振込先を間違った!誤振込みの法律問題

(質問)
 ⅩはA名義の普通預金口座に5000万円を振り込むため,Y銀行B支店に振込依頼をしましたが,Ⅹは誤ってZ名義の普通預金口座を受取口座に指定しました。これにより,同口座に5000万円の入金記帳がなされました。Xは、これに気づき,金融機関に連絡しましたが,Zはすでに入金された金銭全額を引き出していました。
 この場合、どのような法律関係になるでしょうか。

(回答)

1 誤振込みの法律問題
振込依頼人が誤った口座を受取口座に指定してしまい、金融機関がこれに従って入金処理をしてしまったような場合を誤振込みといいます。最近では、ある自治体が住民に対して新型コロナウイルス対策関連の給付金を誤って振込んでしまった事件が話題となっていましたが、これも誤振込みの事例の1つです。今回は、誤振込みが発生した場合の法律問題について、お話しします。

2 受取人は誤振込みにより預金債権を取得する!?
振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人と金融機関は、どのような法律関係になるでしょうか。判例では、振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対してその金額相当の普通預金債権を取得すると判断されています(最判平8・4・26民集50巻5号1267頁)。つまり、振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人は金融機関に対して預金債権を取得します。そのため、銀行実務では、振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人が、入金処理の完了後に申し出た場合、受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す手続き(組戻し)を行います。

3 振込依頼人から受取人に対する不当利得返還請求
誤振込みをした場合、組戻しができれば問題はありません。しかし、受取人が組戻しに応じなかった場合、振込依頼人は、受取人に対して、どのような請求を行うことができるでしょうか。確かに、受取人は振込金額に相当する預金債権を取得しますが、預金債権に相当する金銭的価値は、本来、振込依頼人に帰属すべきものです。そのため、振込依頼者は受取人に対し,誤振込みによって法律上の原因なく利益を受け、他人に損失を及ぼしたとして,不当利得返還請求をすることができます。
  ただし、預金を引き出されて、受取人にめぼしい財産がなくなってしまうと、強制執行が困難となります。そこで、予め、不当利得返還請求権を被保全権利として,預金債権の仮差押えをする必要があります。

4 受取人は刑事責任を負うか?
受取人は誤振込みにより預金債権を取得するとされますが、「振込依頼人が勝手に間違えたんだから、払い戻していいでしょ」とはいきません。受取人が誤振込みと知りながら払戻し等を受けた場合には、刑事責任を負う可能性があります。
誤振込みと知りながら、銀行窓口でその情を秘して預金の払い戻しを受けた場合、詐欺罪(刑法第246条1項),現金をATMから引き出した場合、窃盗罪(刑法第235条)、ATMで他の口座に振り替えた場合には、電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)が成立する可能性があります。
振込依頼人も、受取人も、誤振込みに気づいた際には、直ちに、金融機関に知らせて組戻しの手続きを採る対応が適切です。誤振込みに限らず、預金に関する法律問題も弁護士にご相談ください。

はじめに

これまでの諸団体の会報等を取りまとめたものです。
内容については個人的な意見であり,事実・不正を保障するものではありません。
あくまでも参考にしていただければ幸いです。


「残業・転勤拒否でマイナス評価は違法?」〜人事評価の落とし穴と法的対処法〜

(質問)
 当社では、若手社員が「私用がある」という理由で残業命令を拒否するケースが増加しています。
 また、業務上必要な地方工場への転勤命令に対し、「家庭の事情」を理由に拒否する社員が複数発生しています。
 これらの命令拒否者に対し、人事評価においてマイナス評価とすることは法的に問題ないのでしょうか。

(回答)
 昨今、働き方改革や従業員の権利意識の高まりを背景に、残業や転勤の命令に対する拒否事例が増加しています。
 テレワークの普及やワークライフバランスの重視、ハラスメント防止の観点も相まって、「指揮命令権とは何か」が改めて問い直される時代となりました。
 この問題は、現代においても相変わらず企業を悩ませる問題であるといえるでしょう。

1 見極めろ!マイナス評価の法的境界線
 労働契約法上、労働者は使用者の指揮命令に従う義務を負いますが、すべての業務命令に従う義務があるわけではありません。
 業務命令の有効性は、①労働契約の範囲内か、②裁量権の濫用に当たらないか、という二つの観点から判断されます。
 業務命令が無効であれば当然、人事評価においてマイナス評価とすることはできません。
 一方、有効な業務命令に従わなかった場合は、「正当な理由のない業務命令拒否」として、マイナス評価の対象となり得ます。
 ただし、デジタル時代の到来により、「その指示は本当に必要か」という観点から命令の合理性が問われる事例が増えていくでしょう。

