就業規則の不利益変更のリスク

(質問)
 当社では、従前の年功賃金から職能給・成果主義賃金への変更を検討していますが、どのような点に注意すれば良いでしょうか。

(回答)

1 就業規則の不利益変更リスク
 中小企業の中には、従業員のモチベーションを上げるなどのために、年功賃金から職能給・成果主義賃金への変更を図りたいという会社があります。
 しかし、職能給・成果主義賃金制度の導入は、人事考課により、減額となり得る場合もあり、就業規則の不利益変更との関係で問題となります。
 また、賃金が減額となった労働者が不満を持ち、労働組合に加入して、上部団体を巻き込んで、本格的な労使紛争へと発展するリスクも生じます。
 その結果、従業員の相当割合が労働組合に加入して、会社の生産性が落ちるというさらなるリスクに発展してしまいます。

2 就業規則の不利益変更のルール
 労働契約法は、原則として、労働者との合意なく、就業規則を労働者の不利益に変更することはできないとしています(同法第9条)。ただし、例外的に、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働者の合意がなくても就業規則の不利益変更は認められるとしています(同法第10条)。

3 戦略的対応が必要
 従業員の不利益になる労働条件の変更に当たっては、戦略に基づいて慎重に準備することが必要になります。
 ご質問のケースでは、取りあえず職能給・成果主義賃金を導入すること自体に重きを置き、会社の待遇に不満を感じている労働者の賃金が当面は下がらないか、下がるとしてもその下がり幅を極力少なくするか、一定の猶予期間を設けるなどの工夫が必要です。

4 労働者の合意がなくても就業規則の不利益変更が認められる場合
 裁判例では、新給与規定の実施に伴い、当初は調整給を設定し、その後も、賃金減額分の補償措置を設けるなどしていること、同制度の適用により、低評価者には不利益となるが、普通程度の評価者の場合は補償制度もあり、その不利益の程度は小さく、8割程度の従業員の給与が増額していること、企業が赤字経営となり、収支改善のため労働生産性を向上させる必要があったこと、組合とも合意に至らないまでも10数回に及ぶ団交を尽くしていること等を理由に不利益変更を有効としたものがあります(大阪地方裁判所平成12年2月28日判決)。
 中小企業が労働者の合意なしに就業規則の不利益変更を行うときは、この裁判例を参考にして、調整給や賃金減額分の補償措置などを検討すべきです。

5 回答
 中小企業は、労働者の合意が得られない場合には、就業規則を不利益に変更することは、原則的に認められません。
 しかし、それでも、会社の事業継続性のためにあえてリスクを負わなければならない局面もあります。
 その場合は、類似の裁判例などを参考にして、一定のリスクを負いつつも、そのリスクを最小限にする対策を行いつつ、就業規則の不利益変更を検討することが必要となります。