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隣人の防犯カメラ設置

(相談事例)
 先月、隣に住むYが自宅に防犯カメラを設置したのですが、レンズがX宅の方向を向いているため、Xは日常生活を監視されているような不快感を抱いています。
 このような状況において、Yに対して防犯カメラの撤去を求めることは法的に可能でしょうか。
 また、精神的苦痛に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

(回答)

1 プライバシー権
 プライバシー権は人格権の一種であり、憲法第13条を根拠とする重要な権利です。
 この権利は、個人が自由に自己決定を行い、私生活の平穏を保つことを保障する側面を有するものです。
 判例においても、個人が承諾なく容貌や姿を撮影されない権利が認められています。
 昭和44年の最高裁判決では、私生活上の自由の一つとして、何人も承諾なく容貌や姿態を撮影されない権利を有すると明確に示されました。
 さらに平成17年の最高裁判決においても、自己の容貌等をみだりに撮影されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益が存在すると判断されています。
 これらの判例から、個人のプライバシーが法的に保護される重要な権利であることを確立したといえるでしょう。

2 裁判例
 過去の裁判例(東京地裁平成27年11月5日)で、隣人が自宅建物1階に防犯カメラを設置した際、その撮影範囲に隣家の玄関付近が含まれていたため、隣家の住人がプライバシー侵害を理由にカメラの撤去を求めた事案があります。
 この事案において、裁判所は、個人には自己の容貌等をみだりに撮影されないという法的保護に値する人格的利益があると認めた上で、承諾なく撮影する行為が違法となるかは、撮影場所、範囲、態様、目的、必要性、画像管理方法などの事情を総合的に考慮し、被撮影者の人格的利益侵害が社会生活上の受忍限度を超えるか否かで判断すべきとしました。
 そして、カメラは固定式で特定の人物を追跡したり監視し続ける機能はなく、設置目的は防犯であり、映像は約2週間保存された後に自動的に上書きされる仕組みとなっていることを認定した一方、カメラに隣家の玄関入口付近の様子が映り、出入りする人物の顔は識別できない程度ながらかなり鮮明に撮影されており、隣人らが公道に出るまでの通行場面が継続的に撮影されていたことを認定した上で、撮影場所が屋外であることを考慮しつつも、隣人らの玄関付近という私的領域が撮影範囲に含まれ、日常生活が常時撮影される状況にあることから、プライバシー侵害の程度は大きいと判断し、カメラの撤去と損害賠償を認めました。

3 相談事例について
 上記裁判例の考え方によれば、カメラ撮影によるプライバシー侵害の違法性は、撮影が行われる場所、撮影範囲・画角、撮影の態様や目的、必要性の有無、撮影データの管理方法等の諸要素を総合的に考慮し、当該撮影により、Xの人格的利益侵害が社会生活上の受忍限度を超えるか否かで判断されます。
 相談事例においても、防犯カメラがX宅のどの部分まで映しているか(敷地内部が常時鮮明に映されているか否か等)、防犯目的として当該角度・範囲の撮影が客観的に必要であるといえるか、撮影された映像データが適切に保管・管理されているかといった点等が重要な判断要素となります。
 仮に、Yが設置した防犯カメラがX宅の居住空間や日常生活の様子を継続的かつ鮮明に記録し、かつそのような撮影が防犯上の必要性を欠く場合等には、Xのプライバシーに対する人格的利益侵害が受忍限度を超えるものとして、カメラの撤去請求や損害賠償請求が認められる可能性が高いと考えられます。

4 さいごに
 自宅への防犯カメラの設置は昨今の治安不安から増加していますが、隣人等のプライバシーへの慎重な配慮が必要です。
 相談事例のような争いを予防するには、設置者が事前に撮影範囲を確認し、必要に応じて隣人に撮影目的を説明すること、撮影範囲を必要最小限に限定すること等が望ましいといえます。
 隣人トラブルなどでお困りの際には、専門家である弁護士にご相談ください。