2 残業拒否は評価ダウン?36協定がカギを握る
 残業命令の有効性については、労働基準法に基づく判断が必要です。
 同法では、原則として時間外労働は禁止されており、例外的に36協定が締結されている場合にのみ、その範囲内で残業を命じることができます。
 36協定未締結の場合や協定の限度時間を超える残業命令は無効です。
 近年はクラウドツールの発達により「オフィスでの残業が本当に必要か」という新たな視点も登場し、「リモートで代替可能な作業の残業命令」の必要性が厳格に審査される傾向が増大するものと考えられます。

3 「転勤イヤです」は通る?通らない?判断の分かれ道
 転勤命令については、使用者の「業務上の必要性」と労働者の「不利益」の比較衡量が重要です。
 雇用契約や就業規則等で勤務地を特定の地域に限定する合意がある場合、その範囲外への転勤命令は原則として無効です。
 子どもの教育問題や配偶者の就業といった一般的な家庭の事情だけでは、通常、転勤命令を拒否する正当理由とはなりませんが、要介護状態の家族の存在など特別な事情がある場合に備えて、「なぜ物理的移動が必要か」という説明ができるようにすると良いでしょう。

4 中小企業の人事担当者必見!トラブル回避の秘訣
 限られた人材で事業を運営する中小企業にとって、円滑な人事異動や時間外労働の指示は事業継続の生命線となることも少なくありません。
 デジタル化が進む今日では、紙の記録だけでなくチャットログやメール履歴などデジタル証拠の保全も重要になっています。
 就業規則等で変更可能性を明記することは基本ですが、さらに一歩進んで「評価基準の透明化」にも取り組むべきです。
 なぜその命令が必要か、拒否がどのように評価されるのかを明確にすることで、紛争リスクを大幅に軽減できます。

5 まとめ
 残業・転勤命令拒否に対する人事評価は、当該業務命令が有効である場合にのみマイナス評価とすることが法的に許容されます。
 しかし現代では「命令の必要性」をデータや客観的事実で裏付けられるかが重要となっています。
 また、最終的には、指揮命令が「強制」ではなく「納得と共感」に基づくものへと変化することが、法的リスク回避と人材定着の両立につながることでしょう。
 従業員の残業・転勤拒否トラブルでお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

外国人技能実習制度の見直し

(質問)
 令和6年6月に、育成就労制度に関する法律が国会で可決・成立し、3年以内に法律が施行されると聞きました。
 現在の外国人技能実習制度が育成就労制度へと変更されるとのことですが、具体的にどのような制度に変わるのでしょうか。

(回答)

1 技能実習制度の問題点
 外国人技能実習制度は、平成5年に導入され、日本の技術や技能を開発途上国へといった国際貢献を目的としていました。
 しかし、実際にはその機能を十分に果たせず、以下のような問題が指摘されていました。
 まず、技能実習生の労働環境として低賃金かつ過酷な状況に置かれ、長時間労働が常態化していました。
 また、ハラスメントの横行や賃金未払いといった問題も頻発しており、実習生には「やむを得ない事由」がなければ転職の自由が認められておらず、劣悪な環境でも働き続けざるを得ない状況にありました。
 また、多くの技能実習生は、母国の送り出し機関に高額な手数料を支払い、借金を負って来日しているため、不利な労働条件であっても簡単に辞めることができません。
 その結果、過酷な環境から逃れるために失踪する技能実習生が増加し、不法就労に至るケースが後を絶ちません。
 実際に、令和5年に失踪した技能実習生は、約1万人にも上り過去最多の人数となっています。

2 育成就労制度について
 育成就労制度は、上記の技能実習制度の問題点を改善し、外国人労働者の権利を保護しながら、日本の人材不足を補うことを目的としています。
 単なる労働力の供給ではなく、日本国内での「人材育成」と「適正な雇用」を両立させる仕組みとして設計されました。
 技能実習制度との主な比較は以下のとおりです。
 育成就労制度では、従来の技能実習制度に比べ、転職の要件が緩和され、一定の条件はあるものの、業務分野が同じであれば本人の希望で転職が可能となり、不適切な労働環境からの脱却が容易になります。
 また、企業や監理団体への監査体制を強化し、ハラスメント防止や賃金の適正支払いなど、外国人労働者の権利保護を徹底します。
 さらに、送り出し機関の規制を強化し、高額な手数料による過剰な負担を防ぐことで、借金を負って来日するリスクを軽減します。
 加えて、日本語教育を充実させ、労働者の能力向上とキャリア形成を支援します。
 最後に、受け入れ企業には研修プログラムや指導体制の整備が義務付けられ、外国人労働者の適切な育成を促す仕組みとなっています。

