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未成年者による契約の取消について

(質問)
未成年の息子が、久々に旧友に会い、いい儲け話があると言われ、学生ローンを組んで勝手に契約し、高額な商品を購入してしまいました。契約を取り消すことは可能でしょうか。

(回答)

1 未成年者は契約を取り消せる?
民法では,未成年者,つまり20歳未満の者は,判断能力が未熟だと考えられて,行為能力,つまり法律行為を自分1人で確定的に有効に行うことができる資格が制限されています。
 具体的には,未成年者が契約などの法律行為をするには,原則として,保護者である法定代理人の同意が必要とされています。そして,未成年者が法定代理人の同意を得ずに法律行為をした場合,当該未成年者とその法定代理人(以下「未成年者等」といいます。)は,法律行為を取り消すことができます。
 法律行為の取消しは,未成年者等が,相手方に対して法律行為を取り消すとの意思表示をすることによって行います。取消しの意思表示は口頭でも有効ですが,意思表示の有無をめぐって後々争いになるのを防止すべく,書面で行った方が安全でしょう。書面を郵送する際は,内容証明郵便で郵送するのが一番確実ですが,多少費用がかさみますので,費用を抑えようと思えば,送付した書面の写しをとった上で,特定記録か書留で郵送することをお勧めいたします。

2 未成年者取消権の効果
法律行為を取り消すと,法律行為が初めから無効であったものとみなされます。そのため,例えば,未成年者が売買契約を取り消したとすると(買主が未成年者),未成年者は,相手方から支払い済みの売買代金の返還を受けることができます。他方,未成年者は,相手方に対し,商品を返還する必要があります。
 なお,未成年者保護の観点から,未成年者は,受け取った商品を「現に利益を受けている限度」で返還すれば足りるとされています。そのため,未成年者が商品の一部使用していたとしても,使用済みの商品を返還すればよいことになります。

3 未成年者であれば誰でも契約を取り消せる?
では,未成年者であれば,無条件でどんな契約でも取り消せるのでしょうか。実は,未成年者が行った契約のうち,いくつか取り消せない場合があります。
① 未成年者が権利を取得するだけか,義務を免れるだけの契約は取り消すことができません。例えば,未成年者が債務免除を受ける場合などです。この場合は,未成年者にとって有利になることはあっても,不利益になることはないからです。
② 法定代理人から処分を許された財産の処分です。例えば,教材を購入するようにと渡された金銭で教材を購入した場合や,お小遣いのように,未成年者が自由に使用することを許された金銭で商品を購入したような場合です。
③ 未成年者が,法定代理人から営業を許された場合は,その営業に関する法律行為は単独で有効に行うことができます。営業を許されたとしても,営業に関する法律行為を単独で有効にできなければ,営業を許された意味がないからです。
④ 未成年者が結婚をしている場合は,成年とみなされますので,未成年を理由とした法律行為の取消しはできません。
⑤ 未成年者が,自己に行為能力がある(成年に達している)と信じさせるために詐術を用いた場合には,契約を取り消すことはできません。このような未成年者は,保護に値しないからです。

4 いつまで取消権を行使できる?
取消権には,行使期間の制限が設けられています。すなわち,未成年者による取消権は,「追認をすることができる時」,すなわち成年に達したときから5年間行使しないと時効によって消滅するとされています。また,「行為の時」から20年を経過したときも同様とされています。
 取消権行使に期間制限があることには注意が必要です。

5 成年年齢の引き下げ
皆様もご存じのことと思いますが,成年年齢を20歳から18歳に引き下げるとの法律は既に成立しており,2022年4月1日から施行されることになっています。そのため,2022年4月1日の時点で,18歳以上20歳未満の方は,その日に成年に達することになります。
 これにより,18歳,19歳の方であっても,親の同意を得ずに,様々な法律行為をすることができるようになります。
 なお,2022年4月1日より前に18歳,19歳の方が親の同意を得ずに締結した契約は,施行後も引き続き,取り消すことができます。