振込先を間違った!誤振込みの法律問題

(質問)
 ⅩはA名義の普通預金口座に5000万円を振り込むため,Y銀行B支店に振込依頼をしましたが,Ⅹは誤ってZ名義の普通預金口座を受取口座に指定しました。これにより,同口座に5000万円の入金記帳がなされました。Xは、これに気づき,金融機関に連絡しましたが,Zはすでに入金された金銭全額を引き出していました。
 この場合、どのような法律関係になるでしょうか。

(回答)

1 誤振込みの法律問題
振込依頼人が誤った口座を受取口座に指定してしまい、金融機関がこれに従って入金処理をしてしまったような場合を誤振込みといいます。最近では、ある自治体が住民に対して新型コロナウイルス対策関連の給付金を誤って振込んでしまった事件が話題となっていましたが、これも誤振込みの事例の1つです。今回は、誤振込みが発生した場合の法律問題について、お話しします。

2 受取人は誤振込みにより預金債権を取得する!?
振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人と金融機関は、どのような法律関係になるでしょうか。判例では、振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対してその金額相当の普通預金債権を取得すると判断されています(最判平8・4・26民集50巻5号1267頁)。つまり、振込依頼人の錯誤により誤振込みが生じた場合、受取人は金融機関に対して預金債権を取得します。そのため、銀行実務では、振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人が、入金処理の完了後に申し出た場合、受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す手続き(組戻し)を行います。

3 振込依頼人から受取人に対する不当利得返還請求
誤振込みをした場合、組戻しができれば問題はありません。しかし、受取人が組戻しに応じなかった場合、振込依頼人は、受取人に対して、どのような請求を行うことができるでしょうか。確かに、受取人は振込金額に相当する預金債権を取得しますが、預金債権に相当する金銭的価値は、本来、振込依頼人に帰属すべきものです。そのため、振込依頼者は受取人に対し,誤振込みによって法律上の原因なく利益を受け、他人に損失を及ぼしたとして,不当利得返還請求をすることができます。
  ただし、預金を引き出されて、受取人にめぼしい財産がなくなってしまうと、強制執行が困難となります。そこで、予め、不当利得返還請求権を被保全権利として,預金債権の仮差押えをする必要があります。

4 受取人は刑事責任を負うか?
受取人は誤振込みにより預金債権を取得するとされますが、「振込依頼人が勝手に間違えたんだから、払い戻していいでしょ」とはいきません。受取人が誤振込みと知りながら払戻し等を受けた場合には、刑事責任を負う可能性があります。
誤振込みと知りながら、銀行窓口でその情を秘して預金の払い戻しを受けた場合、詐欺罪(刑法第246条1項),現金をATMから引き出した場合、窃盗罪(刑法第235条)、ATMで他の口座に振り替えた場合には、電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)が成立する可能性があります。
振込依頼人も、受取人も、誤振込みに気づいた際には、直ちに、金融機関に知らせて組戻しの手続きを採る対応が適切です。誤振込みに限らず、預金に関する法律問題も弁護士にご相談ください。

はじめに

これまでの諸団体の会報等を取りまとめたものです。
内容については個人的な意見であり,事実・不正を保障するものではありません。
あくまでも参考にしていただければ幸いです。


明渡断行の仮処分

(相談)
 私(X)は、老朽化した雑居ビルが建っている土地の所有者であり、ビルの跡地に大規模な商業施設を建設する予定です。
 ビル内の全テナントとは合意解約または期間満了による退去手続きを完了していますが、1店舗(飲食業)を営むY氏だけが、解約手続が完了しているにもかかわらず、立ち退きたくないと主張して退去を拒否し、現在も不法に占有を続けています。
 来月からビルの解体工事を開始し、再来月には大手ゼネコンとの間で締結済みの建築工事請負契約に基づき、新築工事に着工する予定です。
 もし着工が遅れれば、ゼネコンへの多額の延滞違約金が発生するだけでなく、既に入居が決まっているテナントへの補償など、損害は1日あたり数百万円に上る見通しです。
 通常の建物明渡請求訴訟を提起していては、判決確定まで1年以上かかると聞き、それでは到底間に合いません。
 何か強制的に、かつ迅速に立ち退きを実現する方法はないでしょうか。

(回答)

1 明渡断行の仮処分の定義と性質
 相談事例の場合、建物明渡しの断行の仮処分を裁判所に申し立てることが考えられます。
 建物明渡しの断行の仮処分とは、民事保全法に定められた仮の地位を定める仮処分であり、本案訴訟の判決を待つことなく、暫定的に明渡しの強制執行をすることができる手続きのことです。
 通常の建物の明渡手続では、まず建物明渡請求訴訟を提起し、勝訴判決を得た後、その判決が確定し、ようやく強制執行の申立てと明渡執行に至るという長いプロセスを経る必要があります。
 これに対し、仮処分は裁判所が最終的な勝訴判決を待たずに、債権者(建物所有者)の権利実現に必要な状態を暫定的に作り出す救済手段です。
 民事保全法第23条第2項に基づき、債権者に重大な損害や急迫の危険が生じると認められる場合にのみ認容されます。
 この制度により、最終的な判決を得る前であっても、裁判所の命令に基づいて執行官による明渡執行を進めることが可能になります。

