遺言書を隠匿したらどうなる?

(質問)
 父が亡くなり、遺言書が見つかりました。しかし、あまりにも私に有利な内容の遺言であったことから、兄や弟と揉めるのも嫌なので、遺言書を隠してしまいました。
 遺産分割は兄弟全員で協議して行ったのですが、後になって、遺言書があったことを知った兄が、私が遺言書を隠匿していたのだから相続欠格者であると言い出しました。
 私はどうすればよいでしょうか。

(回答)

1 相続人資格を失う場合 
 遺言がある場合でも、それと異なる遺産分割を禁止するものでない限り、相続人が協議によって分割することは自由です。
 今回の相談では、遺言書があるにも関わらず、一部の相続人がそれを隠したまま遺産分割をしようとしたことが問題となります。
 この点、民法では、一定の相続欠格事由がある場合には、相続人としての資格を認めないものとしており、被相続人らの生命を侵害する行為や、詐欺・脅迫によって遺言を作成させたり、これを妨害するなどの行為が定められています。
 また、被相続人の遺言書を偽造・変造、破棄、隠匿する行為も欠格事由と定められています。
 今回のケースでは、相談者は、遺言書を隠匿したといえますので、少なくとも形式的には、相続欠格事由に該当することになります。

2 相続欠格事由の二重の故意 
 ところで、相続欠格の要件として、民法の定める相続欠格事由に該当する行為のほかに、このような行為によって不当な利益を得ようとする動機ないし目的(いわゆる二重の故意)を要するか否かという議論があります。
 この点、判例は、自己に有利な遺言書を破棄又は隠匿した相続人について、相続に関して不当な利益を得ることを目的とするものでなかったときは、相続欠格者にはあたらないものと判断しています。
 これは、遺言書の破棄・隠匿を相続欠格事由とする趣旨は、遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を科すことにあるところ、遺言書の破棄・隠匿が不当な利益を得る目的でなかったときにまで相続人資格を失わせるという厳しい制裁を科すことは、相続欠格事由の趣旨に沿わないという理由です。
 そうすると、今回のケースでは、自己の不当な利益を得る目的で遺言書を隠匿したわけではありませんので、相続欠格者にはあたらないということになりそうです。

3 遺言書の偽造・変造の場合 
 押印がないため無効であった自筆証書遺言に相続人が押印して有効な外形を作出した事案でも、相続欠格が否定されたものがあります。
 形式的には遺言書の偽造・変造にあたるものの、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現するためにその法形式を整える趣旨で押印行為をしたにすぎず、遺言に関し著しく不当な干渉行為をしたとはいえないことが理由です。
 以上のように、判例実務では、形式的な欠格事由だけでなく、不当な利益を得ようとする目的(二重の故意)が必要であると解されています。条文には書かれていない要件ですので、注意する必要があります。