万引き犯人の写真公開

(質問)
 当店はコンビニエンスストアですが、万引きが多くて困っています。
 監視カメラに録画された映像があるのですが、犯人の顔写真を公開しても問題ないでしょうか。

(回答)

1 犯人の顔の公開 
 以前、おもちゃを万引きされた被害店舗が、その犯人の顔写真を公開しようとして、話題になりました。店側は、防犯カメラに写っていた万引きしたとする人物の画像を顔の部分が分からないように加工してホームページなどに掲載していましたが、「おもちゃを返さないと顔の画像を公開する」と警告していたので、この対応に賛否が分かれていました。
 販売している商品を盗られた店側の気持ちも理解できる点はありますが、盗んだものを返さないと顔写真を公開するというのは一種の脅しのような気もします。
 この店側の対応には、いくつかの法的問題が含まれています。

2 自力救済の禁止とは
 まず、万引き犯の顔写真を公開することを告げて盗られた物を取り返そうとする行為は、「自力救済の禁止」に該当する可能性があります。
 「自力救済の禁止」とは、権利を有する者が、その権利を侵害された場合に、法律の手続によらずに自力で権利を回復することをしてはいけないということをいいます。
 このケースでいうと、万引きされた商品の所有者である店が、犯人に対して、「顔写真を公開されたくなければ返しなさい」というように、自力でその商品を取り返すということをしてはいけないということです。

3 自力救済が禁止されている理由
 自救行為を認めると、権力・財力・腕力といった「力」のある者が正義ということになってしまいます。日本は法治国家であって、法律によって社会が成り立っているのですから、このような社会秩序を乱す行為は認めるわけにはいきません。いくら自分の所有する物が盗られたからといっても、「力」によって解決するのではなく、法律の手続に基づいて返還を求めなければならないということです。
 これが、自力救済が禁止されている理由です。

4 自力救済の問題点
 権利について、所有権という用語はよく聞かれると思いますが、これと似た概念の「占有権」があります。占有権とは、物に対する事実上の支配という状態そのものに法的保護を与えるというものです。
 例えば、他人から一時的に自転車を借りる約束をした場合に、その借りている自転車を事実上支配できるというものです。占有権は、どのように入手されたものでも(盗んだものであっても)ひとたび占有が開始されると権利として発生します。
 その占有権のある物を自力で奪い返すと、占有権侵害となって窃盗罪(刑法第235条、法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償請求がなされるリスクがあります。
 また、万引き犯の顔写真を公開してしまうと、その社会的評価が低下したとして、名誉棄損罪(刑法第230条第1項、法定刑は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金)が成立したり、不法行為に基づく損害賠償のリスクも考えられます。

5 回答 
 貴社が万引き犯人の顔写真を公開すると、名誉毀損罪の成立のほか、万引き犯人から不法行為に基づく損害賠償請求を請求されるとともに、会社のレピュテーション低下のリスクがあります。
 貴社は、警察署に、被害者氏名不詳のまま、窃盗罪で告訴を行うべきです。