2 明渡断行の仮処分の要件
 断行の仮処分が認められる要件として、被保全権利と保全の必要性の要件を充足する必要があります。
 まず被保全権利とは、仮処分によって保全されるべき法的権利を指します。
 建物明渡断行の場合、その核心となるのは賃貸借契約の終了に基づく明渡請求権や、所有権に基づく明渡請求権です。
 民事保全法の趣旨に鑑みると、当該権利関係が存在し、かつその内容が争いの対象となっている場合であっても、裁判官が一応確からしいと判断できる程度に疎明されていれば足りるとされています(事案によります)。
 相談事例においては、契約解除の通知や賃料滞納の事実を証明する資料、契約満了に伴う明渡請求権の存在を示す書面、さらにはYによる違法な利用状況を裏付ける調査資料などによって、債権者側の権利内容が一応明確であることを立証する必要があります。
 次に、保全の必要性ですが、民事保全法第23条第2項では、仮処分を認める要件として債権者に著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要であることを求めています。
 このことから建物明渡しの断行における保全の必要性は、訴訟における証明とほとんど差のない程度の相当高度の疎明が要求され、その判断は、個別事情を基礎として総合的に判断されることになります。
 具体的には、明渡しが遅延することによって債権者が受ける損害の内容・程度と、仮の明渡しを求める緊急の程度等を総合考慮して決定されます。
 相談事例では、まず、明渡しが遅延した場合、Xは再開発事業の実施が不可能となり、解体工事および新築工事の開始が妨げられます。
 その結果、ゼネコンへの延滞違約金の発生や、入居予定テナントへの補償など、1日あたり数百万円規模の損害が生じる見込みであり、これらは事後的な金銭賠償によって十分に回復することが困難です。
 したがって、Xが被る損害は著しいと評価できます。
 また、工事開始時期がすでに具体的に定められており、損害の発生が差し迫っています。
 他方、通常訴訟によれば、判決確定までに相当期間を要し、その間に損害が拡大し続けるおそれがあります。
 さらに、Yの占有は解約手続の完了後も正当な権原なく継続されており、その違法性も高いといえます。
 もっとも、断行の仮処分は、事実上、最終的な権利実現と同視し得る強力な効果を有するものであるため、最終的には裁判所の判断に委ねられることとなり、保全の必要性が認められるためのハードルは極めて高いといえます。
 したがって、相談事例においても、直ちに認容されることが当然に期待できるわけではなく、個別具体的事情に即した慎重な判断がなされることになります。

3 さいごに
 建物明渡しの断行の仮処分は、通常の訴訟とは異なり、迅速に実力的な解決を図ることができる非常に強力な法的装置です。
 一方で、その強力さゆえに認容されるためのハードルは極めて高く、申立てにあたっては慎重な準備が不可欠となります。
 不動産の明渡し等でお困りの際には、専門家である弁護士にご相談ください。

「女性だけ転勤なし」は違法?-女性管理職を増やしたい中小企業の法的対策

(相談)
 当社では優秀な女性社員がいるのですが、「子育てで忙しい」「管理職の責任が重い」などを理由に昇進を辞退されることが多く、女性管理職がほとんどいません。
 人材不足の中で女性の力を活用したいのですが、女性だけに有利な条件(転勤なし、残業制限など)を設けることは法的に問題ないでしょうか。

(回答)

1 「30%目標」の現実は11%の厳しい実情
 政府が掲げる「女性管理職30%」の目標に対し、現実は11.1%(令和7年)という厳しい状況です。
 特に中小企業では、限られた管理職ポストの中で女性登用の難しさが際立っています。
 しかし人材不足が深刻化する中、女性人材の活用は競争力確保の重要な鍵となっており、適切な法的対応が求められています。

2 「女性だけ優遇」が認められる法的根拠
 実は、男女雇用機会均等法第8条により、一定条件下で女性を有利に取り扱う「ポジティブ・アクション」が認められています。
 適用条件は明確です。
 当該職種や管理職において女性の割合が4割を下回る場合、女性のみを対象とした措置が可能となります。
 転勤免除や残業時間制限なども、適切に設計すれば合法的に実施できます。
 ただし重要なのは、単に「女性を増やしたい」だけでは不十分で、これまでの企業慣行が原因で生じた男女格差の解消が目的である必要があることです。