3 今後について
 現代では、IoTやAIの発展により仕事の効率化・自動化が進んでいますが、製造業、建設業など、人の労働力が依然として不可欠な分野も多く存在します。
 日本では少子高齢化による労働人口減少が続いており、外国人労働者の受け入れは今後さらに重要性を増すと考えられます。
 その結果、企業が外国人労働者を選ぶ時代から、外国人労働者が企業を選ぶ時代へと移行することになるでしょう。
 技能実習制度から育成就労制度への転換は、企業にとって有益な人材を確保する観点から、必要な制度改革であると考えられます。
 制度の見直しにより、企業と外国人労働者双方にとってより良い環境を整備することが期待されます。
 もっとも、文化の違いなどに起因する労使間のトラブルが増加することも予想されます。
 外国人労働者のことでお困りの際には、早めに弁護士等の専門家に御相談ください。

ハラスメントの聞き取りの問題と周知の必要性

(質問)
 当社でセクハラが疑われるような事例が発生したとの内部通報がありました。
 このことについて会社としては懲戒処分に向けてどのように対応すればよいでしょうか。

(回答)

1 会社としての対応の全体の概要
 ハラスメントの対応としては、①事実関係を確定し、②事実関係に基づいて処分内容を検討し、③対象者を懲戒処分するという順序で行います。
 特に①については事実の調査をする必要がありますが、物的証拠がないものもあり、その場合には複数の人から聴き取りを行う必要があります。
 そのため、聴き取りの注意点をお伝えいたします。

2 調査の対象の選定
 ハラスメントが疑われる事情が発生した時には、誰にどのような事実を聴取するかをまず検討する必要があります。
 被害者、加害者はもちろんのこと、目撃者も聴取対象者となります。
 とはいえ、特にセクハラは、誰も目撃者がいない状況で行われるケースが多く、その場合は、被害者、加害者以外に何も事情を知らないといったことも珍しくありません。
 その場合は、直後に被害者が連絡、相談をした人といったようになるべく直前直後の状況がわかる人を聴取対象者とするほかありません。

3 聴取の際の注意点
 事実を聴き取るにあたって、注意すべきこととしては、特定の事実があることを前提に先入観を持って質問をしてはならないということです。
 例えば被害者が言っていることがすべて正しいと信じこんで他の人に聴き取りを行うと、反発して事実を話してくれないということもありますし、本来聞き取るべきことを見落としてしまうということにもなりかねません。
 そのため聴き取りをするにあたっては、オープンな質問、すなわち、5W1Hで時系列に沿うような形で質問をする必要があります。
 とはいえ、ハラスメントの認定のために必要なことを聞き出せなくては意味がありません。
 そのため、事前に聞き出したいことは何か、その事実を話すうえで必要な質問は何かを事前に想定しておく必要があります。

4 再発防止とハラスメントについての周知の重要性
 ハラスメントに対する意識は、会社としては十分にシステムが構築されていたとしても、個々の従業員の意識がまだついて行っていないということは往々にしてあります。
 そういう意識であれば、従業員が本来ならばハラスメントに該当する行為を見たり聞いたりしたときに、会社に報告がなされない、会社が調査しても十分な協力が得られないという事態になってしまいます。
 従業員に対する意識向上のためにも、研修はもちろんのこと懲戒をしたハラスメント事例については周知を行い、会社内の規律意識を高めることが必要となります。
 とはいえ軽微な事案において、事案の詳細まで公表してしまうことは、当事者の名誉を害することとなるため、事案の概要のみに留めるのがよいといえるでしょう。

5 さいごに
 このようにハラスメントの問題は、様々な手順を踏まなくてはなりません。
 とはいえ、ハラスメントの問題を放置することはもってのほかです。
 事案によってどういう順番で事実調査を行うか、どのような質問をするかは変わってきます。
 そのため、事前に弁護士等の専門家に相談することはもちろんのこと、聴取そのものを依頼するということも推奨いたします。

ドキッ!労基署がやってきた!-弁護士が教える「慌てない対応術」と「会社を守る秘訣」

(質問)
 先日、労働基準監督署から突然調査依頼の通知が届きました。
 当社では労働災害の発生歴もなく、調査対象となる法令違反等の心当たりがありません。
 このような調査は初めての経験で戸惑っています。
 どのように対応すれば良いのでしょうか。
 会社を守るための対応策を教えてください。

(回答)
 新年度を迎え、新入社員を迎える企業も多いことと思います。
 人事異動や組織変更など、会社にとっても大きな変化の時期ではないでしょうか。
 新たな気持ちで心機一転、この機会に労務管理体制の見直しをされてはいかがでしょう。
 実は毎年この時期、「書類の整備が不十分」という理由で労働基準監督署(労基署)の調査対象となる企業が少なくありません。

