月別アーカイブ: 2021年12月

従業員の休職への対応について

(質問)
 従業員が精神疾患で欠勤をしていますが、休職、解雇等、どのように対応すればよいでしょうか。

(回答)

1 休職制度とは?
 そもそも、従業員が私傷病で働けない状態であることは、労働契約の内容である労務提供ができない状態です。労務提供ができないということであれば、通常は解雇することが考えられます。
 しかし、解雇は簡単にはできないと聞いたことがある方も多いかもしれませんが、解雇は、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、解雇権の濫用として無効とされる場合があります。そして、多くの会社では、従業員の長期雇用を前提としていますので、私傷病で働けないことから、労務提供ができないとして直ちに解雇することは、解雇権の濫用にあたる可能性があります。
 そこで、実務では、私傷病欠勤を理由に直ちに解雇するのではなく、一定期間の猶予を与えて回復を待ち、それでもなお回復しない場合に労働契約を終了する制度として休職制度が設けられてきました。

2 休職規定について
 休職規定の内容は会社によってさまざまですが、例えば、勤続年数に応じて、6ヶ月から1年半程度の休職期間を設け、休職期間が満了したときには、当然退職の扱いとすることが考えられます。当然退職とすることで、解雇の際のトラブルが生じにくいということになります。
 また、休職期間中の給与は無給としている会社が多いと思われます。なお、従業員が健康保険に加入している場合には、傷病手当金が支給されることになります。

3 復職の基準とは?
 復職はどのような場合に認めればよいのでしょうか。一般的には、従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復する必要があると考えられています。復職可能かどうかはトラブルになりやすいので、会社指定医への受診を行わせる等の復職の手続を明確にしておくことが必要です。

4 就業規則に休職規定がない場合には?
 万が一、就業規則に休職規定がない場合には、私傷病により欠勤している従業員を直ちに解雇することになるのでしょうか。
 先に述べたとおり、解雇には客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。したがって、解雇が無効とされないように、休職規定がない場合でも、休職に相当する期間については欠勤を認めて解雇を猶予するなどしておき、その期間を待って解雇に踏み切るといった対応が考えられます。

 お困りのときは、弁護士にご相談されることをお勧めします。

従業員の秘密保持-秘密情報流出のリスクに備える-

(質問)
 当社を退職予定の従業員が、退職後において、在職中に得た秘密情報を悪用しないかどうかが心配です。秘密情報の悪用を防ぐには、何か方法はあるでしょうか。

(回答)

1 転職をめぐる秘密流出のリスクが増加している!
 令和3年6月、大手回転すしチェーンを運営する会社の社長について、自身がかつて取締役を務めていた同業他社の元同僚から営業秘密を受け取っていた疑いがあるという報道がされました。
 従来の終身雇用制度が崩れつつあり、転職が増加する昨今において、このような転職をめぐる秘密情報の漏えいは増加傾向にあると言われています。
IPA(情報処理推進機構)の営業秘密管理に関する実態調査によれば、様々な情報漏えいルートのうち、「中途退職者による情報漏えい」は平成28年の調査では28.6%であったところ、令和2年の調査では36.3%に増加しており、すべての情報漏えいルートの中で最多のものとされています。

2 従業員は秘密保持義務を負う?
 ところで、そもそも、従業員は企業に対し秘密保持義務を負うのでしょうか。
 まず、その情報が不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるものである場合には、従業員は、在職中であると退職後であるとを問わず、これを不正に取得し、利用や開示をすることは、法律上禁止されています。そして、従業員がこの法律に違反した場合、企業はその従業員に対し、漏えい行為の差止め、損害賠償や信用回復の措置を求めることができます。
 ただし、ある情報がこの不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるというためには、その情報が①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3つの要件を充たすものであることを企業が立証しなければならず、これが認められるには相当程度高いハードルがあるといえます。
 それでは、「営業秘密」にあたるとはいえない秘密情報については、どうでしょうか。「営業秘密」にあたらない秘密情報について、法律上、その不正な使用や開示などを直接禁止する規定はありません。もっとも、在職中の従業員については、労働契約法に定められた信義則上の義務として、企業の秘密を保持する義務があるとされています。他方、退職後の従業員に関しては、悪質な態様の場合を除いて、秘密情報の使用や開示も自由競争の範囲であるとみなされてしまうことが一般的です。
 そこで、退職後の従業員に対し秘密保持義務を課し、また、在職中・退職後を問わず従業員が保持すべき秘密情報の範囲を明確にするためにも、従業員の在職中に、従業員との間で秘密保持契約を締結しておくことが有効です。

3 秘密保持契約書を作成しよう
 秘密保持契約は、従業員との間で秘密保持契約書を作成することによって締結します。その際、最も重要なのは、「秘密情報」の範囲を明確かつ具体的に特定することです。この点が曖昧であればトラブルの元になりますし、漠然と広く秘密保持義務を課す契約は、無効と判断されてしまう可能性があります。また、従業員の退職後も将来にわたって秘密保持義務を負わせるには、期間の定めのない契約とすることが有効です。
 なお、従業員の秘密保持義務は、個々の従業員と秘密保持契約を締結することのほか、就業規則で定めることも可能です。もっとも、就業規則でこれを定めた場合、就業規則そのものが従業員に周知徹底されていなければ秘密保持を定めた条項も有効なものとみなされないこととなりますので、注意が必要です。このような点が争われた場合に備え、やはり、個別に秘密保持契約書を作成しておくことがより望ましいと考えられます。

4 情報化社会の中で安全な経営を目指す
 秘密情報は、競業などに利用されるのみならず、インターネット上に流出させられる危険性もあるところ、SNSの普及により情報が拡散されやすくなっている現代において、秘密情報をしっかりと守る体制を整えることは、企業にとってとても重要です。

 秘密保持契約書の作成や従業員の秘密保持を始めとした秘密情報の管理についてお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。