3 実施時に絶対避けたい3つの「落とし穴」
⑴ 現状分析なしの見切り発車
 なぜ女性管理職が少ないのか具体的理由を把握せずに制度導入すると、効果が出ないだけでなく法的リスクも高まります。
 まず過去の昇進実績や辞退理由を数値で整理し、構造的な問題を特定することが必要です。
⑵ 男性社員への説明不足
 女性優遇措置について背景や目的を説明しないと、逆差別クレームや職場の雰囲気悪化を招きます。
 全社員に現状データを示して説明し、「一時的な格差是正措置」であることを明確に伝えましょう。
⑶ 賃金格差の見落とし
 転勤免除により出張手当対象外となるなど、結果的に賃金格差が生じると労働基準法違反の可能性があります。
 手当の支給基準や昇格要件を事前に精査し、不利益が生じない制度設計が重要です。

4 中小企業だからできる!機動力を活かした成功戦略
 中小企業の強みは、社長の決断で迅速に変われることです。
 まず既存の女性社員に率直に聞いてみましょう。
 「何が昇進の障害になっているか」を。
 多くの場合、制度より「長時間労働が当たり前」という組織文化が最大の障壁です。
 働き方改革と一体で進めることが成功の秘訣です。
 段階的アプローチも効果的。
 いきなり管理職ではなく、プロジェクトリーダーなど中間ポジションで経験を積んでもらう方法もあります。

5 「コスト」ではなく「投資」として考える
 女性管理職登用は法的要請への対応という受身の取組みではなく、企業成長を支える戦略的投資です。
 多様な視点による意思決定で、サービス向上や新アイデア創出につながります。
 また若手採用でも、女性活躍の職場環境は重要な選択要因となっています。
 取引先でも女性活躍推進が重視される傾向が強まっており、先行的取組みは新たなビジネス機会獲得の可能性も秘めています。

5 まとめ
 完璧な制度を一度に構築する必要はありません。
 小さな改善を積み重ね、組織文化を段階的に変革していくことが成功への道筋です。
 重要なのは、自社の実情に応じた現実的アプローチの採用と、全社員の理解を得ながら進めることです。
 適切なリスク管理により、多様性ある働きやすい職場環境の実現につながるでしょう。
 人事制度や女性活躍推進でお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

会社の秘密保持義務

(相談)
 会社の秘密保持をするために、具体的にどのようなことをする必要があるでしょうか。

(回答)
 会社の秘密保持は、対外的な対策(取引先など外部組織との関係での定め)、対内的な対策(在籍しているまたは退職した従業員との関係での定め)の大きく2つに分けることができます。

1 対外的な秘密保持条項
 一般的に事業者同士で契約を締結するにあたっては、お互いのノウハウが他に流出しないように秘密保持を定めることが一般的です。
 基本契約において秘密保持条項を設ける方法でもいいですし、個別に秘密保持契約書を締結する方法でも構いません。
 会社としてどのようなことを秘密保持で定めるかについて、定型的なものを準備しておく方がいいと思われます。

2 従業員との関係での秘密保持義務
 会社のノウハウや必要な情報が漏洩するリスクは従業員との関係でも起こりえます。
 在職中の従業員との関係では、労働契約の付随的な義務として、秘密保持をする義務が認められますし、また、就業規則で秘密保持について義務付ける規定を定めるという対応をすべきでしょう。
 一方、退職後の従業員との関係で秘密保持に関してどのような合意をするかが問題となります。
 一番有効な方法は、退職する従業員との関係では誓約書を記載してもらう方法を取ることです。
 つまり、会社として退職する従業員との関係で締結する誓約書の書式を作成しておき、退職するすべての従業員に署名押印をしてもらうという方法です。
 とはいえ、無制限にただ秘密保持を定めればいいということではありません。
 専門性が乏しいものについてまで秘密保持を過度に定めるもの、技術が陳腐化する可能性があるにもかかわらず長期間の秘密保持義務を設けるものは、公序良俗に反するものとして無効と判断される可能性があります。

3 何よりも事前の準備が必要
 以上のように秘密保持に対する対応は、事前にどういった秘密を対象に、どの程度義務を定めるかを決めるものであり、会社内でどれだけ準備しているかが大事です。
 契約書の条項、就業規則や誓約書の条項でお悩みがあれば、是非弁護士にご相談ください。

隣人の防犯カメラ設置

(相談事例)
 先月、隣に住むYが自宅に防犯カメラを設置したのですが、レンズがX宅の方向を向いているため、Xは日常生活を監視されているような不快感を抱いています。
 このような状況において、Yに対して防犯カメラの撤去を求めることは法的に可能でしょうか。
 また、精神的苦痛に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

(回答)