1 突然の通知に慌てないために — 労基署が狙うのはどんな会社?
 労基署からの調査通知は、多くの中小企業経営者にとって「青天の霹靂」となります。
 特に中小企業では、日常業務に追われる中での対応準備は容易ではありません。
 労基署調査には「定期監督」と「申告監督」の2種類があります。
 定期監督は法改正の内容や管内の遵法状況を踏まえ、計画的に実施される一般的な調査であるのに対し、申告監督は従業員からの内部告発や労災発生後に行われます。

2 「家族経営だから大丈夫」は危険!調査前後の実践対応術
 調査に備えて、労働者名簿、賃金台帳(過去3年分)、出勤簿・タイムカード、労働条件通知書、36協定、就業規則、安全衛生関係書類などの基本書類を事前に確認しておくことが重要です。
 「うちは家族的な雰囲気だから」という言い訳は、労基署の前では一文の価値もありません。
 調査当日は、誠実かつ冷静な対応を心がけることが最も重要です。
 調査官にとって「この会社は誠実だ」という印象を持たれることが、調査結果を左右します。
 質問には正確に答え、わからないことは「確認して回答します」と伝えましょう。
 「サービス残業は当たり前」といった爆弾発言や、記録と実態の乖離を示唆する危険なコメントは厳禁です。
 社内の証言が食い違わないよう、事前準備も忘れずに。

3 中小企業が陥りやすい「三大地雷」と是正への道
 中小企業でよく踏む「地雷」として、労働時間管理の不備、36協定の不備、賃金未払い問題があります。
 労働時間管理については、客観的な記録システムの導入や管理職による現認が効果的です。
 36協定に関しては、毎年の更新と届出の管理体制構築や、適切な従業員代表選出手続きの文書化が重要です。
 賃金問題については、適正な労働時間管理に基づく賃金計算と割増賃金の計算方法の再確認が不可欠です。
 是正勧告を受けた場合は、その内容を正確に理解し、必要に応じて専門家に相談しながら、期限内に是正措置を実施して報告することが求められます。
 対応が不十分だと再監督や送検につながる可能性があり、悪質と判断されれば事業主名の公表や刑事罰の対象となることもあります。
 この「ピンチ」を「チャンス」に変えるためには、根本的な労務管理の見直しが不可欠です。

4 「雨降って地固まる」— 調査を組織強化に活かす秘訣
 予防策としては、定期的な労務管理状況の自己点検、従業員相談窓口の設置、労働法令改正情報の収集が効果的です。
 また、顧問弁護士・社労士との定期的な相談や、業界団体の研修・情報提供の活用も重要な予防策となります。
 労基署調査は「敵襲」ではなく、適正な労働環境確保のための「健康診断」と捉えましょう。
 特に人手不足が深刻な中小企業では、法令遵守による「働きやすい職場づくり」が人材確保の強みとなります。
 日頃から適切な労務管理を行い、従業員と共に成長できる職場環境を目指しましょう。
 労基署対応についてお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

カスハラの問題点

(質問)
 最近、カスハラが話題となっていますが、会社としてそのことに備えた対策はどのようなことをすればよろしいでしょうか。

(回答)
 近年顧客からのハラスメントであるカスタマーハラスメント(カスハラ)が問題となっています。
 厚労省の調査では、カスハラはハラスメントの中で最も増加傾向にある類型です。

1 カスハラの影響と、カスハラ対応の難しさ
 カスハラは、加害者といえる人が会社外の人であり、カスハラそのものを防止することは究極的にはできません。
 そのため、実際にカスハラといえる事例が発生した場合に、どのように対応するか、会社の体制を構築することがカスハラ対策のメインとなります。
 カスハラは、従業員のメンタル面に悪影響を及ぼすだけでなく、特定の人のみに従業員が対応することとなり、他の顧客に対するサービス提供が十分に行えなくなるという問題も生じるため、企業にとってメリットはありません。
 一方、顧客から正当なクレームがなされることもあり、顧客からの強い要求をすべてひとまとめにカスハラとして対応すればいいというものでもありません。

2 会社のカスハラ対応すべきこと
 そもそも、カスハラ事案が発生した際に、会社が当該事案を把握できていないといけません。
 そのため、カスハラと思われる事案が発生した際に各従業員に報告義務を課す必要性があります。
 このときには、正当なクレームか否かを問わず、すべての事案について報告させるべきです。
 そうでなければ、個々の従業員の判断で事案を処理することとなってしまうため、カスハラ事案として取り扱わないとならないものに長時間対応してしまうといった、望ましくない状況が発生しえます。
 その後の、会社の具体的な対応については、ケースを分類して対応を類型化しておくのがいいのではないかと思われます。
 具体的には、脅迫、威厳を用いる型(「俺は○○だ。」、「○○に言うぞ。」などというパターン)、セクハラ型は、担当者を変更するといった対応を、過剰な要求、応じられない要求をされる場合は理由とともに淡々と対応をできないことを伝えるといった対応をすることになります。

