月別アーカイブ: 2017年1月

交通事故と法律について

(質問)
交通事故と法律について教えてください。

(回答)

1 交通事故は誰にでもリスクがある! 
 交通事故は,大変残念ながら,身近なリスクと言わざるを得ません。県内の交通事故発生件数ですが,平成28年9月26日現在で,人身事故が6,635件,内死者数が54人となっています。いつ,誰が交通事故の加害者,或いは被害者になってもおかしくはありません。そこで,今日は,不幸にも交通事故の加害者,或いは被害者となってしまった場合に備え,交通事故と法律について,考えてみたいと思います。

2 交通事故が起きてしまった場合に,当事者がとるべき措置 
 まず,交通事故が起こってしまった場合,当事者(加害者,被害者)は,次の措置をとらなければなりません。
 ①直ちに,車両等の運転を停止する。
 ②負傷者を救護する。
 ③危険防止措置(例:後続車を誘導,事故発生を知らせる等)をとる。
 ④交通事故の状況等を警察へ通報(報告)する。
 仮に,①~③の措置をとらなかった場合,人身事故の場合は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金,被害者の死傷がドライバーの運転が原因の場合は,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という,非常に重い刑に処せられる可能性があります。また,物損事故の場合は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 また,④の措置をとらなかった場合は,3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 交通事故に遭遇すると,焦りからか,何もせずにその場を離れてしまうという例が後を絶ちませんが,まずは冷静になり,負傷者の救護や警察への通報をするよう,心がけましょう。
 なお,警察への報告は,道交法上の義務というだけにとどまらず,別の意味でも非常に重要です。それは,警察に交通事故の報告をしないと,「交通事故証明書」が入手できなくなるからです。交通事故証明書とは,交通事故があった事実を公的に証明する文書で,自動車安全運転センターで入手できるものです。交通事故証明書は,保険会社へ保険金を請求する場合に必要となる文書ですので,大変重要な文書といえます。
 警察への通報は,道交法上の義務とはいえ,実際には,軽い接触事故や物損だけの事故等ではなされないことも多々あるようです。しかし,事故直後には予期できなかった損害が後から発生することもありますので,保険金の請求という面からも,交通事故に遭った場合は,まずは警察への通報を行うということを忘れないでください。

3 事故現場でやっておくとよいこと 
 交通事故の被害者となった場合を想定し,交通事故現場で行っておくとよいことを整理したいと思います。
 交通事故の被害者となった場合,加害者へ損害賠償を請求することができます。この場合,損害賠償を請求する側で,どのような損害が発生したかを主張立証しなければなりません。警察が到着すれば,実況見分調書等を作成してくれますが,それまでの間でも,事故の状況の写真撮影をしたり,事故の目撃者がいれば,警察が到着するまで待つよう依頼したり,加害者との会話を録音する等の証拠収集を行っておくとよいでしょう。事故が発生した後,危険防止措置として,現場を片付けることもあるでしょうから,事故直後の車両や現場の様子を,写真撮影しておくことは後から役に立つ可能性があります。
 また,事故と利害関係のない第三者の証言は信頼度が高いため,目撃者がいる場合には,警察到着まで待つよう依頼すべきですし,それが無理なら連絡先を尋ねる等すべきでしょう。
 更に,加害者の言い分は,時の経過と共に変遷することもあるため,事故直後の言い分を録音できるのであれば,録音すると役に立つときもあります。最近は,スマホ等で簡単に写真撮影等ができますから,警察が来るまでの間でも,できる限りのことはしておきましょう。
 逆に,事故直後にしてはいけないことも覚えておいてください。それは,示談書の作成です。簡単な事故の場合,早めに処理を終わらせたいとの思いから,その場で示談をしてしまう方もいらっしゃるようです。ただ,事故直後は,互いの過失割合や,損害額,また,事故が身体に影響を及ぼしていないか等が正確に分からない状況ですので,そのような状況で示談書を作成することは危険です。示談書を作成すると,後から示談書と異なる内容の主張をすることは困難となります。性急な判断をすることがないよう,気をつけましょう。

 今回は,交通事故発生直後に気をつけるべき諸点についてお話をしました。次回以降は,損害賠償請求に関する諸点につき,お話ししようと思います。

 