1 プライバシー権
 プライバシー権は人格権の一種であり、憲法第13条を根拠とする重要な権利です。
 この権利は、個人が自由に自己決定を行い、私生活の平穏を保つことを保障する側面を有するものです。
 判例においても、個人が承諾なく容貌や姿を撮影されない権利が認められています。
 昭和44年の最高裁判決では、私生活上の自由の一つとして、何人も承諾なく容貌や姿態を撮影されない権利を有すると明確に示されました。
 さらに平成17年の最高裁判決においても、自己の容貌等をみだりに撮影されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益が存在すると判断されています。
 これらの判例から、個人のプライバシーが法的に保護される重要な権利であることを確立したといえるでしょう。

2 裁判例
 過去の裁判例(東京地裁平成27年11月5日)で、隣人が自宅建物1階に防犯カメラを設置した際、その撮影範囲に隣家の玄関付近が含まれていたため、隣家の住人がプライバシー侵害を理由にカメラの撤去を求めた事案があります。
 この事案において、裁判所は、個人には自己の容貌等をみだりに撮影されないという法的保護に値する人格的利益があると認めた上で、承諾なく撮影する行為が違法となるかは、撮影場所、範囲、態様、目的、必要性、画像管理方法などの事情を総合的に考慮し、被撮影者の人格的利益侵害が社会生活上の受忍限度を超えるか否かで判断すべきとしました。
 そして、カメラは固定式で特定の人物を追跡したり監視し続ける機能はなく、設置目的は防犯であり、映像は約2週間保存された後に自動的に上書きされる仕組みとなっていることを認定した一方、カメラに隣家の玄関入口付近の様子が映り、出入りする人物の顔は識別できない程度ながらかなり鮮明に撮影されており、隣人らが公道に出るまでの通行場面が継続的に撮影されていたことを認定した上で、撮影場所が屋外であることを考慮しつつも、隣人らの玄関付近という私的領域が撮影範囲に含まれ、日常生活が常時撮影される状況にあることから、プライバシー侵害の程度は大きいと判断し、カメラの撤去と損害賠償を認めました。

3 相談事例について
 上記裁判例の考え方によれば、カメラ撮影によるプライバシー侵害の違法性は、撮影が行われる場所、撮影範囲・画角、撮影の態様や目的、必要性の有無、撮影データの管理方法等の諸要素を総合的に考慮し、当該撮影により、Xの人格的利益侵害が社会生活上の受忍限度を超えるか否かで判断されます。
 相談事例においても、防犯カメラがX宅のどの部分まで映しているか(敷地内部が常時鮮明に映されているか否か等)、防犯目的として当該角度・範囲の撮影が客観的に必要であるといえるか、撮影された映像データが適切に保管・管理されているかといった点等が重要な判断要素となります。
 仮に、Yが設置した防犯カメラがX宅の居住空間や日常生活の様子を継続的かつ鮮明に記録し、かつそのような撮影が防犯上の必要性を欠く場合等には、Xのプライバシーに対する人格的利益侵害が受忍限度を超えるものとして、カメラの撤去請求や損害賠償請求が認められる可能性が高いと考えられます。

4 さいごに
 自宅への防犯カメラの設置は昨今の治安不安から増加していますが、隣人等のプライバシーへの慎重な配慮が必要です。
 相談事例のような争いを予防するには、設置者が事前に撮影範囲を確認し、必要に応じて隣人に撮影目的を説明すること、撮影範囲を必要最小限に限定すること等が望ましいといえます。
 隣人トラブルなどでお困りの際には、専門家である弁護士にご相談ください。 

生成AIを取り巻く著作権の問題

 現在、「生成AI」の活用が注目されていることはみなさんご存じのとおりです。
 しかし、先端技術と法規制は切っても切れない関係にあります。
 「新しい」ということは、それだけ「どこまでなら安全か、明確な境界線がない」ということにつながりやすいからです。
 生成AIの代表格である「ChatGPT」に対して、「小林裕彦法律事務所のコラムを参考にして、参考元が分からないようにして、人事評価の落とし穴と法的対処法に関する記事を書いてください」という指示を出すと、参考元となったコラムとほとんど同じ表現の記事が作成されます。
 このような生成AIの利用が著作権侵害になる可能性があることは、直感的にお分かりいただけるかと思います。
 そこで今回は、生成AIを業務で用いる場合に気を付けるべきポイントの1つである、著作権との関係についてお話しします。

1 著作権侵害の判断基準とは?
 生成AIは大量の情報を集積・組み合わせ・解析した結果を出力します。
 このとき、意図せず集積元の著作物の著作権を侵害するリスクがあります。
 では、どのような場合に著作権侵害となるのでしょうか。
 判例上、既存の著作物との類似性と依拠性がいずれも認められる場合に著作権侵害となるとされています。
 そして、類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることをいいます。
 「表現上の本質的な特徴」というと分かりにくくなりますが、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法(以下「法」といいます。)2条1項1号)であることからすれば、思想、感情、アイデア、事実、事件などの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するに過ぎない場合には著作権侵害にはならないことになります。
 また、私的利用のための複製や引用のような権利制限規定に該当する場合には権利者の許諾を得ることなく著作物等を利用することができます。
 例えば、情報解析に用いるといった、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、著作権者の許可を得ることなく直作物を利用することができます(法30条の4)。

