遺言の方式とは具体的にどのようなものですか?
(回答)
1 遺言の作成形式
遺言の作成形式については、民法で厳格に規定されており、これらの規定に違反して作成された遺言は、原則として無効になります。
この規制の趣旨は、遺言者の生前の意思を正確に反映させるためですが、無効となった際の影響が大きいため、作成形式について正確に理解しておく必要があります。
2 特別方式
遺言の方式には普通方式と特別方式があります。
特別方式は、死亡直前の緊急時遺言を除き、伝染病による隔離や船舶遭難等一般的ではない事態を想定していますので、関与することも稀だと考えられます。
3 普通方式
他方、普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
公証人が関与する公正証書遺言には相応の費用が必要となるというデメリットもあることから自筆証書遺言の利用も多く、平成23年度の司法統計によれば、裁判所で検認した自筆証書遺言の数は年間1万5676件であり、しかも年々増加する傾向にあります。そこで、今回は特に自筆証書遺言に注目して御説明します。
4 自筆証書遺言の自署とは
自筆証書遺言では、遺言者が本文、日付及び氏名を自書し、押印することが必要となります(民法968条第1項)。
ここで、自書要件について興味深い判例を御紹介しましょう。
それは、遺言書を複写式のカーボン紙を用いて作成した場合において、自書したと言えるかが問題となった事案ですが、裁判所は、カーボン複写も辞書の方法として許されないわけではないと判断しました(最高裁平成5年10月19日判決)。
もっとも、偽造することが容易であることや後の筆跡鑑定で真正な筆跡か否かの判断が困難であるなどの理由から、カーボン複写方式は辞書にあたらないとしてこの判例を批判する見解も多く存在します。
したがって、判例上、カーボン複写方式が認められていますが、実務上は慎重を期して、自筆の遺言書を作成しておくことをお勧めします。
5 書き損じの遺言の効力
では、うっかり書き損じた場合はどう対処すべきでしょうか。民法上、加除・訂正についても厳格な方式が要求されており、注意が必要です。通常の取引文書等に見られるような、二重線の上訂正印を押印するという方法では足りないのです。
具体的には、変更の場所を指示・変更した旨を付記・変更についての署名を行う・変更場所への押印の4点を全て満たす必要があります。
これらの要件を満たさない場合、加除・訂正部分のみが無効となるとの見解が一般的ですが、遺言自体を無効とすべきとの考え方もあります。
このように、遺言方法については数々の制約が存在することから、作成の際には慎重すぎると言われる方がいいのかもしれません。