月別アーカイブ: 2018年9月

災害と賃貸借契約・履行遅滞について

(質問)
 先日の大雨と土砂災害で会社の事務所が一部損壊してしまいました。事務所は賃貸物件なのですが、修繕は当社がしなければならないのでしょうか、大家さんがするのでしょうか。
 また、倉庫が浸水して商品の材料等がだめになったため、取引先への納期が守れなくなってしまったのですが、このような場合でも納期遅れの違約金を支払わなければならないのでしょうか。

(回答)

1 賃貸物の修繕
 賃貸人には、賃貸物を賃借人に使用収益させる責任があり、そのために必要な修繕は賃貸人の義務です。そのため、賃借人の過失によって物件が損壊した場合でなれば、原則として賃貸人が修繕費を負担することになります。
 もっとも、賃貸借契約書の中に、天災による損壊等の修繕の責任を賃借人が負担するという条項が入っている場合があります。このような条項があるからといって常にその法的効力が認められるわけではありませんが、注意が必要です。

2 賃貸物の損壊と賃料減額
 災害などで賃貸物自体が滅失した場合、賃貸借契約は履行不能によって消滅します。
 これに対して、賃貸物の一部が滅失した場合には、賃借人は、滅失した割合に応じて賃料の減額を請求することができます。また、残存する部分のみでは賃貸借の目的が達成できないときは、賃借人は契約を解除することができます。
賃借人は、賃貸人に賃貸物の修繕請求をしつつ、修繕が終了するまでの間の賃料の減額を求めることもできます。
 なお、賃貸人には賃貸物を修繕する義務がありますが、これは賃貸人自身の権利でもあります。賃貸物を修繕するために賃借人が一時退去する必要がある場合、賃借人はこれを拒絶することはできません。 

3 災害と履行遅滞
 債務者が契約期限までに債務を履行できなかった場合、履行遅滞に基づく損害賠償責任が生じたり、契約の解除事由になることがあります。
 ただし、履行遅滞として債務不履行責任が生じるのは、あくまでも債務者に帰責事由がある場合です。
 災害によって材料が滅失したことで納期に間に合わないことは、材料の保管方法が不適切であったような場合を除き、不可抗力であるといえます。そのため、今回のケースでも、原則として、債務者には過失がなく、履行遅滞の責任は生じないと考えられます。
 もっとも、契約書において、債務者が期限までの履行を保証している等、天災等の不可抗力の責任を債務者が負っていると解される場合には、損害賠償責任が生じることもあります。その意味で、災害のような事態で契約通りの債務を履行できなくなった場合の責任について、普段から契約書の条項がどのようになっているか注意を払う必要があります。

 

土砂災害と法律問題について

(質問)
 先日、数十年に一度の豪雨で、近所の山が崩れて私の所有する土地に土砂が流入してしまいました。土砂の撤去は自分の費用でしなければならないのでしょうか。自治体に撤去を求めることはできるでしょうか。
 また、土砂によって農機具が破損し、農作物にも被害が出たのですが、誰かに責任をとってもらうことはできないのでしょうか。

(回答)

1 所有権に基づく妨害排除請求
 土地の所有者は、自分の敷地に入り込んだ他人の所有物をその所有者の費用で撤去することを求めることができます。これは、所有権に基づく物権的な請求権の一種で、妨害排除請求といわれるものです。
 台風などで土砂や瓦礫が流入した場合も、その所有者が特定できる場合には、その者に撤去を求めることができます。

2 不法行為による損害賠償請求
 物権的妨害排除請求権とは別に、不法行為や土地工作物責任に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。
 不法行為が成立するのは、土砂崩れ等を起こした土地の所有者に過失が認められる場合です。客観的に大雨や台風により土砂崩れを起こす危険があり、それを何度も指摘されていたにもかかわらず、何らの措置も取らなかったような場合がこれに当たります。
 一方で、通常想定されないような豪雨のために土砂崩れ等が発生した場合には、結果を予見できたとはいい難いため、不法行為による損害賠償請求は難しいことが多いでしょう。
 また、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があったために土砂が隣地に流入してしまったような場合には、通常の不法行為とは別に、土地工作物責任として損害賠償義務が生じます。ここでいう瑕疵とは、その工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。
 建物だけでなく、道路や擁壁等も土地の工作物にあたります。これらの施工に不備があったり、老朽化していたのに修繕を怠っていたような場合には土地工作物責任に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

3 災害救助法による救助
 たとえ災害が原因であっても、原則として、私有地から私有地に流入した土砂や瓦礫等を自治体が撤去してくれることはありません。
 もっとも、災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石、竹木等で、日常生活に著しい支障を及ぼしているような場合には、自治体が撤去してくれることがあります。
 これは、災害救助法に基づく制度で、災害によって一定数以上の住家の滅失がある場合等の大規模災害時に、都道府県が適用し、自衛隊や日本赤十字社に対して応急的な救助の要請、調整、費用負担を行うものです。
 土砂等の撤去だけでなく、避難所や仮設住宅の設置、炊き出し、住宅等の応急修理等も災害救助法の救助に含まれます。

4 公的な支援制度等
 災害救助法の他にも、被災者生活再建支援法による支援金や、住宅が半壊や全壊等した場合の災害援護貸付制度等、様々な公的支援制度があります。
 今回のケースのように事業活動に損害が生じた場合でも、市町村の天災貸付制度、農協や日本政策金融公庫等の災害復旧貸付制度によって、事業資金を低金利で融資してもらうことも考えられます。