3 会社として対応が困難なケース
 中には、会社が対応をすることができない事案が出てきます。
 何度も要求を拒否しても引き下がらないどころかむしろエスカレートする、退去を求めても退去しないといった事案は、会社として対応が不可能であり、むしろ対応すればするほど状況が悪化するとともに、担当者がどんどん疲弊することになります。
 このような場合には、警察を呼ぶ、対応窓口を弁護士に変更するといった対応をしなくてはなりません。
 対応に困る案件が発生した場合はもちろんのこと、事前のカスハラ対策の体制構築、従業員に対する研修の実施も含めて、是非ともご相談ください。

定年後の給与、どこまで下げられる?-中小企業のための再雇用制度改革ガイド-

(質問)
 高年齢者雇用安定法の経過措置が本年3月末日をもって終了し、4月1日以降は希望者全員を継続雇用の対象としなければならないとのことですが、その際には定年前とは異なる職務内容での再雇用契約は可能でしょうか。
 また、職務内容の変更に伴い、賃金を調整することは問題ないのでしょうか。

(回答)

1 2025年4月、全企業に突きつけられる課題
 「うちのような小さな会社でも、希望者全員を65歳まで雇わないといけないの?」「今の給与を維持するのは難しいけど、どこまで下げていいの?」――。
 こうした中小企業経営者の不安の声が高まっています。
 高年齢者雇用安定法(以下「高年法」といいます。)の経過措置が2025年3月31日で終了し、同年4月1日以降、規模に関係なく全ての企業で、原則として希望者全員を65歳まで継続雇用しなければならなくなるためです。
 高年法では、65歳未満の定年制度を導入している会社に対して、①定年の引上げ、②継続雇用制度(再雇用又は勤務延長)の導入、③定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けています。
 多くの中小企業では人員に余裕がないため、定年後の職務調整に特に悩まれることでしょう。

2 裁判例から学ぶ実務のポイント
 再雇用に伴う職務内容の変更や賃金引下げには一定のルールがあります。
 事務職から清掃業務への大幅な職種変更は違法とされ、労働時間の減少(約45%減)に比べて過度な賃金減額(約75%減)も違法と判断されています。
 一方で、課長職から一般職への変更に伴う賃金減額(月50万円から31.5万円)は適法とされた例もあります。
 これらの裁判例は、職務変更や賃金調整を行う際の重要な指針となります。

3 中小企業ならではの再雇用のアイデア
 大企業と違い、中小企業には柔軟な対応が可能というメリットがあります。
 例えば、以下のような工夫が考えられます。
 ○多能工型:複数の業務をこなす「なんでも屋さん」として活躍
 ○社外派遣型:取引先への派遣により、橋渡し役として活用
 ○時短・隔日型:繁忙期中心のパートタイム勤務で対応
 特に熟練工や営業のベテランは、その経験を活かして協力会社や取引先との関係強化に貢献できる貴重な人材です。
 大企業のような細かな役職にとらわれない分、柔軟な活用が可能です。

4 現実的な賃金設計のヒント
 賃金面では、基本給の4割減を目安としつつ、固定給と変動給の組み合わせ(例:基本給7割+実績給3割)や、短時間勤務との組み合わせ(週3日勤務で給与6割)など、柔軟な対応が可能です。
 職務を限定することで、給与水準の調整も行いやすくなります。
 重要なのは、一律の賃金カットを避け、個々の従業員の能力や経験、担当業務に応じた適切な処遇を設計することです。
 例えば、若手の育成担当には「技能伝承手当」を設定するなど、新たな役割に応じた手当を創設することで、モチベーションの維持を図ることができます。

5 中小企業の強みを活かした人材活用
 2025年4月の制度変更は、一見すると負担増のように思えますが、規模が小さい分、個々の従業員の経験や技能を把握しやすく、きめ細かな配置が可能です。
 ベテラン社員の持つ業界独自の暗黙知や取引先との人間関係は、代替の難しい貴重な資産です。
 例えば「週3日は若手指導、残り2日は得意先回り」といった柔軟な働き方を設計することで、会社にとっても働く側にとってもメリットのある再雇用制度を作ることができます。

