1人取締役の死亡の場合の会社の意思決定の方法

(質問)
 当社の取締役は1人です。その取締役が突然亡くなった場合は、会社の意思決定はどのように行われるのでしょうか。
 なお、当社の全株式はその取締役が保有しています。

(回答)

1 一時取締役の選任
 中小企業はいわゆる一人会社であることがよくあり、ご質問のケースはまさに経営法務リスクマネジメントの最たるものと言ってもいいと思います。
 貴社において、取締役が死亡すると新たな取締役の選任が必要となります。
 そして、新たな取締役の選任には、株主総会の決議が必要ですが、株主総会の招集は取締役が行うため、取締役が死亡した場合にはそもそも株主総会の招集ができないことになります。
 このような場合のために、会社法では一時取締役(仮取締役)選任の申立てが認められています。
 裁判所は、取締役などの役員に欠員が生じた場合、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時取締役を選任することができます。

2 株式の準共有
 1人しかいない取締役が会社の全株式を所有していた場合、その者が死亡すると、その相続人が全株式を準共有している状態になります。
 この場合、株主総会での議決権行使は、民法の共有に関する規定に従ってなされなければならず、この場合、「共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法第252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である。」とされています(最高裁判所平成27年2月19日判決)。

3 回答
 このように、1人しかいない取締役が死亡すると、取締役の業務執行ができず、一時取締役選任の申立てなど早急に新たな取締役選任に向けた手続を行わなければならなくなり、その後の株主総会招集、株主総会決議まで含め、相当の時間と手間を要することになります。
 会社法では、そうした事態が生じる前に、あらかじめ株主総会で補欠取締役を選任することが認められていますので(同法第329条3号)、あらかじめ補欠取締役を選任しておくべきです。