懲戒処分前の退職―処分できないの!?―

(質問)
 先日、当病院の従業員であるAが突然メンタルヘルスの不調で休職することになりました。従業員らの間では、Aの上司であるBが、Aに対して公然と人格非難を伴う激しい罵倒を繰り返していたことが原因なのではないかと噂になっています。そこで、Bを呼び出したところ、Bは、こちらからの質問には何も答えず、「本日をもって退職いたします。」とだけ述べて、退職届を提出してその場から立ち去りました。その日からBは欠勤しています。
Bに対して懲戒処分を課すことは可能でしょうか。

(回答)

1 パワーハラスメントに対する懲戒処分
 仮に、Bが、従業員らの噂話どおりに、Aに対して公然と人格非難を伴う激しい罵倒を繰り返していた場合には、Bの行為は、業務の適正な範囲を超えている可能性が高いので、パワーハラスメントに該当するおそれがあります。
そして、パワーハラスメントが就業規則において懲戒処分の対象とされている場合には、Bに対して、何らかの懲戒処分を行うことが検討されるべきでしょう。
もっとも、懲戒処分を行うためには、懲戒処分を基礎づける具体的な事実について、根拠が必要となります。つまり、BがAを公然と罵倒していたことを目撃した者の証言やA自身の証言、あるいはB自身がそのようなことを行ったと認める供述を行っていることといった証拠がなければ、懲戒処分の基礎となる事実を認定することができませんので、懲戒処分を課すことはできません。
 本事例においては、Bは事実を否定しているわけではありませんが、認めてもいませんので、BがAを公然と罵倒していたことについて、Aや目撃者からヒアリングを行うことが必要です。

2 退職者に対する懲戒処分の可否
 退職届とは、従業員が会社に対して一方的に退職する旨の意思表示を行うものです。そして、法律上は、労働契約の解約の申し入れがなされた日から2週間が経過すれば雇用契約は終了することになります(民法627条1項)。
 本事例の場合、Bが退職届を提出した日から2週間が経過すれば、Bの雇用契約は終了します。
 それでは、退職した者に対して懲戒処分を課すことはできるのでしょうか。
 結論から申し上げると、退職した者に対して行った懲戒処分は効力を有しないと判断される可能性が高いです。
 なぜなら、懲戒処分とは、雇用契約に基づき企業が従業員の企業秩序違反行為に対して行う制裁だと考えられているため、雇用契約の存在が懲戒処分を行う前提となっているからです。
 そのため、退職済みの従業員に対して懲戒処分を行うことはできないと一般的には考えられています。

3 懲戒処分を行うためには、迅速な対応が必要!!
本事例の場合に、Bに対して懲戒処分を課すためには、退職届の効力が発生する前に、事実認定に必要な聴取り調査等を実施するとともに、就業規則において定められた懲戒処分の手続きを履銭しなければなりません。そのためには、懲戒処分を行う際の手続き等を日頃から確認しておき、いざというときに迅速に対応できるよう準備しておく必要があります。
懲戒処分を課すべき事件が発生した場合には、早めに弁護士に御相談することをお勧めします。

令和5年6月施行の改正消費者契約法のポイントについて

(質問)
 消費者契約法の改正法が令和5年6月から施行されると聞きました。改正法は、どのような内容でしょうか。また、事業者として、どのような点に注意すればよいでしょうか。

(回答)

1 消費者契約法の改正
 令和4年5月25日、「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年6月1日に公布されました。この法律のうち、消費者契約法の改正部分については、令和5年6月1日から施行されます。そこで、今回は、消費者契約法の改正のポイントを説明します。

2 契約の取消権の追加
 消費者契約法では、消費者保護のため、一定の場合に契約の取消しを認める規定が定められています。改正法では、消費者が困惑して意思表示をしたときに取消しが認められる類型(困惑類型)に次のような場合が追加されました。
 ① 消費者に対し、消費者契約の締結について勧誘することを告げずに、消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、消費者をその場所に同行し、その場所において消費者契約について勧誘をすること
 ② 消費者が消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、消費者が消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって事業者以外の者と連絡する旨の意思を表示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、消費者が当該方法によって連絡することを妨げること
 ③ 消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、消費者契約の目的物の現状を変更し、その変更前の現状の回復を著しく困難にすること
法改正により、事業者としては、追加された類型の勧誘行為等を行わないようにしなければならず、消費者としては、救済を受けることができる範囲が広がることになります。