労働者派遣法の法改正について

(質問)
 労働者派遣法が改正されましたが,法改正の内容を教えてください。

(回答)

1 派遣労働の期間制限が変わる 
 先般,労働者派遣法の改正法案が国会で可決され,平成27年9月30日に施行されました。
 現在,労働者派遣の期間制限については,ソフトウェア開発や通訳など,専門的な知識技術を必要とする26の業種を除いて,上限が原則1年(最長3年)となっています。   
 今回の改正は,業種による区別を廃止し,事業所単位の期間制限と,個人単位の期間制限を新設するものです(ただし,施行日時点で既に締結されている労働派遣契約については,その労働派遣契約が終了するまで,改正前の法律の期間制限が適用されます。)。

2 事業所単位の期間制限 
 事業所単位の期間制限としては,同一の派遣先の事業所に対し,派遣期間は原則3年が限度となります。業種による区別がなくなりますので,現在は期間制限のない専門26業種も含まれることになります。
 そして,派遣先が期間制限を超えて派遣労働者を受け入れようとする場合は,派遣先の過半数の労働組合等から意見を聴く必要があります。この手続きが行われないと,3年を超えて派遣を受け入れることはできませんので,派遣先会社としては,労使間で派遣の受け入れの継続の是非について話し合いをすることが重要になってきます。

3 個人単位の期間制限 
 同一の派遣労働者を,派遣先の事業所における同一の組織単位(課)に対し派遣できる期間は,原則3年が限度となります。
 そのため,派遣先が過半数労働組合等から意見聴取により3年を超えて派遣利用を行う場合であっても,個人単位では3年ごとに課を変更しなければならないことに注意が必要です。

4 労働契約の申込みみなし制度 
 平成24年の改正から施行が猶予されていた,労働契約の申込みみなし制度も本年10月1日から施行されます。これは,派遣先が,違憲派遣を受け入れた場合に,派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされるものです。
 具体的には,①労働者派遣の禁止業務に従事させた場合,②無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合,③派遣可能期間を超えて労働者派遣を受け入れた場合,④いわゆる偽装請負の場合,その時点で,派遣先が派遣労働者に対して,派遣元の労働条件と同一の労働条件を申し込んだものとみなされます。

バスやタクシーなどの自動車運転者の労働時間について

(質問)
 バスやタクシーの長時間労働が問題になっていますが,法律上の規制はどのようになっているのですか?

(回答)

1 バスやタクシーの特例 
 バスやタクシーは,他人を乗せることが仕事です。特に高速バスであれば,高速道路という「便利だが危険」な道路を運行することになります。そのような職業も上記と同じように,長時間の勤務でも適法となるのでしょうか。
 タクシー,バス,トラックなどの自動車運転者の労働時間については,長時間の加重労働となりやすいことや,そのために交通事故が惹起されるおそれがあるため,通常の労働と異なる規制が告示によって設定されています(平成元年2月9日付労告7号「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)。

2 基準内容 
 1日の拘束時間は13時間以内を基本とし,これを延長する場合であっても16時間が限度です。また,1日の拘束時間を原則13時間から延長する場合であっても,15時間を超える回数は1週間につき2回が限度です。
 また,休息時間は1日継続8時間以上必要です。
 休日は,休息期間+24時間の連続した時間をいいます。いかなる場合であってもこの時間が30時間を下回ってはなりません。
 休息期間は原則として8時間確保されなければならないので,休日は,「休息期間8時間+24時間=32時間」以上の連続した時間となります。
 また,運転時間の限度もあり,1日の運転時間は2日(始業時刻から48時間をいいます。)平均で9時間が限度です。1週間の運転時間は2週間ごとの平均で44時間が限度です。
 連続運転時間は4時間が限度です(運転開始後4時間以内または4時間経過直後に運転を中断して30分以上の休憩等を確保する必要があります。運転開始後4時間以内または4時間経過直後に運転を中断する場合の休憩等については,少なくとも1回につき10分以上としたうえで分割することもできます。)。

3 長時間労働のリスク 
 バスやタクシーに限らず,事故のリスクがある職業については,長時間労働に伴う疲れや居眠り等のもたらす重大なリスクを企業側も十分認識する必要があります。