6 まとめ
 人手不足が深刻化する中、シニア人材の活用は中小企業にとって生き残りのカギとなるかもしれません。
 2025年4月の制度変更を、自社の強みを見直し、新しい働き方を創造するチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。
 高年齢者雇用確保措置についてお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

令和7年4月1日の施行の育児介護休業法の改正のポイントとその対応

2025年育児介護休業法の改正
 ご存じの経営者の方も多いと思いますが、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、育児介護休業法等の法改正が行われ、令和7年4月1日から段階的に施行されます。
 改正法には、令和7年4月に施行されるものと令和7年10月に施行されるものがあり、このうち、令和7年4月1日に施行されるものは、次に挙げる9項目になりますので、改正法の施行までに改正法の内容を理解して、必要な対応をしなければなりません。
 そこで、今回は、令和7年4月1日の育児介護休業法の改正のポイントとその対応について、お話しします。

(改正のポイントとその対応)

1 子の看護等休暇
 現行法では、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、その申し出により、病気やケガをした子の世話、子の予防接種・健康診断のために1年間に5日(子が2人以上の場合は10日)を限度として休暇を取ることが認められていました。
 改正法では、小学校第三学年終了前の子まで対象が拡大され、休暇取得事由には感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式、卒園式が追加され、名称も「子の看護等休暇」に改められました。
 また、労使協定による継続雇用期間6か月未満の労働者を除外できるという規定が削除されました。
 要するに、子の看護等休暇の取得できる場面が拡大します。
 育児介護休業規程などの就業規則を定めている場合は、規則の見直しが必要です。

2 所定時間外労働の制限(免除)の対象拡大
 現行法では、3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合には、所定労働時間を超えて労働させてはならない(ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。)と定められていますが、改正法では、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者まで請求可能となる範囲が拡大されます。
 これも就業規則の見直しが必要です。

3 短時間勤務制度の代替措置にテレワーク追加
 改正法では、短時間勤務制度(育児休業を取得せずに3歳未満の子を養育する労働者が希望する場合、1日の所定労働時間を6時間に短縮する(または6時間を含む複数の時間を選択肢とする)措置)の代替措置として、新たに在宅勤務等をさせる措置が追加されました。
 これは、短時間勤務制度を講じることが困難と認められる業務に従事する労働者がいる場合に、労使協定を締結し除外規定を設けたうえでの代替措置ですが、選択肢が広がることになります。

4 育児のためのテレワーク導入
 3歳未満の子を養育する労働者が在宅勤務等を選択できるように措置を講じることが、事業主に努力義務化されます。

5 育児休業取得状況の公表義務適用拡大
 現行法では、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回インターネット等で公表することが、従業員が1000人を超える企業の事業主に義務付けられていましたが、改正法では従業員が300人を超える企業にも公表が義務付けられました。
 厚生労働省によれば、同省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」での公表が推奨されています。

6 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
 改正法では、介護休暇を取得できる労働者に関して、労使協定による継続雇用期間6か月未満の者の除外規定が廃止されます。
 これも労使協定、就業規則の見直しが必要になります。

7 介護離職防止のための雇用環境整備
 改正法では、介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主には研修の実施、相談窓口の設置、介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供、利用促進の方針の周知を行うことが義務付けられました。

8 介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
 改正法では、事業主は、介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、介護休業の取得・介護両立支援制度等の周知と利用の意向の個別の確認を行うこと、介護に直面する前の早い段階(40歳等)での介護休業制度等に関する一定事項につき情報提供をすることが義務付けられました。

9 介護のためのテレワーク導入
 改正法では、要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務化されます。

10 家庭を顧みずに働く時代の終焉
 今回の法改正は、仕事よりも子育て等を重視するものです。
 時代の変化とともに、女性の社会進出、子育てと仕事の両立という観点から、誰しもが家庭を顧みずに仕事をすべきだというかつての時代は終わりを告げています。
 人手不足等で、育児よりも仕事を優先してもらっていた企業では、改正法に即した社内ルールの変更が必要になります。
 法改正に備えた対応ができていない企業においては、改正法の詳細につき、厚生労働省のホームページを確認したうえで、対応しなければなりません。
 育児介護休業法に限らず、法改正に合わせた規程の見直し、人事労務に関する法律問題でお困りの際には、弁護士にご相談ください。

~養育費を支払ってくれない!!~

(質問)
 XはYと令和4年3月に調停離婚しました。
 XY間には4歳の男の子がいます。
 調停調書には、YはXに対し、長男の養育費として、令和4年4月から長男が20歳に達するまで月額5万円を毎月1日に支払う旨の条項があります。
 Yは令和6年6月分までは毎月の養育費を支払ってくれていましたが、7月以降支払ってくれず、家庭裁判所に履行勧告の申立てをしましたが、Yは応じてくれません。
 同年11月現在、XはYの給料の差押えを検討しています。
 今回の事例の場合、Yの給料を差押えるは可能でしょうか。
 仮に可能な場合に養育費の不払がある度に毎月強制執行の申立てをしなければならないのでしょうか。