3 解約料の説明の努力義務
事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、消費者から説明を求められたときは、損害賠償額の予定又は違約金の算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないとされました。これは、消費者契約法9条1項1号で、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金に関して、「平均的な損害の額」を超える部分は無効と定められているところ、事業者に算定根拠を説明する努力義務を課すことで、消費者の主張立証を容易にするねらいがあります。努力義務ではありますが、事業者としては、説明を求められた際の対応を検討する必要があります。

4 免責の範囲が不明確な条項の無効
 消費者契約法8条は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項などの一定の場合、事業者の免責条項を無効とすることを定めています。改正法では、無効となる条項として、新たに、事業者の債務不履行(故意又は重過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた事業者の不法行為(故意又は重過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者等の重過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない条項が追加されました。例えば、免責条項として、「法令に反しない限り、事業者の損害賠償責任を免除する。」といった免責範囲が不明確な条項を定めた場合は、無効となります。今後、事業者としては、「軽過失の場合、事業者の損害賠償責任を免除する。」などといった免責範囲を明確にした条項を定める必要があります。

5 事業者の努力義務の拡充
 その他にも、解除権行使に必要な情報提供、定型約款の表示請求権に関する情報提供など事業者の努力義務が拡充されました。これらも努力義務とはいえ、事業者としては、情報提供のマニュアルを整備、修正するなどの対応が必要になります。

消費者契約法は、消費者を取り巻く状況の変化に応じて、法改正がなされます。事業者は、法改正に対応して、契約書の内容、顧客の対応を修正していなかければなりません。契約に関する法律問題については、弁護士にご相談ください。

令和5年4月「遺産分割のルール」が変わる?

(質問)
 10年以上前に、父親Aが死亡しました。相続人は、母親X、長男Y、次男Zの3名でした。Aは、A所有の土地上に自宅を所有していました。Aが死亡した際に、Xが自宅に住んでいたため、遺産分割の協議は行わず、Xがそのまま居住していました。その後、Xが死亡したため、YとZは、AとXの遺産につき、遺産分割することになりました。
令和5年4月1日に施行される改正民法で、相続開始から10年間を経過して、遺産分割が未了の場合には、遺産分割に関して主張が制限されると聞きました。これまでとは、どのような違いが生じるのでしょうか。

(回答)

1 遺産分割に関する見直し
 事例のように、「あとで、ええじゃろ。」と遺産分割がされていないケースはよく目にします。近年、所有者不明土地問題の原因として、土地等の所有者の死亡後、遺産分割が行われず、登記上の所有名義人が数世代前のままになっていることが挙げられています。そこで、民法改正により、遺産分割を促進する方策として、遺産分割の規定の見直しがされました。 

2 特別受益と寄与分の主張の制限
遺産分割協議には、これまで同様に、期間制限はありません。しかし、今回の改正によって、相続開始時から10年を経過した後に遺産分割を行う場合には、民法903条・904条(特別受益)と904条の2(寄与分)の規定が適用されず、特別受益及び寄与分の主張をすることができなくなりました。この場合、法定相続分又は遺言書に基づく指定相続分で遺産分割を行うことになります。
ただし、以下の場合は、上記の制限が適用されません。
 ① 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき
 ② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了時6か月以内の間に、遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき
事例では、例えば、YがAの生前にAから不動産や自動車の購入資金など多額の援助を受けていたとしても、Aの相続開始から10年経過後に遺産分割する場合には、Zは、特別受益の主張ができず、相続できる遺産が減少し、損をする可能性があります。
なお,期間経過後は、法定相続分又は指定相続分に従って遺産が分割されたものとみなされるわけではありませんので、勘違いしないようにしてください。

