就業規則不作成のリスク

(質問)
 当社は従業員数が10人に満たないので、就業規則を作っていなかったところ、従業員Yが当社の商品を第三者に横流ししていることが判明しました。
 当社は、Yを懲戒解雇できるのでしょうか。

(回答)

1 就業規則の法的性格
 労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づけるとともに(同法第89条)、就業規則の作成・変更に当たり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規則を届け出て(同法第90条)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる義務を課しています(同法第106条第1項)。
 また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができるものとしています(同法第92条)。
 さらに、労働契約法は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による」としています(同法第12条)。
 中小企業の中には、常時10人未満の従業員しかいない企業も数多くあり、その中には就業規則を作成しておらず、懲戒処分の根拠がない会社もときどき見受けられます。

2 就業規則に懲戒処分に関する規定がない場合
 判例では、就業規則に懲戒に関する規定がないと、懲戒処分ができないとされています(最高裁判所平成15年10月10日判決)。

3 回答
 貴社は、就業規則を作成しておらず、懲戒処分の根拠がないので、懲戒解雇担当事案であっても懲戒解雇ができないという奇妙な結果になります。
 そもそも就業規則を作成するのは、会社にとっては不要な義務ではなく、多数の労働者の労働条件を画一的に管理できるというメリットがあることに加え、会社にとって、戦略的に有利な対応をするための根拠になります。
 したがって、貴社は、このような認識を持って、常時10人未満であったとしても就業規則を作成すべきです。