取引先の破産手続開始決定への対応

(質問)
 当社に対し、取引先が破産手続開始の申し立てをしたとの通知が届きました。
 当社の売掛金債権はまだ支払期限が到来していないのですが、買掛金債務と相殺することはできますか。
また、破産手続ではなく民事再生手続の場合はどうですか。

(回答)

1 破産の場合は原則可能
 破産会社に対して債権を有する者(破産債権者)が、破産手続開始の時点で破産会社に対して債務を負担していた場合、債権が期限付きの場合や、債務が期限や条件付きの場合でも、以下に述べる例外を除いて相殺が可能です。
 したがって、ご質問のケースの場合、貴社は、支払期限の到来していない売掛金債権と、買掛金債務を相殺することができます。

2 相殺が禁止される場合
 破産債権者が、破産会社の破産手続を知りながら債務を負担したような場合にまで相殺を認めると、破産債権者間の平等を不当に害することになります。
 そこで破産法は、債務の負担時期及び破産債権者の認識に応じて、相殺を禁止しています。
具体的には、①破産手続開始後に債務を負担した場合、②支払不能を知りながら、専ら相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を締結した場合、③支払停止の事実を知りながら債務を負担した場合、④破産手続開始申し立ての事実を知りながら債務を負担した場合などに、相殺が禁止されることになります。
 加えて、債権者は、いつでも相殺可能なのが原則ですが、破産管財人から、相殺をするかどうか催告をされた場合は、催告期間が経過した場合は、相殺できなくなりますから、御注意ください。

3 民事再生の場合は注意が必要
 破産手続の場合は以上のように比較的広く相殺が認められるのに対し、民事再生手続の場合には一定の制限があります。民事再生手続において相殺を行うためには、①再生債権の届出期間満了時までに両債権が相殺適状になっていること、②相殺の意思表示を再生債権の届出期間満了時までにすること、という要件が必要となります。 
 ①の「相殺適状」とは、両債権の支払期限が到来していることを意味します。破産の場合には、債務者が破産手続開始決定を受けたときは、当然期限の利益が喪失するのですが(民法第137条第1号)、民事再生の場合は、このような規定がありません。
 したがって、ご質問のケースの場合、貴社は、売掛金債権の支払期限が再生債権の届出期間の満了前であれば相殺が可能ですが、それより後であれば相殺はできず、買掛金債務の支払いをしなければならないということになります。

4 民事再生において、相殺を行うために 
 取引先が民事再生手続を行った場合に、貴社が相殺を行うためには、再生債権の届出期間満了時までに、債権の支払期限が到来するようにしておく必要があります。そのためには、基本契約書で、取引先の再生手続の申立てを期限の利益の喪失事由として規定しておくことが有効です。

5 回答 
 取引先が破産手続開始決定の場合は、貴社は原則として期限末到来の債権について相殺ができますが、取引先が民事再生手続開始決定の場合は、相殺はできません。