3 経過措置
上記の法改正は、令和5年4月1日に施行されました。改正法は、施行日前に相続が開始した遺産分割にも適用されるため、注意が必要です。ただし、経過措置により、少なくとも、施行時から5年の猶予期間が設けられます。すなわち、施行時に相続開始から既に10年が経過している場合、または、相続開始時から10年を経過する時が施行時から5年を経過する時よりも前に来る場合であれば、施行日から5年経過するまでは、特別受益・寄与分の主張ができます。相続開始時から10年を経過する時が施行時間から5年を経過する時よりも後に来る場合は、相続開始時から10年の経過時が基準となります。

4 遺産分割協議はお早めに!!
 これからは、遺産分割を行わず、放置した場合、特別受益や寄与分の主張ができず、損をする可能性があります。特別受益や寄与分に争いがある事案では、そのままにせず、早めに、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるといった対応が必要です。また、令和6年4月には、不動産登記法の改正により、相続登記の申請期限が罰則付きで定められます。これを機会に、放置している遺産について、遺産分割協議を行うべきでしょう。遺産分割に関する法律問題、調停の申立てに関してお困りの際には、弁護士にご相談ください。

割増賃金に関する労働基準法の改正について

(質問)
 法律が改正されたことにより、これまで支払っていた残業代よりも多くの残業代を支払わなければならなくなると聞きました。どのように法律が改正されたのか教えてください。また、時間外労働を削減するために意識すべきことがあれば教えて下さい。 

(回答)

1 割増賃金に関する法改正
労働基準法の改正により、令和5年4月1日から、中小企業においても、1ヶ月の労働時間が60時間を超えた場合の割増賃金率を5割以上としなければならなくなります。つまり、時間外労働が多い企業は人件費が増加することになります。
  もっとも、支払うべき残業代が増えるから時間外労働を減らせばよいという安直な考えは非常に危険です。

2 長時間労働に内在するリスク
長時間労働抑制の本質は企業にとって致命的なリスクを回避することにあります。すなわち、長時間労働に起因する過労死、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺は、廃業に繋がりうる重大な問題であり、企業内部の問題にとどまりません。具体的に言うと、過労死が起きた場合、刑事罰や事業場名が公表され、社会的信用の失墜に繋がります。さらに、それによって新規採用にも影響が出ます。そして、過労死した従業員の遺族に対する民事上の責任も負うことになるのです。
また、精神障害による退職などのメンタルヘルスの問題も増加しています。当然ながら、長時間労働に伴って睡眠時間が確保できなくなります。睡眠時間とメンタルヘルス不調には密接な関係があり、睡眠時間の減少はメンタルヘルス不調者の発生頻度を高めると言われています。

3 残業時間の目安を知ることが重要!
労働基準法では、36協定における時間外労働は月45時間・年360時間を原則としています。ただし、臨時的な特別の事情があって36協定に「特別条項」を設ける場合には、①月45時間を超える特別条項が適用される月数は1年について6ヶ月(6回)まで、②1年の時間外労働の上限は720時間、③1ヶ月の時間外労働は休日労働を含めて100時間未満、④複数月の平均で、時間外労働等休日労働の合計時間は80時間以内、といった要件の範囲内の時間外労働は認められています。
また、時間外労働時間が月45時間を超えて長くなるほど疾病と業務との関連性が強まるため、労災認定されやすくなると考えられています。
このような労働基準法の規制や労災認定の運用からすれば、時間外労働の目安は月45時間以内、1日当たり2.25時間以内と考えるべきです。
もっとも、繁忙期や一時的な人員の不足などの理由により、1年のうちに何ヶ月かは月に60時間以上の時間外労働が必要な場合もあるでしょう。そのため、普段はできるだけ時間外労働を減らすように努め、繁忙期に必要な時間外労働ができるよう労働時間を管理することが重要です。
それによって、長時間労働によるリスクを抑えつつ、余分な人員を増やすこともなく人件費を維持することができます。また、具体的な数字が明確になれば、その数字を達成することができるよう意識して残業時間を削減することも容易になるでしょう。
従業員の労働時間の把握や管理についてお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。

高年齢者人材をいかに活用するか?