(回答)

1 養育費とは
 養育費とは、子どもが社会人となり、自立するまでの衣食住、教育及び医療等に要する費用のことをいいます。
 この養育費については、分担義務が民法上定められています。
 父母が離婚していない場合には、婚姻費用として、相手方に請求でき(民法760条)、離婚していれば、子どもの監護費用として親権者にならなかった相手方に対して養育費の支払を請求することができます(民法766条1項)。
 相談事例は離婚後の養育費なので後者にあたります。

2 養育費不払いの給料差押え
 養育費は、養育費支払義務者が任意に養育費を支払ってくれない場合には、強制執行が可能です。
 相談事例の場合、調停調書に養育費が定められていますので、家事事件手続法「別紙第二に掲げる事項」に該当し、審判と同一の効力である執行力のある債務名義と同一の効力が認められることになります(家事事件手続法268条1項括弧書き)。
 したがって、執行文の付与が必要なく強制執行できます。
 そして、給料を差し押さえる場合、原則4分の1とされていますが、養育費の不払いで給料を差し押さえる場合には、給料から税金と社会保険料等を控除した金額の2分の1まで差押えが可能とされています(民事執行法152条3項、151条の2第1項)。
 強制執行は、原則として期限が到来している債権でなければ執行が開始できません(同法第30条1項)。
 しかし、養育費のような少額の定期金債権を通常の債権と同様に扱うと、毎月不履行がある度に強制執行を申し立てなければならず、費用倒れとなる可能性があります。
 そこで、毎月一定額を支払う養育費のような債権は、確定期限の定めのある定期金債権に該当し、一部不履行があるときは、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができるといった民事執行法上に特別な規定が設けられています(同法151条の2第1項)。

3 相談事例の検討
 Yは、Xに対し月5万円の養育費を令和6年5月以降支払わず、同年11月現在では不履行の養育費が25万円となっています。
 この25万円の部分は履行期到来後の債権となります。
 そして、12月分以降の養育費については、期限が到来していない定期金債権として、差押えを開始することができることになります。
 もっとも、差押えが可能となるのは、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料のみです(同法151条の2第2項)。
 すなわち、将来分の養育費については、支払日が毎月1日であり、Yの給料日が毎月20日であれば、12月分の養育費は、12月20日に支給される給料から取り立てることになります。

4 最後に
 養育費の不払いで給料を差し押さえるためには、養育費支払義務者の勤務先が特定されていなければなりません。
 勤務先が特定されていない場合には、市町村や年金事務所等に第三者情報取得手続などをして勤務先を特定する必要があります。
 養育費の不払いなどで、お困りの際は早めに弁護士等の専門家に御相談ください。

経営者必見!育児・介護休業法改正-新しい働き方時代の幕開け

(質問)
 当社では、育児・介護休業法改正に備えて準備を始めたいと思っていますが、不足がないか心配です。
 主な変更点と対応策について教えてください。

(回答)
 2025年4月(一部は10月)施行予定の育児・介護休業法により、働き方が大きく変わります。
 この改正は中小企業にも重要な影響があるため、今のうちから準備を始めていくことが大切です。
 以下では、主な変更点と対応策についてご説明します。

1 子育て世代への支援強化
 残業免除の対象が、現在の3歳未満の子を持つ従業員から、小学校就学前の子を持つ従業員まで拡大されます。
 これにより、保育園の送迎や子どもの急な発熱など、予期せぬ事態に柔軟に対応できる環境が整います。
 子の看護休暇の対象も拡充されます。
 現行では子どもの病気やけがの看護のみが対象でしたが、改正後は学校行事への参加なども対象になります。
 年間5日(子どもが2人以上の場合は10日)の範囲内で、より柔軟な取得が可能になります。
 これにより、保護者会や運動会といった重要な学校行事にも参加しやすくなります。
 さらに、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが求められます。
 具体的には、始業時刻等の変更、テレワーク(月10日以上)、短時間勤務、新たな休暇の付与(年10日以上)、その他の措置(企業内保育施設の設置運営等)から2つ以上を選択して提供することが義務付けられます。

2 介護離職防止のための施策
 現在、勤続6か月未満の従業員を労使協定により介護休暇の対象外とすることが可能でしたが、改正後はこの除外規定が廃止されます。
 入社直後の従業員でも、必要に応じて介護休暇を取得できるようになります。
 また、家族の介護をする従業員に対するテレワーク推進が新たに努力義務となります。
 テレワークの導入は、介護中の従業員の負担軽減だけでなく、企業全体の業務効率化にもつながる可能性があります。

