令和6年6月に、育成就労制度に関する法律が国会で可決・成立し、3年以内に法律が施行されると聞きました。
現在の外国人技能実習制度が育成就労制度へと変更されるとのことですが、具体的にどのような制度に変わるのでしょうか。
(回答)
1 技能実習制度の問題点
外国人技能実習制度は、平成5年に導入され、日本の技術や技能を開発途上国へといった国際貢献を目的としていました。
しかし、実際にはその機能を十分に果たせず、以下のような問題が指摘されていました。
まず、技能実習生の労働環境として低賃金かつ過酷な状況に置かれ、長時間労働が常態化していました。
また、ハラスメントの横行や賃金未払いといった問題も頻発しており、実習生には「やむを得ない事由」がなければ転職の自由が認められておらず、劣悪な環境でも働き続けざるを得ない状況にありました。
また、多くの技能実習生は、母国の送り出し機関に高額な手数料を支払い、借金を負って来日しているため、不利な労働条件であっても簡単に辞めることができません。
その結果、過酷な環境から逃れるために失踪する技能実習生が増加し、不法就労に至るケースが後を絶ちません。
実際に、令和5年に失踪した技能実習生は、約1万人にも上り過去最多の人数となっています。
2 育成就労制度について
育成就労制度は、上記の技能実習制度の問題点を改善し、外国人労働者の権利を保護しながら、日本の人材不足を補うことを目的としています。
単なる労働力の供給ではなく、日本国内での「人材育成」と「適正な雇用」を両立させる仕組みとして設計されました。
技能実習制度との主な比較は以下のとおりです。
育成就労制度では、従来の技能実習制度に比べ、転職の要件が緩和され、一定の条件はあるものの、業務分野が同じであれば本人の希望で転職が可能となり、不適切な労働環境からの脱却が容易になります。
また、企業や監理団体への監査体制を強化し、ハラスメント防止や賃金の適正支払いなど、外国人労働者の権利保護を徹底します。
さらに、送り出し機関の規制を強化し、高額な手数料による過剰な負担を防ぐことで、借金を負って来日するリスクを軽減します。
加えて、日本語教育を充実させ、労働者の能力向上とキャリア形成を支援します。
最後に、受け入れ企業には研修プログラムや指導体制の整備が義務付けられ、外国人労働者の適切な育成を促す仕組みとなっています。
3 今後について
現代では、IoTやAIの発展により仕事の効率化・自動化が進んでいますが、製造業、建設業など、人の労働力が依然として不可欠な分野も多く存在します。
日本では少子高齢化による労働人口減少が続いており、外国人労働者の受け入れは今後さらに重要性を増すと考えられます。
その結果、企業が外国人労働者を選ぶ時代から、外国人労働者が企業を選ぶ時代へと移行することになるでしょう。
技能実習制度から育成就労制度への転換は、企業にとって有益な人材を確保する観点から、必要な制度改革であると考えられます。
制度の見直しにより、企業と外国人労働者双方にとってより良い環境を整備することが期待されます。
もっとも、文化の違いなどに起因する労使間のトラブルが増加することも予想されます。
外国人労働者のことでお困りの際には、早めに弁護士等の専門家に御相談ください。