(質問)
 定年が70歳になったと聞いたのですが本当でしょうか。それは義務なのでしょうか。詳しく教えてください。

(回答)

1 高年齢者の就業確保措置
 ご存知の方も多いと思いますが、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正法により、事業主は、高年齢者に70歳までの就業確保措置を取ることが努力義務とされています。
 努力義務規定は、それに反する行為を違法・無効とする効果を有するものではなく、当事者の任意の履行に期待するルールです。
 そのため、これを遵守せずとも、違法とはされませんが、必要と認める場合、厚生労働大臣が事業主に対して指導・助言等を行うことができると定められています。
 現状、努力義務ではありますが、70歳までの就業確保措置を講じることを検討してはいかがでしょうか。
 そこで、70歳までの就業確保措置を導入する際に、何を考えるべきかをお話しします。

2 有期契約による再雇用を選択する場合
⑴対象者基準の設定
 65歳以上の高年齢者と有期雇用契約を締結して継続雇用する制度を導入する場合には、対象者基準の設定をすべきです。既に、70歳までの高年齢者就業確保措置を導入している企業では対象者基準を設定しているところが多くあります。65歳未満の継続雇用と異なり、70歳までの就業確保措置は努力義務であるため対象者基準の設定は可能であると解されています。ただし、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反するものは認められないと考えられます。65歳以降に関して対象者基準を設定する場合の就業規則の規定例は厚生労働省の「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」に掲載されているので参考にしてください。

⑵待遇の設定
 70歳までの継続雇用をする場合、待遇をどのようにするかも検討が必要です。待遇差を設ける場合には、定年前の無期契約労働者と定年後の有期契約労働者と比較し、職務内容などを考慮して、待遇差の相違が不合理と認められないようにしなければならず、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)8条に違反しないように注意が必要です。定年後再雇用者のモチベーションを維持するためにも、労使協議を経たうえで、定年後の業務内容も工夫しつつ、労働者の納得を得られるような待遇を設定すべきでしょう。
待遇の設定につき、厚生労働省の「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」によれば、「高年齢者の意欲及び能力に応じた就業の確保を図るために、賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合」には「能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること」、「勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲及び能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること」、「就業生活の早い段階からの選択が可能となるよう勤務形態等の選択に関する制度の整備を行うこと」などが記載されています。

⑶無期転換申込権への対応
 60歳から65歳まで1年契約の再雇用で、65歳以降も同じく再雇用を行う場合、65歳を超えた段階で労働契約法18条1項による無期転換申込権が発生するため、注意が必要です。有期契約特別措置法に基づく特例の適用を受けることや無期転換申込権が行使されることを見越した第二定年制の導入により対応することが考えられます。

3 創業支援等措置を選択する場合
 就業確保措置として、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入などを選択することもできます。これを「創業支援等措置」といいます。
⑴下請法との関係
 70歳までの就業確保措置として、創業支援等措置を取る場合、雇用によらないため、高年齢者の雇用管理上の規制や労働法規の規制を受けることはありませんが、下請法等の規制を受ける場合がることにも注意が必要です。

⑵労働者性について
創業支援等措置は雇用によらない措置であるため、対象となる高年齢者に労働者性が認めらない働き方としなければなりません。労働者性が肯定された場合、労働法規の適用されるリスクがあります。

4 高年齢者人材をいかに活用するか
 今後、少子化により若手人材が不足する中で、健康で勤労意欲のあるシニア人材の活用が必要となります。企業は、法律が変わったからというよりは、いかに働く意欲のある高年齢者を活かすかという視点で、その職務内容や待遇を設定していくべきではないでしょうか。ポストコロナ禍の時代を勝ち抜くため、人事制度・賃金制度全体の見直しを図るタイミングが来ているのではないかと考えます。
 企業の人事制度・賃金制度の見直しには、同一労働同一賃金、就業規則の不利益変更など法的な検討を要する場面がたくさんあります。お困りの際には、お気軽に弁護士にご相談ください。

