同一労働同一賃金~最新最高裁判例によせて~

(質問)
 当社には、無期労働契約で働いている正社員と、有期雇用契約であるものの正社員と同様にフルタイムで働いているアルバイト職員がいます。最近、「アルバイト職員に賞与を支給しないことは違法ではない」という判決が出たことをニュースで知りました。当社でもアルバイト職員に賞与を支給していませんが、この取扱いは適法だと考えてよいでしょうか。

(回答)

1 2つの最高裁判例
近年、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差が問題となっていたことから、働き方改革の柱の一つとして「同一労働同一賃金」の法制度が整えられ、大企業にはすでに適用されているところです。そして、来る令和3年4月1日、いよいよ中小企業にもこの制度が適用されることとなります。
 この同一労働同一賃金をめぐる問題について、令和2年10月13日、注目すべき2つの最高裁判決が出されました。いずれも、企業が非正規雇用労働者に対し、賞与や退職金を支給しない取扱いをしていたことについて、違法とはいえない旨判断したものです。
もっとも、このような判決が出されたからといって、同様の取扱いをすることがただちに適法となるわけではないことに注意が必要です。

2 同一労働同一賃金って?
そもそも、同一労働同一賃金の制度は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金について、どのような取扱いをすることを企業に求めているのでしょうか。
 この点について、いわゆるパート有期法8条は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇に「不合理と認められる相違を設けてはならない」と規定しています。すなわち、同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との「不合理」な待遇差をなくすことを企業に求めるものであり、一切の待遇差を許さないとするものではありません。その差が「不合理でない」といえるかぎりにおいて、待遇差を設けることも許容されるのです。
 それでは、どのような場合が「不合理」であり、どのような場合が「不合理でない」待遇差となるのでしょうか。この点について、条文の文言やこれまでの裁判例上、3つの考慮要素をもとに判断すべきものとされてきました。

3 「不合理」性の考慮要素
3つの考慮要素とは、すなわち、①労働者の業務内容及びその業務に伴う責任の程度の差異、②職務の内容及び配置の変更の範囲の差異、そして③その他の事情です。今回出された2つの最高裁判例も、この3つの要素から不合理性の判断を行ったものです。
 そして、基本給、各種手当、賞与や退職金など、具体的な賃金制度がそれぞれ不合理であるかどうかということは、当該企業においてその賃金制度が設けられている趣旨・目的ごとに、問題となる賃金制度の企業内の賃金体系全体における位置付けをも加味して、個別具体的に判断がされます。
 たとえば、今回、大阪医科薬科大学の事件においては、賞与が支給される趣旨について「正職員の人材確保やその定着」にあるなどとした上で、①アルバイトの職務が軽易であることや、②正社員と異なり配置転換がないこと、③アルバイトから正社員への登用制度があることなどを総合的に考慮し、待遇差が「不合理でない」旨の判断がされました。

4 個別具体的な検討が必須!
このように、同一労働同一賃金の「不合理性」の判断は、個別的な事情を具体的に検討して行われるものであり、ご相談の企業においてアルバイトに賞与を支給しないことが適法といえるかどうかについても、賞与の趣旨目的や社内の賃金体系における賞与の位置づけなどを加味し、前記の3つの考慮要素を総合的にみて判断しなければなりません。また、新たに賃金制度を構築したり、既存の賃金制度を見直す際にも、それが「不合理」というべきものとならないよう、同様のことを考慮し検討する必要があります。
従業員間の待遇差が「不合理」であるなどとして思わぬ損害の賠償請求をされてしまうことは、それ自体が企業にとって大きなリスクです。同一労働同一賃金の問題などを踏まえた賃金制度の構築や見直しにお悩みの場合には、弁護士にぜひご相談されることをお勧めします。