労働条件の不利益変更の注意点

(質問)
 当社は、経営状況が悪化しているため、退職金規程を現在の3分の1程度の退職金に変更することとしました。
 これに伴い、当社は、全従業員から、退職金規程の変更に対する同意書を取得しました。
 しかし、当社は、従業員に対して、退職金規程の変更の具体的な理由や内容などに関する説明を十分に行っていません。
 この場合、同意書を取得したので問題ないと考えて良いでしょうか。

(回答)

1 書面による明示の同意が必要
 賃金、退職金などの重要な労働条件を変更する場合、従業員の同意を得るべきであるのは言うまでもありません。もっとも、その同意について、同意書のような客観的な証拠がないと、後になって同意の有無が争われた際、従業員の同意がなかったと判断されるリスクがあります。
 このため、賃金、退職金などの重要な労働条件の変更に対する同意を得る際には、特に同意書を取得する必要があります。

2 自由な意思とは 
 もっとも、同意書があれば全く問題がないというわけではありません。
 賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する従業員の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の従業員の行為の有無だけではなく、当該変更によって従業員にもたらされる不利益の内容及び程度、従業員によって当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ従業員への情報提供又は説明の内容などに照らして、当該行為が従業員の自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から判断されるべきとされています(最高裁判所平成28年2月19日判決)。
 つまり、企業とすれば、単に同意書を取得しただけでは、労働条件の変更に対する従業員の自由な意思に基づく同意があったと認められないリスクがあることに注意すべきです。

3 労働条件の不利益変更のリスクヘッジ 
 このため、賃金や退職金のような労働条件の変更の際には、従業員に対して、変更の必要性、変更の具体的内容、変更によって生じる不利益についてしっかりと説明する必要があります。
 具体的な方法として、説明会を複数回開催する、労働条件の変更の理由や内容を説明した書面を配付して、従業員の理解を深めることなどが考えられます。

4 労働条件の不利益変更には慎重な対応を 
 貴社は、確かに従業員から労働条件の変更に対する同意書を取得されているようです。
 しかし、当該労働条件の変更が退職金に関するものであること、従業員の不利益の内容が退職金の3分の1程度になるという重大なものであること、その具体的内容について十分な説明を行っていないこと等を考慮すると、同意書を取得しているとしても、今回の変更に対する従業員の同意は自由な意見に基づいてなされたと認められないと判断されるリスクがあります。
 賃金や退職金に限らず、労働条件の不利益変更は、弁護士などの専門家に相談の上、慎重に対応する必要があります。
 労働条件の不利益変更は、従業員の同意がなくても、一定の場合には行い得るという労働契約法第10条が適用されるかどうかも含めて、慎重に検討する必要があります。