迷惑行為動画の投稿問題と企業の対応

(質問)
 某回転ずしチェーン店での迷惑行為動画が世間を賑わせていますが、法的責任と企業の対応について教えてください。

(回答)

1 SNSでの迷惑行為動画の投稿問題
 令和5年1月末頃、某回転ずしチェーン店で、客が卓上のしょうゆボトルの注ぎ口や未使用の湯のみをなめる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件が、その直後、2月初め頃にも、別の某回転ずしチェーン店で、客がレーンを流れる寿司を手づかみで直接食べ、卓上の醤油ボトルを口に含んで笑みを浮かべる様子などを撮影した動画がSNS上に投稿される事件がありました。どちらも、単なる悪ふざけでは済まされず、刑事事件になっています。そこで、今回は、迷惑行為の法的責任と企業の対応についてお話しします。 

2 迷惑行為に対する民事責任
店舗で迷惑行為を行い、その様子を撮影して、SNSに投稿する行為には、その行為と因果関係が認められる範囲の損害につき、行為者は、不法行為に基づき損害賠償責任を負う可能性があります。損害の範囲としては、消毒や清掃などの対応に要した費用、減少した売上に相当する金額などが認められると考えられます。ただし,特に,売上の減少が損害と認められるかは、迷惑行為と売上げの減少との因果関係を立証できるのかという問題があります。損害の範囲は、事案によって異なりますが、迷惑行為により売上げが大幅に減少した事案であれば、極めて高額な損害賠償請求となる可能性もあります。

3 親の監督責任を追及できないのか?
 ひと昔前にはバイトテロなんてものもありましたが、若者による迷惑行為が多く問題となっています。そこで、迷惑行為者が、未成年の場合、親に損害賠償請求できないかという問題もあります。
⑴責任能力がない未成年者の場合
未成年は、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき、賠償責任を負いません。裁判例上、12歳程度までの子どもについては、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていないと判断される傾向です。責任無能力者が責任を負わない場合、その監督義務者は、監督義務を怠らなかったこと、又は、監督義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しない限り、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法714条)。責任能力がない未成年者の場合、未成年者は責任を負わず、民法714条により、親に対して、損害賠償請求することができます。
⑵責任能力がある未成年者の場合
また、未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の監督義務違反と未成年者の不法行為によって生じた結果との間に因果関係があるときは、監督義務者に民法709条に基づく不法行為が成立します。もっとも、この監督義務とは、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務であるため、一般論として、子による突発的な迷惑行為には、監督義務の違反は認められにくいと考えられます。
以上のように、民事責任については、損害の範囲はどこまで認められるか、迷惑行為者が若者(特に未成年)の場合、賠償金を回収できるのかという問題なども考慮する必要があります。

4 迷惑行為に対する刑事責任
 刑事責任としては、迷惑行為により、業務を妨害した場合には、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪が成立します。また、備品を損壊、汚損など物の本来の効用を失わせた場合には、器物損壊罪が成立します。刑事責任については、迷惑行為の内容に応じて、犯罪の成否を検討する必要があります。迷惑行為動画の投稿には、若者の悪ふざけという面はありますが、企業は、こうした行為を許しておくべきではありません。特に、飲食店では、食の安全を脅かす重大な問題です。迷惑行為の抑止のため、被害届の提出や刑事告訴といった強硬な措置を取るべきです。

5 企業防衛には性悪説!!
 なぜ若者が迷惑行為動画を投稿するのか不思議ですが、きっと自分の行為がどんな結果を招くのか想像ができないのでしょう。誰もがSNSで容易に情報発信できる時代だからこそ、見えていなかった事件が顕在化しているだけかもしれません。
何事もそうですが、企業防衛には性悪説的な発想で対策を講じなければならないと私は考えています。悪い顧客の存在を常に想定しながらも、顧客に対する利便性やサービスの質を損なわない範囲で、事前防止策を講じる必要があります。ただし、どこまで対策すべきかは非常に悩ましい問題で、完全に防止する対策を講じることは現実的ではありません。
結局は、問題発生時にどれだけ適切かつ迅速な対応を行い、顧客からの信頼回復ができるかが最も重要となります。不祥事の際に、頓珍漢な記者会見を開いたり、初動対応を誤っている事例もときどき見ます。適切な対応には、事前に法的な検討をすることが不可欠です。お困りの際には、弁護士にご相談ください。

