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公益通報者保護法の改正にいかに向き合うべきか?

(質問)
 公益通報者保護法が改正されたと聞きましたが、どのような法律なのか教えてください。

(回答)

1 公益通報者保護法の改正
公益通報者保護法の改正法が令和4年6月1日に施行されたことはご存じでしょうか。公益通報者保護法とは、事業者の違法行為を内部通報した通報者を事業者による解雇等の不利益取扱いから保護する法律です。改正法では、事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制整備等の義務付け、その実効性確保のために行政措置の導入、通報する要件の緩和等の改正がなされました。そこで、今回は、改正法の内容とこれに対して企業がとるべき姿勢についてお話しします。

2 通報対応体制整備義務の新設
改正法では、事業者に対し、通報体制を整備することを義務付ける規定が新設されました。具体的には、①公益通報を受け、当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及び、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者(公益通報対応義務従事者)を定めること、②公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることを義務付けられました(通報対応体制整備義務)。企業は、消費者庁が公表している指針に従って通報対応体制整備等の措置をとる必要があります。ただし、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者(中小事業者)については努力義務です。

3 通報対応体制整備義務のポイント
通報対応体制整備につき、指針によれば、次のような措置をとる必要があります。通報受付窓口の設置、通報があった際の調査の実施、調査の結果、違法行為があった場合、是正措置を講じることが求められます。また、通報者の不利益取扱いを防止する措置や情報の範囲外共有を防止する措置、通報者の探索を防止する措置など公益通報者を保護する体制の整備が必要です。さらに、内部通報対応体制に関する教育、周知や内部規程の策定など内部公益通報体制を実効的に機能させる措置が必要になります。企業は、指針で求められる事項につき、公益通報対応規程を作成するなど公益通報があった場合に備えておかなければなりません。

4 中小事業者の努力義務とは?
通報対応体制整備義務が適切に履行されているかを確認するために、内閣総理大臣は、事業者に対し、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができます。また、報告徴収に応じない場合や虚偽報告に対しては過料が課されます。そして、労働者の数が300人を超える事業者については、勧告に従わない場合、勧告に従わない旨を公表することができます。中小事業者は努力義務ですが、これに関しては、勧告に従わない場合、公表されるか否かが違うにすぎません。中小事業者も通報対応体制の整備に努めることを求められているということです。もっとも、どの程度の整備すべきかは、企業の規模ごとに検討する必要があるでしょう。例えば、労働者が少数の会社で内部に独立性の高い相談窓口の設置といった措置をとることは現実的ではありません。

5 その他の改正内容
その他に行政機関等への通報を容易にし、通報者をより保護する改正がなされました。以下で簡単に説明します。公益通報者として保護される者に、退職1年以内の退職者や原則として調査是正措置をとることに努めたことなどの一定の要件のもとで役員も追加されました。また、改正前は、対象法律に規定する罪の犯罪行為の事実が通報対象事実でしたが、改正法はこれに過料を理由とされている事実を追加して、通報対象事実の範囲が拡大されました。さらに、2号通報(処分又は勧告等をする権限を有する行政機関への通報)、3号通報(報道機関等への通報)の要件が緩和されました。加えて、改正前は、公益通報により事業者が損害を受けた場合の通報者の損害賠償責任を免除する規定は存在しませんでしたが、改正法では、事業者は公益通報により損害を受けたことを理由として、通報者に対して損害賠償請求をすることができないとしました。

6 企業はチャンスとらえるべし
事業者の不祥事が後を絶たず、コンプライアンスの徹底が求められる世の中で、今回の法改正は、「遅きに失した」という印象です。企業は、「なぜ密告者を守るんだ」などと否定的に捉えてはいけません。「人財」不足の時代に、法令も守れない企業に優秀な「人財」は集まりません。また、内部通報制度の整備には、社内の不正の早期発見、未然防止といった自浄作用の向上、ステークホルダーの企業への信頼感の向上といったメリットがあります。企業は、今回の法改正を自社のコンプライアンス体制を見直すチャンスととらえ、通報がなされないような企業体制の整備に努めるべきです。法令順守は当たり前とし、SDGsを含めた社会の期待に応えるような企業体制を整えましょう。公益通報者保護法の改正に備えた規定の整備、相談窓口の設置の通報対応体制の整備などでお困りの際には弁護士にお気軽にご相談ください。