認知症の母は遺言書作成できない?

(質問)
 認知症の母がいるのですが,母が遺言書を作成することはできないのでしょうか。

(回答)

1 遺言が有効に成立するための条件 
 高齢化社会の進行や遺言の有効性が認知されてきたことに伴い、遺言、特に公正証書遺言の数は年々増加する傾向にあります。そこで、今回から数回にわたり、遺言書作成上の留意点を御説明いたします。
 まず、遺言が有効に成立するためには、遺言者に遺言能力があること、遺言の内容が法的に認められていること、法廷の遺言方式に則っていることが必要となります。

2 遺言能力 
 遺言能力が認められるためには、遺言時に15歳以上で意思能力があればよいとされています(民法961条・963条)。
 そして、一般の法律行為と異なり、未成年者や成年被後見人等制限行為能力者の法律行為を制限する規定の適用はありません(同法962条)。
 制限行為能力者であっても遺言が有効とされているのは、遺言者の意思の尊重という観点や遺言が遺言者の死後に効力を生じるものであり、制限行為能力者制度をそのまま適用する必要がないことなどの理由からです。
 遺言能力の有無を巡って問題となる事例の多くは、高齢者の意思能力を巡るものとなります。例えば、認知症の症状が見受けられる高齢者が遺言者となって遺言書を作成した場合などが典型例として想定されます。
 遺言能力の有無の判断基準としては、一般的に、遺言時における遺言者の精神状態、遺言内容、遺言に至る経緯(遺言の動機、受遺者や相続人との関係も含む。)等といった事情を総合的に考慮することとなりますので、このような事情について個別に検討する必要があります。
 ここで、通常、遺言能力が疑わしい遺言者の場合には、医師の診断を参考にすると考えられます。しかし、先に述べたように、遺言能力の判断には遺言者の精神状態以外の要素も考慮されますし、遺言能力の有無は最終的には法的な判断となりますので、医師の判断が絶対的であるというわけではありません。

3 遺言能力の判断の困難さ 
 このように、遺言能力の判断は遺言者本人の状況以外にも様々な事情の総合判断にならざるを得ないため、判断が難しい場面にも多く遭遇すると思いますが、遺言の有効性に関わる非常に重要な要件であることから、遺言書作成の際には、医師の診断を受けさせることはもちろん、後で遺言が無効となる事態を避けるために、それ以外の判断要素についても特に慎重に検討した上で、遺言書作成を行う必要があります。