裁判員裁判とは

(質問)
 裁判員裁判について教えてください。

(回答)

1 裁判員裁判とは 
 裁判員制度は、それまで検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心となって行ってきた裁判について、判の進め方や内容に、国民の視点、感覚を取り入れることによって、裁判全体に対する国民の理解が深め、国民にとって司法をより身近なものとして信頼を高めることを目的とし、2009年5月から実施されました。
 裁判員の選出方法は、衆議院議員の選挙権を有する方の中からくじで選任されます。70歳以上の方は裁判員となることについて辞退の申立てをすることができますが、辞退の申立てをされない限り、年齢の上限はありません。
 また、裁判員裁判の対象となる事件は一定の重大な犯罪です。
 例えば、殺人罪、傷害致死、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪、覚せい剤取締法違反、保護責任者遺棄致死などといったものです。
 地方裁判所で行われる刑事事件のみが対象になり、刑事裁判の控訴審・上告審や民事事件、少年審判等は裁判員裁判の対象にはなりません。
 対象となる事件の件数は、地方裁判所が扱う刑事裁判のうち、2.5%~3.5%で件数では年間2,500件~4000件ほどです。
 平成25年の統計を前提によると、実際に裁判員又は補充裁判員として刑事裁判に参加する確率は、約9,500人に1人程度(0.01%)です。

2 求刑よりも重い判決 
 以前,傷害致死事件の裁判員裁判で,検察官の求刑より1.5倍の懲役刑を言い渡した事件について,最高裁は第1審と第2審の判決を破棄した事件があります。
 検察官の求刑は懲役10年だったのに対し,裁判員裁判では懲役15年の判決となり,第2審でもその判断が維持されたものが,最高裁で覆されたという事件です。  
 最高裁はまず,裁判員制度について,刑事裁判に国民の視点を入れるために導入されたもので,したがって,量刑に関しても,裁判員裁判導入前の先例の集積結果に相応の変容を与えることがあり得ることは当然に想定されていたと述べています。
 もっとも,その後で,裁判員裁判といえども,他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならず,評議に当たっては,これまでのおおまかな量刑の傾向を裁判体の共通認識とした上で,これを出発点として当該事案にふさわしい評議を深めていくことが求められているとも述べています。 
 要するに,裁判員裁判で量刑に影響があることは当然だけれども,これまでの量刑の傾向を踏まえて,個々の事案に応じた評議をすることを求めているということです。
 最高裁は,このような枠組みを示したうえで,これまでの傾向を変容させる意図を持って量刑を行うことも,裁判員裁判の役割として直ちに否定されるものではないが,そうした量刑判断が公平性の観点からも是認できるものであるためには,従来の量刑の傾向を前提とすべきではない事情の存在について,裁判体の判断が具体的,説得的に判示されるべきと述べています。
 つまり,最高裁は,従来の量刑以上の判断を否定しているのではなく,きちんと具体的,説得的に説明されればよいと判断しています。
 ところが,この裁判の第1審判決では,公益の代表者である検察官がこれまでの量刑の傾向から懲役10年という求刑をし,それを大幅に超える懲役15年という量刑判断をしたことについて,具体的,説得的な根拠が示されているとはいい難いとして,最高裁が破棄自判をしたというものです。

3 量刑相場は裁判官を拘束するか 
 この最高裁判決に対しては,私は懐疑的です。
 そもそも憲法76条3項では,裁判官は良心に従い独立して職権を行い,憲法と法律にのみ拘束されると規定されています。
 そして量刑相場は「懲役何年以下」というように,ある程度幅のある規定がなされている刑罰法規の中で,具体的な刑を決める参考となるものに過ぎません。
 すなわち,憲法上,量刑相場は裁判官を拘束するものとはなっていないのです。
 この最高裁判決は,従来の量刑の傾向を前提とすべきではない事情を具体的,説得的に説明しなさいと言っているのですが,従来の量刑の傾向を重視しすぎているように思います。
 裁判員制度は国民の声を反映させるために導入したものであり,過去の量刑相場に固執していては裁判員制度が無意味なものとなってしまいます。
 また,裁判官も先ほど述べたように過去の量刑相場に拘束される必要はないので,裁判員の意見を広く取り入れればよいと思います。
 そして,刑事裁判において,この世で全く同じ事実関係であるということはありえないので,個別の事情のもとに,柔軟な裁判員の意見を踏まえて,量刑を決めるべきでしょう。
 裁判員裁判もまだ過渡期にあると思います。これまでの量刑の傾向はあくまでも「過去」のもので,世論が厳罰化に動いているのであれば,裁判所はその声をしっかり聴く必要があります。
 この度の最高裁による判断も,「将来」において十分に検討し,変更の必要があれば見直すべきときが来るかもしれません。