2 生成AIによる著作権侵害のリスク
 元の著作物と類似性のない要約、事実やアイデアなどが出力されるに過ぎない場合には、著作権者の承諾なく元の著作物を蓄積・入力しても、著作権侵害にはなりません。
 これに対し、冒頭のコラムの例のように、元の著作物の創作的表現がそのまま出力される場合には、権利制限規定に該当しない限り、著作権侵害に該当する可能性があります。
 特に、既存の著作物と類似する生成物を作成させる目的でプロンプトに既存著作物を入力する行為は、生成AIによる情報解析に用いる目的だけでなく、入力した目的物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法30条の4が適用されず、著作権侵害となるおそれがあります。
 著作権侵害が認められた場合、侵害者は、差止請求、損害賠償請求及び著作権侵害に基づく刑事罰の措置を受ける可能性があります。
 このうち、差止請求と損害賠償請求については、故意がない場合であっても対象となるため注意が必要です。

3 AI生成物は著作物となるか?
 生成AIを活用したビジネスモデルを考える際、AI生成物が著作物となるか否かは重要な問題です。
 そもそも、生成AIにおける著作者が人なのかAIなのかも気になるところです。
 まず、「著作者」とは、「著作物を創作する者」をいいます(法2条1項2号)。
 そして、AI生成物が著作物に該当すると判断された場合の著作者は、当該AIを利用して「著作物を創作した」人となります。
 少なくとも今のところ、AIは「者」に含まれないようです。
 次に、AI生成物の著作物性の有無の検討に当たっては、AI利用者が創作的寄与をしたかという視点が重要になります。
 例えば、プロンプトの内容が創作的な表現を具体的に示す詳細なものであった場合には、AI生成物はAI利用者の創作的表現を反映したものといえ、著作物と評価される可能性が高くなります。
 これに対し、単なるアイデアにとどまる指示であれば、著作物には当たらないことになります。

4 生成AIとの付き合い方
 AIは、中小企業の業務において、リサーチの高度化・迅速化、各種文書の作成・レビュー、機械的業務の処理などに役立つ強力なツールです。
 その反面、著作権法や個人情報保護法といった法律との関係に留意する必要があります。
 また、生成AIは確立に基づいて次の単語を予測しているに過ぎないため、しれっと嘘をつきます。
 法的リスクと対策を十分に理解し、戦略的なAI活用を進めていくことが、持続的な成長への鍵となるでしょう。

危険な「当たり前」──「みんなやってる」が命取りになる人事評価の罠

(質問)
 当社では、「電話は若手が取る」「新人は早めに出勤する」等の暗黙のルールがあります。
 しかし、最近入社したある社員がこうしたルールに従わず、他の社員から不満が出ています。
 当該社員の仕事上の能力に問題はありませんが、職場の雰囲気が悪くなっていることは見過ごせません。
 このような場合、協調性がないことを理由に人事評価を下げることを検討していますが、問題ないでしょうか。

(回答)
 ご相談のような「暗黙のルール」トラブルは近年急増していますが、安易に協調性不足を理由として人事評価を下げることは、深刻な法的リスクを招く可能性があります。

1 急増する「そんなの聞いてない」トラブル
 「社内イベントの幹事は若手が担当」「先輩社員は後輩の昼食代を出す」など、多くの企業には明文化されていない慣行が存在します。
 特に中途採用者がこうしたルールを知らずに入社した場合、既存社員との価値観の衝突が生じるケースが増えています。
 ただし、暗黙のルールに従わない社員に対し、協調性不足を理由に人事評価を下げる対応は法的に非常に危険です。

2 見落としがちな3つの法的リスク
 労働行政研究所の調査(令和3年)では、協調性評価を昇格に反映する企業は26.7%存在しますが、問題はその基準の曖昧さです。何を改善すべきかが不明確な評価は、合理性を欠く人事権の濫用と判断される可能性があります。
 また、「掃除は女性社員が行う」「会議室の準備は新人が担当」などの慣行は、性別や立場による差別的取扱いとして、ハラスメントに該当する可能性があります。
 さらに、評価基準の不透明性は労働者側に格好の攻撃材料を与え、退職時に「不当な人事評価による精神的苦痛」を理由とした損害賠償請求に発展するケースも生じないとも限りません。

