特許権の侵害を主張する際のリスク

(質問)
当社は、半導体装置を製造販売する会社ですが、Y社が製造している半導体が当社の有する特許権を侵害していると考えて、Y社に対し、警告書を送付しました。しかし、Y社は、当社の有する特許権に係る発明は、既に皆に知られている発明に基づいて容易に発明することができるから、当社の特許権は、無効であり、Y社は、当社の特許権を侵害していないと主張してきました。
 しかし、当社の特許権は、有効に登録されていますので、当然当社の主張が認められると思いますが、どうでしょうか。

(回答)

1 特許の登録要件
 特許の登録要件としては、①産業上の利用可能性、②新規性、③進歩性がそれぞれあること必要とされています。新規性とは、元々存在する技術ではなく、新しい発明であることをいい、進歩性とは、元々存在する技術から容易に発明することのできたものをいいます。
 Y社の主張は、貴社の特許権の進歩性を争うものと考えられます。

2 特許権を無効にする手段 
 特許権は、特許庁に特許無効審判を申し立て、無効審決が確定して初めて、初めから存在しなかったものとみなされます(特許法第125条)。 
 したがって、特許無効審決が確定していない以上、特許権はその効力を失うことはありません。

3 特許無効審決が確定していない段階での無効の主張
 従前の判例は、上記⑵を理由として、請求の基礎となっている登録されている特許権が無効であることを理由にしては、差し止め請求や損害賠償請求を排斥することは認めていませんでした。
 しかし、現在は、請求の基礎となっている特許権の無効審決が確定していなくても、当該特許権の無効を主張して、特許権者の請求を退けることができるとされています(特許法第104条の3第1項)。

4 回答 
 貴社の特許権に無効事由がある場合は、Y社に対して、侵害行為を 差し止め請求や損害賠償請求が認められることはありません。
 貴社としては、Y社に対し、特許権の権利行使を行う際には、自らの有する特許権の有効性について再度検討すべきです。
 特許出願時は、自らの技術しか頭にないため、将来の他社からの反論をなかなか想定できません。Y社は、貴社から警告書を受領したら、貴社の権利行使を阻止するため、無効理由をほじくり出すべく、一生懸命になったと推察されます。
 貴社のY社に対する請求が認められるかどうかは、貴社の特許に進歩性が認められるか否かにかかっているといえます。