近隣トラブル~竹木の越境問題~について

(質問)
 Xは、自己の有する甲土地上に建物Aを所有しています。その隣には、Yが所有する乙土地があり、Y所有の建物Bがあります。Yは、断熱効果を期待して建物Bの外壁にツタを這わせています。先日、Yの管理不足で、乙土地のツタが越境して、建物Aの雨どいを詰まらせたことが判明しました。Xは、どのような対応をとることができるでしょうか。

(回答)

1 竹木の枝の切除及び根の切り取り 
隣地の竹木が越境して、被害が生じたという近隣トラブルに関する相談がときどきあります。民法では、「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」(233条第1項)とされ、「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切ることができる」(同条2項)とされます。ツタは樹木の一種であり、「竹木」に当たると考えられます。そのため、Xは、Yに対して、その枝の切除を求めることができます。あくまで竹木の所有者に枝の切除を求めることができるにとどまり、自ら枝を切除できないことに注意が必要です。

2 相隣関係に関する民法改正
これに関連する民法の改正が令和3年になされました。ただし、施行は令和5年4月27日までになされるようです。具体的には、①竹木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるときには、土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越える場合、その枝を切り取ることができるという規定が新設されます。これにより、改正法の施行後は、上記の要件を満たした場合、自ら越境した竹木の枝を切ることができます。また、隣地の竹木の枝が越境する場合で、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるという規定も新設されます。これにより、竹木の共有者の権限が明確になります。

3 竹木の占有者・所有者の責任
竹木の管理に問題があるケースで、隣地の所有者が損害を被った場合、被害者は、竹木の占有者又は所有者に対して、損害賠償請求ができます(民法717条2項)。土地工作物責任の規定が「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合に」準用され、①竹木の栽植又は支持に瑕疵があり、②他人に損害が生じ、③①の瑕疵と②の損害との間に因果関係がある場合には、被害者は、原則として、その竹木の占有者に損害賠償を請求することができ、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときには、所有者に請求をすることができます。竹木の占有者や所有者は、竹木を植える際、適切な管理を怠っていた場合、損害賠償責任を負うリスクがあるので、注意が必要です。
 事例のようなケースに限らず、近隣トラブルに関する法律問題は弁護士にご相談ください。

出生時育児休業(産後パパ育休)とは?

(質問)
 育児・介護休業法が改正されると耳にしました。産後パパ育休とはなんでしょうか。

(回答)

1 出生時育児休業の創設と育児休業制度の変更
令和3年6月に改正された育児・介護休業法が令和4年10月1日に施行され,出生時育児休業(産後パパ育休)の創設、育児休業の変更がされます。そこで、今回は、育児・介護休業法の改正についてお話しします。

2 出生時育児休業とは?
出生時育児休業は、育児休業制度とは別に、子の出生後8週間の期間内に4週間以内の休業を取得できる制度です。女性は、産後8週間は産後休業期間であるため、主に男性が使用する制度となります。子の出生後8週間以内に4週間を上限に、分割して2回まで取得できます。ただし、分割する場合、2回分をまとめて初回時に申し出なければなりません。出生時育児休業の取得を希望する労働者は、原則として2週間前に申し出る必要があります。なお、労使協定を締結し、一定の措置を講じる場合、1か月前までとすることができます。

3 育児休業制度の変更
育児休業制度では、従来、原則として分割取得ができませんでしたが、令和4年10月1日施行の改正法により、1歳までの育児休業につき、分割して2回取得することができるようになりました。また、1歳(1歳6か月)以降の育児休業について、期間の途中で配偶者と交代して育児休業を開始できるようにする観点から、育休開始日について、1歳(1歳6か月)時点に加えて、配偶者が1歳(1歳6か月)以降の育児休業を取得している場合には、その配偶者の休業の終了予定日の翌日以前の日を育児休業開始予定日とできるようになります。
出生時育児休業の創設と育児休業の分割取得により、夫婦が育休を交代できる回数が増え、より柔軟に育休を取得することができるようになるのがポイントです。