3 実践的な「見えないルール」撲滅法
 対策は3段階で進めます。
 まず、現状の見える化として、社内の暗黙のルールを洗い出し、業務上の合理性と法的問題の有無で分類します。
 継続すべきもの、修正すべきもの、廃止すべきものを明確に区分することが重要です。
 次に、具体的な行動基準への転換です。継続・修正すべきルールは具体的な行動基準として再定義することが必要です。
 例えば「電話は若手が取る」を「積極性の発揮:率先して来客・電話対応を行い、スキル向上に努める」と表現し直します。
 重要なのは「なぜそれが必要なのか」を明確にすることです。
 最後に、プロセス重視の評価体制の構築です。結果だけでなくプロセスを評価する仕組みづくりにより、「暗黙のルール」に馴染めない社員でも別の形で組織貢献できる道筋を用意することが、多様性のある職場環境の実現につながります。

4 中小企業ならではの機動力を活かす
 中小企業には「社長の一声で変わることができる」強みがあります。
 定期的な全社員ミーティングで職場のルールについて議論することで、健全な組織文化を醸成できます。
 また、中途採用者にはオンボーディング期間(新人の職場適応支援期間)を設け、会社独自の価値観や期待される行動を丁寧に説明することで、トラブルを未然に防ぐことも重要です。
 現在の労働市場では、画一的な価値観を押し付ける企業よりも、多様性を受け入れる企業の方が優秀な人材を引きつけます。
 「暗黙のルール」の見直しは、法的リスクの回避だけでなく、採用力強化という戦略的メリットも生み出します。

5 まとめ
 「暗黙のルール」の改革は一朝一夕には進みませんが、明確で合理的な基準に基づく評価制度の構築は、法的リスクを回避し、全社員が能力を発揮できる職場環境の実現につながります。
 変化を恐れず、時代に適応した組織文化を築いていくことが、中小企業の持続的成長の鍵となるでしょう。
 人事評価や労務管理でお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

「下請」というワードがなくなる!?下請法の改正

(質問)
 来年の1月に下請法の改正がなされるということを聞いています。
 今後気を付けていくべきことはあるでしょうか。

(回答)

1 下請法の概要
 最近のニュースで、複数件、長期間、金型の無償保管をさせていたという問題が取り上げられていたと思います。
 これは下請法に定める禁止事項である「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するものであり、法律に従い、勧告がなされています。
 下請法は、他にも禁止行為として、「下請代金の支払遅延(60日以内)」、「下請代金の減額」「買いたたき」等が定められており、これらに違反した場合は公正取引委員会から勧告・指導がなされ、最悪の場合罰金となります。
 また、公正取引委員会のホームページで勧告された企業は公表されることになります。
 下請法が適用される対象の取引は、現状、双方の会社の資本金の額のみが参照されています。
 例えば図面の作成などの「役務提供委託」については資本金が5千万円を超える会社が、資本金5千万円以下の会社と取引する場合又は資本金が1千万円を超えて5千万円以下の会社が、資本金1千万円以下の会社と取引する場合が適用対象となります。

2 下請法の概要と具体的な法改正の内容
 令和8年1月から、下請法の改正がなされ、法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となり、通称は「取適法(とりてきほう)」となります。
 つまり、「下請法」という呼称がなくなることとなります。
 合わせて、「下請」という概念も廃止され、それぞれ「下請事業者」→「中小受託事業者」、「親事業者」→「受託事業者」という概念が用いられるようになります。
 法律の内容についても、複数の改正があります。
 具体的には、代金額の協議をすることが受託事業者に義務付けられるようになりました。
 これは、物価高騰による仕入れ値の変動等が生じた場合等において、中小企業事業者が代金について交渉できる場を設けるために制定されたものです。
 他にも、支払方法として、手形払いが禁止になりました。
 さきほど説明した、法律が適用される対象も取引についても改正がなされています。
 改正後は、資本金の額のみでなく、契約当事者それぞれの従業員数によっても法律適用が認められることにもなりました。
 具体的には、300人を超える従業員を有する会社が300人以下の従業員を有する会社と取引する場合(「役務提供委託」については、100人を超える従業員を有する会社が100人以下の従業員を有する会社と取引する場合)にも、法律が適用される対象になりました。

3 他企業との協力関係で業界の更なる発展を
 今回の改正は、何といっても、これまで以上に買いたたきを防止し、業者間で、上下関係などない完全な協力関係を築くことに主眼が置かれています。
 現下請法、改正後の取適法について、従業員含めて詳細に周知したいということであれば研修をご依頼ください。

「残業・転勤拒否でマイナス評価は違法?」〜人事評価の落とし穴と法的対処法〜

(質問)
 当社では、若手社員が「私用がある」という理由で残業命令を拒否するケースが増加しています。
 また、業務上必要な地方工場への転勤命令に対し、「家庭の事情」を理由に拒否する社員が複数発生しています。
 これらの命令拒否者に対し、人事評価においてマイナス評価とすることは法的に問題ないのでしょうか。

