月別アーカイブ: 2018年8月

会社の経費の立替えとクレジットカードのポイント

(質問)
当社では、出張の際の旅費や備品の購入については従業員が立て替えて支払い、後で会社が実費を支給する形で清算しています。先日、社内で、会社の経費の支払いを個人がクレジットカードで決済してポイントを貯めることについて問題提起がありました。役員の中には、役得であると言う者もいれば、経費で得たポイントを私的に使うのは横領だと言う者もいます。法的には問題があるのでしょうか。

(回答)

1 原則として会社の定めたルールによる
 今回のケースのように、会社の業務に関する経費の支払いによって従業員が個人的な利益を得るのは、不公平感があることは否めません。
 そのため、法人カードで決済するようにしたり、会社の経費で付与されたポイントは次回以降の出張の際に使用する等の規定を設けている会社もあります。
 このような規定を設けているにもかかわらず、会社に帰属すべき(会社のために利用すべき)ポイント等を従業員が私的に利用した場合には、懲戒処分の対象になり得るだけでなく、(業務上)横領罪に該当する可能性もあります。
 では、特別なルールを定めていない場合には、法的な問題は生じるのでしょうか。

2 事後精算の場合
 まず、会社の経費を従業員が立て替えて会社が事後的に清算する場合に、従業員個人がポイント等の経済的利益を得ることは、不当利得ではないかという問題があります。
 しかしながら、法的には、クレジットカードでの支払いによってポイントが付与されるのは、当該カードの名義人個人とカード会社との契約に基づくものであるため、法律上の原因がないとはいえません。あくまでもポイント等が帰属するのは当該カードの名義人個人ですので、会社にポイントが帰属するわけではないのです。
 そのため、経費の支払いによって取得したポイントを従業員が私的に使っても、不当利得や横領等の問題は生じません。

3 経費前払いの場合
 では、経費を会社が事前に支払っている場合はどうでしょうか。
 この場合、経費の支払いに充てるべき資金を事前に支給しているのですから、あえてクレジットカード等の他の決済手段を用いる必要はありません。
 個人のクレジットカードを使用したことによって付与されたポイントは当該従業員個人に帰属しますが、事前に支払いを受けたお金を経費の支払いに充てないことが問題です。使途を定めて支給したお金を私的に利用するのですから、理論的には(業務上)横領罪に当たり得ます。
 もっとも、金額や当該会社での従前の取扱い等にもよりますが、現実的には、横領罪として立件したり、懲戒処分の対象とすることは難しい場合が多いといえます。クレジットカードによる支払いの禁止を明確に定めていない以上、会社は、前払いされた資金を経費の支払いに充てずにクレジットカードで支払いをすることについて許容する趣旨であると考えることもできるからです。
 経費に関するルールについては、やはり、社内規定を設けて明確にしておくことが肝要といえるでしょう。

死後事務委任契約とは

(質問)
 私は長年独り暮らしで、親族とは疎遠で付き合いがありません。年齢と健康上の問題があり、自分が死んだ後のことを考えているのですが、葬式などを頼めるのは親しい友人だけです。友人に死後の手続を任せるためには、死後事務委任契約を締結しておけばよいと聞いたのですが、これはどのような契約なのでしょうか。

(回答)

1 死後事務委任契約とは
 死後事務委任契約とは、文字どおり、死亡した後の事務的な手続を委任する契約です。主に、役所への届出や親族・知人への連絡、葬儀・埋葬の手続や支払い、生前の医療費の清算等の事務を委任するものとされています。
 通常は親族がこのような事務を行いますが、相続人がいない場合や遠方に住んでいる等の場合には問題となります。死後の事務手続について遺言の内容に盛り込むことも考えられますが、遺言は一方的な意思表示ですので、付言事項として死後の事務を誰かに任せも法的拘束力はありません。
 そこで、予め、自分が死んだ後に必要となる諸手続を誰かに委任しておくことが有用です。
 ここで、民法第653条が、委任契約は委任者の死亡によって終了する旨規定していることとの関係が問題となりますが、委任者が死亡しても契約を終了させないという合意も有効であるとする最高裁判例があり、実務上、死後の行為を委任する契約も有効であると考えられています。

2 死後事務委任契約の有効性
 さて、死後の委任契約が一般的に有効であるとしても、どのような委任内容であっても常に有効というわけではありません。死後の委任契約は、内容によっては、遺言等の他の民法上の制度と矛盾・衝突しうるからです。
 もっとも問題となるのは、遺言制度との関係です。
 民法は、遺言の方式を厳格に定めており、形式要件を満たさない遺言の法律的な効果を認めていません。これに対して、死後事務委任契約は方式が定められておらず、口頭でも有効に成立します。
 そうすると、死後事務委任の内容として財産の処分を委任するのは、民法が厳格に定めた遺言制度を潜脱することになるのではないかという問題があります。
 この点について、実は、判例も学説もそれほど議論が煮詰まっておらず、どのような範囲で死後事務の委任が有効なのかについては、明確な基準がないのが現状です。
 死後事務委任契約の内容として、遺品整理などの名目で、単なる事務手続にとどまらない財産の処分行為が含まれる場合もありますので、その有効性について注意する必要があります。
 また、相続人がいる場合には、死後事務委任契約の委任者の地位も相続人が承継することになります。委任者はいつでも委任契約を解除できますので、相続人は死後事務委任契約を解除できるのかという論点もあります。
 最近は、任意後見契約とともに死後事務委任契約が結ばれることが多くなっているようですが、ケースに応じて、その内容と有効性を具体的に検討する必要があります。