4 育児休業給付・社会保険料の免除
育児休業(出生時育児休業を含む)の期間、使用者には賃金の支払義務はありません。もっとも、育児休業(出生時育児休業を含む)を取得し、受給資格を満たす場合、育児休業給付を受けることができます。また、一定の要件を満たす場合、事業主の申出により、育児休業期間(出生時休業を含む)における各月の月給・賞与に係る社会保険料が被保険者本人負担分及び事業者負担分ともに免除されます。

5 男性も育児休業を取る時代!
企業は、法改正を負担と思わず、男性の育児休業を推奨するくらいの意識改革をしなければなりません。「夫は仕事、妻は家事」も1つの考えですが、それが絶対ではありません。夫が育児休業を取り、育児に参加することで、妻も仕事を続けることができます。そして、何よりも、夫が育児参加することが円満な夫婦生活(?)、ひいては、従業員の仕事のモチベーションアップに繋がるかもしれません。
育児介護休業法の改正に関するご相談については、弁護士にご相談ください。

霊感商法と契約の取消しについて

(質問)
 Xは、日常生活で悪いことが続いており、不安を抱えていました。そこで、占い師Aに相談をしたところ、「私は霊感がある。あなたには、悪霊がついており、このままでは、あなたは、病気になってしまう。この数珠を買えば、悪霊が去る。」と言われ、50万円で数珠を購入しました。後日、知人に相談したところ、「騙されている。」と言われました。Xは、なんとかお金を取り戻せないでしょうか。

(回答)

1 霊感商法とは?
霊感商法による被害は、最近、ニュースで話題になっています。霊感商法とは、商品に超自然的な霊力があるかのように思いこませて、高い値段で販売する方法をいいます。霊感商法の対策を議論する消費者庁の有識者検討会では、消費者契約法を改正して契約の取消権の要件緩和や取消権の行使期間延長すべきという提言もなされているようです。現行法では、霊感商法により契約をした場合、どのように救済されるでしょうか。

2 消費者契約法による不当勧誘規制
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、①霊感その他合理的に実証することが困難な特別な能力により知見として、②そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生じる旨を示してその不安をあおり、③当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げることにより、④困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取消すことができるとされます(消費者契約法4条3項6号)。
  「霊感」とは、除霊、災いの除去や運勢の改善など超自然的な現象を実現する能力で、霊感以外でも「合理的に実証することが困難な特別な能力」も対象とされ、四柱推命、星座占い、タロットカードなども該当します。「困惑」とは、精神的に自由な判断ができない心理状態をいいます。
  相談事例では、Xは、Aにより、Xに悪霊がついており、そのままでは病気になるという重大な不利益を告げられ(①②の要件該当)、また、数珠を買えば悪霊が去るとして、数珠の売買契約によって、病気という不利益を避けることができることを告げられています(③の要件該当)。こうした勧誘によって、Xが精神的に自由な判断ができず、数珠の売買契約を承諾したのであれば、その承諾の意思表示は取り消すことができます。その場合、契約の取消しの意思表示を行い、売買代金の返還を求めることになります。 

3 取消権の行使期間
上記の取消権は、追認することができる時(消費者が事業者の行為による困惑から脱した時)から1年間行わないとき、または、契約の締結の時から5年を経過したとき、時効によって、消滅するとされます。このように、取消権には、行使期間の制限があるため、注意が必要です。霊感商法によりマインドコントロール下にある場合、それを抜け出すには、相当程度の時間を要し、行使期間を経過してしまう場合も考えられます。こうした事態を考えて、行使期間を延長すべきという提言がなされているようです。

安全運転管理者とは?~アルコールチェック義務化への対応~

(質問)
 道路交通法施行規則が一部改正されると聞きました。どのように改正されるのでしょうか。

(回答)