(回答)
 昨今、働き方改革や従業員の権利意識の高まりを背景に、残業や転勤の命令に対する拒否事例が増加しています。
 テレワークの普及やワークライフバランスの重視、ハラスメント防止の観点も相まって、「指揮命令権とは何か」が改めて問い直される時代となりました。
 この問題は、現代においても相変わらず企業を悩ませる問題であるといえるでしょう。

1 見極めろ!マイナス評価の法的境界線
 労働契約法上、労働者は使用者の指揮命令に従う義務を負いますが、すべての業務命令に従う義務があるわけではありません。
 業務命令の有効性は、①労働契約の範囲内か、②裁量権の濫用に当たらないか、という二つの観点から判断されます。
 業務命令が無効であれば当然、人事評価においてマイナス評価とすることはできません。
 一方、有効な業務命令に従わなかった場合は、「正当な理由のない業務命令拒否」として、マイナス評価の対象となり得ます。
 ただし、デジタル時代の到来により、「その指示は本当に必要か」という観点から命令の合理性が問われる事例が増えていくでしょう。

2 残業拒否は評価ダウン?36協定がカギを握る
 残業命令の有効性については、労働基準法に基づく判断が必要です。
 同法では、原則として時間外労働は禁止されており、例外的に36協定が締結されている場合にのみ、その範囲内で残業を命じることができます。
 36協定未締結の場合や協定の限度時間を超える残業命令は無効です。
 近年はクラウドツールの発達により「オフィスでの残業が本当に必要か」という新たな視点も登場し、「リモートで代替可能な作業の残業命令」の必要性が厳格に審査される傾向が増大するものと考えられます。

3 「転勤イヤです」は通る?通らない?判断の分かれ道
 転勤命令については、使用者の「業務上の必要性」と労働者の「不利益」の比較衡量が重要です。
 雇用契約や就業規則等で勤務地を特定の地域に限定する合意がある場合、その範囲外への転勤命令は原則として無効です。
 子どもの教育問題や配偶者の就業といった一般的な家庭の事情だけでは、通常、転勤命令を拒否する正当理由とはなりませんが、要介護状態の家族の存在など特別な事情がある場合に備えて、「なぜ物理的移動が必要か」という説明ができるようにすると良いでしょう。

4 中小企業の人事担当者必見!トラブル回避の秘訣
 限られた人材で事業を運営する中小企業にとって、円滑な人事異動や時間外労働の指示は事業継続の生命線となることも少なくありません。
 デジタル化が進む今日では、紙の記録だけでなくチャットログやメール履歴などデジタル証拠の保全も重要になっています。
 就業規則等で変更可能性を明記することは基本ですが、さらに一歩進んで「評価基準の透明化」にも取り組むべきです。
 なぜその命令が必要か、拒否がどのように評価されるのかを明確にすることで、紛争リスクを大幅に軽減できます。

5 まとめ
 残業・転勤命令拒否に対する人事評価は、当該業務命令が有効である場合にのみマイナス評価とすることが法的に許容されます。
 しかし現代では「命令の必要性」をデータや客観的事実で裏付けられるかが重要となっています。
 また、最終的には、指揮命令が「強制」ではなく「納得と共感」に基づくものへと変化することが、法的リスク回避と人材定着の両立につながることでしょう。
 従業員の残業・転勤拒否トラブルでお悩みの方は、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

外国人技能実習制度の見直し

(質問)
 令和6年6月に、育成就労制度に関する法律が国会で可決・成立し、3年以内に法律が施行されると聞きました。
 現在の外国人技能実習制度が育成就労制度へと変更されるとのことですが、具体的にどのような制度に変わるのでしょうか。

(回答)

1 技能実習制度の問題点
 外国人技能実習制度は、平成5年に導入され、日本の技術や技能を開発途上国へといった国際貢献を目的としていました。
 しかし、実際にはその機能を十分に果たせず、以下のような問題が指摘されていました。
 まず、技能実習生の労働環境として低賃金かつ過酷な状況に置かれ、長時間労働が常態化していました。
 また、ハラスメントの横行や賃金未払いといった問題も頻発しており、実習生には「やむを得ない事由」がなければ転職の自由が認められておらず、劣悪な環境でも働き続けざるを得ない状況にありました。
 また、多くの技能実習生は、母国の送り出し機関に高額な手数料を支払い、借金を負って来日しているため、不利な労働条件であっても簡単に辞めることができません。
 その結果、過酷な環境から逃れるために失踪する技能実習生が増加し、不法就労に至るケースが後を絶ちません。
 実際に、令和5年に失踪した技能実習生は、約1万人にも上り過去最多の人数となっています。

