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自転車事故の加害者が未成年の場合について

(質問)
 先日,自転車で信号待ちをしていたら,交差点近くから猛スピードで出てきた大学生くらいの少年の自転車に衝突されました。幸いケガはありませんでしたが,自転車のフレームが曲がり,修理が必要となりました。
 衝突してきた人が未成年であったとしても損害賠償責任を負うのでしょうか?

(回答)

1 責任能力とは 
 まず,民法712条では,「未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。これは責任能力について定めたもので,判例では「加害行為の法律上の責任を弁識するに足りる能力」すなわち事理弁識能力の有無が損害賠償責任の境界となっています。
 この事理弁識能力の基準ですが,判例では,責任能力の有無の判断要素として,年齢・環境・生育度・行為の種類等を勘案して判断しているようで,平均すると12歳前後をひとつの基準としていると考えられます。

2 子の行為に対する親の責任とは 
 そして,未成年者に責任能力がない場合,親権者が被害者に対して,未成年者の加えた損害を賠償する責任を負うことになります(民法714条1項)。このように未成年者に責任能力がある場合,親権者は民法714条1項に基づく責任は負いません。
 しかしながら,判例では,親権者の監督義務違反と子の不法行為により生じた損害との間に相当因果関係が認められる場合は,民法第709条に基づき,親権者も損害賠償責任を負うとしています。
 民法の構造は難しいですが,簡単に言うと,(①)未成年者が責任を負わない場合は親権者が責任を負う。(②)未成年者が責任を負う場合は親権者は原則責任を負わない。ただし,監督義務違反と損害に因果関係があれば,親権者も責任を負う,ということです。

3 具体的事案 
 事故当時11歳だった少年Yが帰宅途中,住宅街の坂道を自転車で下っていた際,女性Xに気づかず正面衝突しました。Xは突き飛ばされる形で転倒し,頭を強打しました。Xは一命を取り留めたものの意識は戻らず,4年以上寝たきりの状態が続いているという事故がありました。
 この事故で,裁判所は少年が時速20~30キロで走行し,少年の前方不注視が事故の原因と認定しています。そして,事故時はヘルメット未着用だったことなどを挙げ,指導や注意が功を奏しておらず,監督義務を果たしていないとして,母親に計約9500万円の賠償を命じています。
 大まかな内訳は, (1)将来の介護費が約3940万円,(2)事故で得ることのできなかった逸失利益が約2190万円,(3)けがの後遺症に対する慰謝料が2800万円となっています。これは,被害を受けた方からすれば,失ったものを填補するものとして当然の金額といえます。
 前述したように,親権者が責任を負うのは,(①)未成年者に責任能力がない場合と,(②)責任能力があっても監督義務を果たしていない場合の2パターンがあります。上記の事案は未成年者に責任能力がなかった場合のものです。
 責任能力のある未成年者の自転車事故で,親権者に監督義務違反が認められた裁判例はまだないようですが,いじめの事案で14歳の子の親に監督義務違反を認めた例はあるので,今後自転車事故でも認容される可能性はあるといえます。

4 自転車事故の高額賠償リスク 
 このように,自転車事故は高額な損害賠償が認められる可能性があります。
 自転車保険に加入するとともに,事故が発生した場合には,被害者・加害者いずれの立場になったとしても専門家に一度相談することをお勧めします。