請負契約の解除が認められる場合とは

(質問)
 2か月前に,Aさんから住宅の設計を依頼され,当社として通常どおり設計作業を進めていました。Aさんは新しく建てる家に強い思い入れがあり,設計図はAさんと当社の担当者が何度も打ち合わせをしています。  
 ところが,Aさんは会社の都合で転勤となったため、当社と契約を解除すると言ってきました。このような解除は認められるのですか?
 また,当社としては,どのように対処したらよいでしょうか?

(回答)

1 請負契約の解除が認められる場合 
 建物の建築は,請負契約等の締結後に,設計を経て工事が完成するまでの相当の期間を要します。そのため,御相談のように,中途で契約を解除するということがあります。
 民法上,契約解除できる場合としては,相手方に債務不履行がある場合及び手付を利用する場合があります。そして,これらの場合でない限り契約解除は原則としてできません。
 なぜなら,契約には拘束力があり,これを破棄するためには一定の事由が必要とされるからです。
 しかしながら,請負契約においては,請負人に生じた損害を賠償することを前提にして,注文者が自由に解除することが認められています(民法641条)。これは、契約締結後の事情の変化により請負契約を存続させる必要がなくなった場合にまで,請負人に仕事を続けさせることは無意味と考えられるからです。
 そして,民法上は「損害を賠償して契約の解除をすることができる」と規定されていますが,損害を賠償しなければ注文主は解除ができないというわけではありません。
 したがって,御相談ケースでは,Aさんは貴社に対して予め賠償金を支払うことなく,とりあえず契約の解除をすることができます。そして,貴社としては,その解除後に,Aさんに対して損害賠償を請求することとなります。

2 損害賠償の内容 
 次に,損害賠償の内容としては,請負人が既に支出した費用,及び仕事が完成していたのであれば得られたであろう利益(逸失利益)を請求することができます。
 他方で、請負人がそれ以上契約を続行しないことにより不要となった費用等は控除されます(損益相殺)。
 そのため,「解除の時まで被控訴人(請負人)がなした仕事に照応する請負代金(報酬)相当額をもってこれを算定することが衡平に合致する」とした判例もあります(名古屋高裁昭和63.9.29)。
 また,請負人が裁判において損害賠償請求をする際には,現に支出した費用を裏づける証拠や,他の類似の仕事内容で得られた利益の実績を示す証拠が必要となります。

3 請負人のリスク対策 
 以上より,請負人である貴社としましては,請負契約は注文主により契約が解除されるリスクが常にあることをまず押さえておく必要があります。そして,その上で、解除された場合に速やかに貴社に生じた損害額を立証できるよう,証拠書類を日頃から確保しておくことが必要と言えます。