2 育成就労制度について
 育成就労制度は、上記の技能実習制度の問題点を改善し、外国人労働者の権利を保護しながら、日本の人材不足を補うことを目的としています。
 単なる労働力の供給ではなく、日本国内での「人材育成」と「適正な雇用」を両立させる仕組みとして設計されました。
 技能実習制度との主な比較は以下のとおりです。
 育成就労制度では、従来の技能実習制度に比べ、転職の要件が緩和され、一定の条件はあるものの、業務分野が同じであれば本人の希望で転職が可能となり、不適切な労働環境からの脱却が容易になります。
 また、企業や監理団体への監査体制を強化し、ハラスメント防止や賃金の適正支払いなど、外国人労働者の権利保護を徹底します。
 さらに、送り出し機関の規制を強化し、高額な手数料による過剰な負担を防ぐことで、借金を負って来日するリスクを軽減します。
 加えて、日本語教育を充実させ、労働者の能力向上とキャリア形成を支援します。
 最後に、受け入れ企業には研修プログラムや指導体制の整備が義務付けられ、外国人労働者の適切な育成を促す仕組みとなっています。

3 今後について
 現代では、IoTやAIの発展により仕事の効率化・自動化が進んでいますが、製造業、建設業など、人の労働力が依然として不可欠な分野も多く存在します。
 日本では少子高齢化による労働人口減少が続いており、外国人労働者の受け入れは今後さらに重要性を増すと考えられます。
 その結果、企業が外国人労働者を選ぶ時代から、外国人労働者が企業を選ぶ時代へと移行することになるでしょう。
 技能実習制度から育成就労制度への転換は、企業にとって有益な人材を確保する観点から、必要な制度改革であると考えられます。
 制度の見直しにより、企業と外国人労働者双方にとってより良い環境を整備することが期待されます。
 もっとも、文化の違いなどに起因する労使間のトラブルが増加することも予想されます。
 外国人労働者のことでお困りの際には、早めに弁護士等の専門家に御相談ください。

ハラスメントの聞き取りの問題と周知の必要性

(質問)
 当社でセクハラが疑われるような事例が発生したとの内部通報がありました。
 このことについて会社としては懲戒処分に向けてどのように対応すればよいでしょうか。

(回答)

1 会社としての対応の全体の概要
 ハラスメントの対応としては、①事実関係を確定し、②事実関係に基づいて処分内容を検討し、③対象者を懲戒処分するという順序で行います。
 特に①については事実の調査をする必要がありますが、物的証拠がないものもあり、その場合には複数の人から聴き取りを行う必要があります。
 そのため、聴き取りの注意点をお伝えいたします。

2 調査の対象の選定
 ハラスメントが疑われる事情が発生した時には、誰にどのような事実を聴取するかをまず検討する必要があります。
 被害者、加害者はもちろんのこと、目撃者も聴取対象者となります。
 とはいえ、特にセクハラは、誰も目撃者がいない状況で行われるケースが多く、その場合は、被害者、加害者以外に何も事情を知らないといったことも珍しくありません。
 その場合は、直後に被害者が連絡、相談をした人といったようになるべく直前直後の状況がわかる人を聴取対象者とするほかありません。

3 聴取の際の注意点
 事実を聴き取るにあたって、注意すべきこととしては、特定の事実があることを前提に先入観を持って質問をしてはならないということです。
 例えば被害者が言っていることがすべて正しいと信じこんで他の人に聴き取りを行うと、反発して事実を話してくれないということもありますし、本来聞き取るべきことを見落としてしまうということにもなりかねません。
 そのため聴き取りをするにあたっては、オープンな質問、すなわち、5W1Hで時系列に沿うような形で質問をする必要があります。
 とはいえ、ハラスメントの認定のために必要なことを聞き出せなくては意味がありません。
 そのため、事前に聞き出したいことは何か、その事実を話すうえで必要な質問は何かを事前に想定しておく必要があります。

4 再発防止とハラスメントについての周知の重要性
 ハラスメントに対する意識は、会社としては十分にシステムが構築されていたとしても、個々の従業員の意識がまだついて行っていないということは往々にしてあります。
 そういう意識であれば、従業員が本来ならばハラスメントに該当する行為を見たり聞いたりしたときに、会社に報告がなされない、会社が調査しても十分な協力が得られないという事態になってしまいます。
 従業員に対する意識向上のためにも、研修はもちろんのこと懲戒をしたハラスメント事例については周知を行い、会社内の規律意識を高めることが必要となります。
 とはいえ軽微な事案において、事案の詳細まで公表してしまうことは、当事者の名誉を害することとなるため、事案の概要のみに留めるのがよいといえるでしょう。

5 さいごに
 このようにハラスメントの問題は、様々な手順を踏まなくてはなりません。
 とはいえ、ハラスメントの問題を放置することはもってのほかです。
 事案によってどういう順番で事実調査を行うか、どのような質問をするかは変わってきます。
 そのため、事前に弁護士等の専門家に相談することはもちろんのこと、聴取そのものを依頼するということも推奨いたします。