策には,新しい判例を踏まえる必要がありますので,ぜひ一度,弁護士にご相談ください。