1 安全運転管理者の業務の拡充
皆さん、道路交通法施行規則の一部改正が令和4年4月1日、同年10月1日に順次施行されることをご存じですか。法改正により、自家用自動車を一定の台数以上使用する事業所においては、事業所の運転者に対する酒気帯びの有無を確認・記録するとともに、アルコール検知器を用いて酒気帯び確認を行うことが義務付けられました。今回は、道路交通法施行規則の改正の内容とその対応について、お話しします。

2 安全運転管理者制度とは?
安全運転管理者制度とは、一定台数以上の自家用自動車を使用する場合に、自動車の安全運転と運行に必要な指導や管理業務を行わせるため、自動車の使用者(事業者など)が、安全運転管理者とそれを補助する副安全運転管理者を選任して、事業所等における安全運転管理の責任の明確化と交通事故防止体制の確立を図ることを目的とした制度です。自動車の使用者は、以下のいずれかに該当する各事業所において、「安全運転管理者」とその業務を補助する「副安全運転管理者」を選任し、選任から15日以内に公安委員会に届出なければなりません。安全運転管理者の選任義務に違反した者は,5万円以下の罰金に処せられます。
 ⑴安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を5台以上使用している(大型自動二輪車・普通自動二輪車(50ccを超えるもの)は0.5台として計算する。)。
・乗車定員11人以上の自家用自動車を1台以上使用している。
 ⑵副安全運転管理者を選任する必要がある場合
・自家用自動車を20台以上使用している。

3 アルコール検知器の導入が必要!?
改正前には、酒気帯びの有無の確認方法の具体的な定めがなく、確認内容を記録することは義務付けられていませんでした。改正法では、令和4年4月1日施行の部分で、安全運転管理者の業務として、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視等で確認すること」、「確認の内容を記録し、及びその記録を1年間保存すること」が明確に定められました。そして、同年10月1日施行の部分で、運転者の状態を目視等で確認するほか、「アルコール検知器を用いて確認を行うこと」、「アルコール検知器を常時有効に保持すること」が義務付けられました。事業者は、10月1日までにアルコール検知器を確保する必要があります。また、アルコール検知器を「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態で保持することを意味しますので、定期的に故障の有無を確認する必要があり、故障に備えて、予備を用意しておく必要もあるかもしれません。

4 事業所を出入りするたびにアルコール検知器によるチェックが必要か?
 最近、「営業のために頻繁に従業員が社用車で出入りするが、その運転の直前直後にその都度酒気帯びの有無を確認しなければならないのか。」という相談がありました。通達では、「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者」における「運転」とは、一連の業務としての運転をいい、酒気帯び確認は、必ずしも個々の運転の直前又は直後にその都度行わなければならないものではなく、運転を含む業務の開始前・出勤時、及び終了後・退勤時に確認することをいうと解されています。通達の解釈によると、頻繁に社用車の出入りがあるとしても、業務の開始時・終了時、あるいは、出勤時・退勤時に酒気帯びの有無の確認を行えばよいということになります。

5 飲酒運転と使用者の責任
従業員が、業務中に飲酒運転で交通事故を起こした場合、基本的に不法行為の要件を満たし、従業員は被害者に対して損害賠償責任を負います。また,業務中の事故であれば,企業も、使用者責任等により損害賠償責任を負うリスクがあります。死亡事故の場合、賠償金が多額になる可能性がありますので、従業員はもとより、会社も各種任意保険への加入が必要です。保険の契約上、飲酒運転の場合に保険金が支払われるかどうかを確認しましょう。 

6 飲酒運転撲滅と企業への社会の期待
令和3年6月28日に千葉県八街市で発生した飲酒運転により児童5人が死傷した事故を受けて、今回の法改正がなされたようです。今後、業務中の酒気帯び運転による事故が発生した場合、事業者が安全運転管理者の選任等の義務を履行していなかった際に、社会から強い非難を浴びる可能性があることは明白です。見方を変えると、飲酒運転撲滅のために企業の協力が期待されています。対象となる事業者は、法改正の意義を理解し、適切な対応が必要です。道路交通法に限らず、法改正への対応については、弁護士にご相談ください。