月別アーカイブ: 2021年10月

売主の担保責任と契約書作成のポイント

(質問)
 Xは、自家用車としてYから中古車を購入し、引き渡しを受けました。数日後、Xがその中古車を運転していると、エンジンが不具合を起こして動かなくなりました。原因を調査したところ、購入前からエンジンに不具合があったことが判明しました。XはYに対してどのような法的請求ができるでしょうか。 

(回答)

1 売主の担保責任
 「瑕疵担保責任」という言葉が浮かんだ方もいるかもしれませんが、ご存じのとおり、2020年4月1日に施行された改正民法で、「瑕疵担保責任」は姿を消し、「契約不適合責任」の規定に改められました。民法では、売主が買主に対して売買の目的物を引き渡した場合、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対して①追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④解除権の行使ができる旨規定されています(民法562条から564条)。これは、「契約不適合責任」などと呼ばれます。従来の瑕疵担保責任との違いは、「隠れた瑕疵」という文言がなくなったこと、①追完請求、②代金減額請求が新設され、買主の救済方法の選択肢が増えた点が挙げられます。
 事例では、Xは中古車を自家用車として購入しており、不具合がなく走行できる車であることが契約の内容となっています。本件中古車はエンジンの不具合で動かなくなったため、その品質は契約の内容に適合していません。したがって、XはYに対して①~④の請求ができる可能性があります。

2 履行の追完請求
 目的物に契約の不適合がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できます。この際に、追完の方法は買主が選択できますが、売主は買主に不相当な負担を課するものではないときにはそれと異なる方法により履行の追完をすることができます。XはYに対して中古車の修理、契約の内容によっては代替物の引渡しを求めることもできます。

3 代金減額請求
 目的物に契約の不適合がある場合、買主が相当な期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がないときなどには、買主は、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。XがYに対して修理や代替物の引渡しを求めたが、これに応じない場合、XはYに対し、代金減額請求ができます。すでに代金を支払っている場合は、減額した金額について、不当利得返還請求ができると考えられます。

4 損害賠償請求及び解除
 目的物に契約の不適合がある場合、買主には、追完請求権及び代金減額請求権が認められますが、それによって債務不履行による損害賠償請求権及び解除権の行使は妨げられません。XはYに対して、解除権の行使や損害が生じた場合には損害賠償請求ができます。

5 契約書作成のポイント
 民法改正により買主の救済方法が増えましたが、かえって、目的物の修補の方法、代替物の引渡しの可否、代金減額の算定方法など多様化した救済手段に関連するトラブルが増加するのではないかと予想しています。
契約書を作成する際の重要なポイントは、売主の担保責任の規定が任意規定であるため、法律上の制限がない限り、当事者間の合意でこれと異なる定めができることです。例えば、追完請求や代金減額請求を排除したり、追完請求の方法や代金減額の算定方法を予め合意したりすることもできます。売買契約書を作成する際には、予め、契約の不適合があった場合にどのように処理するか定めておくことで、売主のリスクを軽減できます。買主も契約の不適合があった場合の処理について予め合意しておけば、不要なトラブルを避けることができます。ただし、買主側で契約書を作成する際には、救済方法が過度に制限されていないかに注意する必要があるでしょう。

 お困りの際は,弁護士にご相談ください。

従業員の自転車通勤

(質問)
 当社では,多くの従業員が自転車で通勤しています。従業員が自転車で通勤中に交通事故を起こした場合,会社も責任を負うことがあるのでしょうか。 

(回答)

 公共交通機関や自動車で通勤していた人が,通勤ラッシュや渋滞がない,運動になる,環境にやさしいなどの理由で自転車通勤にするということもあるようです。また,いわゆるコロナ禍において,公共交通機関を避けたいという思いから自転車通勤にする人も少なくないと聞きます。

1 使用者責任
 従業員が加害者となる交通事故であっても,事故が会社の事業の執行について発生したといえる場合,会社も損害賠償責任を負います(使用者責任,民法715条1項)。例えば,従業員が社用車に乗って業務中に交通事故を起こした場合であれば,事故が事業の執行について発生したといえ,使用者責任が成立することになるでしょう。
 それでは,従業員の自転車通勤中の交通事故は,事業の執行について発生したといえるでしょうか。通勤に限っていえば,従業員があくまでも個人的な便宜のために自転車を通勤に利用していたということであって,事業の執行について発生したとはいいにくいのではないかと思います。
 ただし,自転車が業務にも利用されていて,会社もそれを容認していたというような場合は,事情が異なってきます。この場合,自転車が社用車に近くなってくるためです。したがって,会社としては,従業員の交通安全意識を高めるだけでなく,通勤用の自転車は業務に利用しないように徹底する必要があるといえます。

2 自転車事故の損害額
 ところで,自動車事故と比較すると,自転車事故は損害額が小さいイメージがあるかもしれません。一般的に,自動車事故の方が衝撃も大きいでしょうから,発生する損害も重大になり,損害額も大きくなる傾向があるとはいえます。
 しかし,損害額は発生した損害によって決まるのであって,自動車だから,自転車だからということによって決まるわけではありません。自転車事故であっても,後遺障害事案や死亡事案になれば,損害額が数千万円に上ることもあるのです。
 最近は,スポーティーな自転車がかなりのスピードで走行しているのを見て,ちょっと怖いなと感じることもあります。接触や衝突の仕方によっては,十分に危険だと思います。

3 自転車保険
 そうすると,自転車であっても自動車と同じような保険に加入しておく方がよいですし,加入しておくべきだということになります。
 岡山市では,令和3年4月1日から,自転車利用者や事業者に対して自転車保険の加入を義務づける条例が施行されました。罰則はありませんが,この機会に,会社の自転車には自転車保険をかけ,自転車通勤の従業員には自転車保険の有無を確認しておくのがよいと思います。

 お困りの際は,弁護士にご相談ください。