3 従業員への周知・配慮の強化
 従業員から妊娠・出産や家族の介護について申し出があった場合、各種制度を個別に説明し利用意向を確認することが新たに義務付けられます。
 これにより、従業員が利用可能な制度を確実に把握できるようになります。
 また、40歳に達した従業員に対し、介護休業制度等の仕事と介護の両立支援制度の情報提供を行うことが新たに義務付けられます。
 この年代は親の介護について考え始める時期でもあり、早めの情報提供は従業員の将来設計に大きな影響を与える可能性があるためです。

4 その他の重要な変更点
 常時雇用する労働者数が300人を超える事業主には、育児休業等の取得率または育児休業等と育児目的休暇の取得率の合計の公表が義務付けられます。
 また、従業員数100人超の事業主は、行動計画策定時に育児休業等の取得状況を把握し、数値目標を設定することが新たに義務付けられます。

5 改正に向けての準備
 まず、現行の社内規定や制度を洗い出し、法改正との差異を明確にしましょう。
 次に、優先順位をつけて対応策を時系列で整理し、必要な設備投資やシステム改修の費用を試算します。
 従業員の意識調査を行い、ニーズを把握することも大切です。
 可能なものから順次制度を導入し、フィードバックを得ながら調整していくことをおすすめします。
 また、改正の趣旨や新制度について社内で丁寧に説明することが重要です。

6 まとめ
 この法改正は、従業員のワークライフバランス向上と、企業の人材確保・定着に寄与します。
 準備は大変かもしれませんが、これを機に働きやすい職場環境を整えることで、結果的に生産性向上や競争力強化につながるはずです。
 今回の改正は、従業員にとって、そして求職者にとって「選ばれる会社」になるチャンスです。
 早めの準備で、円滑な制度導入を実現させましょう。
 育児・介護休業法改正への対応についてお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをおすすめします。

固定残業代について行うべきこと

(質問)
 当社では、45時間分の固定残業代を支払っていました。
 しかし、今となって退職した従業員から、固定残業代の説明は受けておらず、実際に支払われてもいないと言われました。
 会社としてはどのように対応すべきだったのでしょうか。

(回答)

1 固定残業代について想定されるリスク
 残業代を請求された場合に、固定残業代が認められるか否かは最終的な支払い額に大きな影響を及ぼします。
 固定残業代が認められた場合には、固定残業代相当額はすでに残業代として支払ったという扱いになります。
 一方、固定残業代が認められない場合には、残業代について全く払っていないという扱いになるだけでなく、本来固定残業代とされている部分についても基本給として扱われたうえで残業代の計算がされることになります。
 したがって、請求される残業代はかなり高くなってしまいます。
 このようなことを回避するためにも、固定残業代の有効性はきちんと確保しておく必要性があります。

2 固定残業代の有効性
 固定残業代が残業代として有効に認められるためには、労使間において固定残業代についての合意がなされていることに加えて、賃金を支払うにあたって、給与明細等にて、基本給と残業代部分とが明確に分かれていることが要求されています。
このようなことが要求されているのは、従業員が自己の労働に対して残業代が支払われているかを確認することができるようにするためです。
 固定残業代を定めることで、所定時間内の時間外労働をした従業員に対しては合意した固定残業代を支払えば、残業代の未払いにならないため、労務管理に資するというメリットがあります。
 もっとも、所定時間(相談者の場合は45時間)を超過する部分の残業代については、きちんと残業代を再計算して支払わなくてはならないため、その点は注意してください。

3 労働条件通知書の重要性
 固定残業代については就業規則に定めたうえで、個別の労働者に応じて金額を定めることになると思われます。
 この際に当該従業員の労働条件の内容を客観的に示すものが労働条件通知書です。
 法律上、労働条件通知書は交付義務が定められているのみで、従業員の署名押印は要求されていません。
 しかし、残業代請求をされる際には、労働条件通知書の交付がなかったとして、合意の内容を争ってくるパターンがあります。
 したがって、そのリスクに備えて、従業員に労働条件通知の内容を確認してもらったことを証する署名押印をしてもらうことが一般的です。

4 事前の対応の重要性が高い
 以上のとおり、固定残業代の有効性については、事前に対応していないことにリスクが非常に大きいです。
 経験上、裁判上の手続で残業代請求をされた場合、かなりの事案で会社にとって不利な結論となっています。
 そのため、固定残業代の運用や、雇用契約書、就業規則や労働条件通知書について見なおしてみるのはいかがでしょうか。
 具体的な内容等の相談は是非専門家にしてください。