卒業論文の引用に注意ー著作権法とはー

(質問)
 卒業論文を書くに当たって、インターネットや他人の論文を全く引用しないことは無理だと思うのですが、どこまで引用していいのでしょうか?

(回答)

1 著作権法に規定がある 
 論文等の引用は,著作権法に規定があります。この著作権法の要件を満たせば,論文等の引用をすることは何ら問題となりません。
 引用の要件は著作権法32条1項に定められています(「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」)。
 これを要件ごとに分かりやすく分けると,①公表された著作物であること,②引用であること,③公正な慣行に合致すること,④引用の目的上正当な範囲内で行われていることの4つです。
 この4つの要件を順番に検討していけばいいのですが,その前に対象物が「著作物」に該当するかについても確認しないといけません。
 そもそも,著作物に該当しなければ,それを引用しても全く問題にならないからです。

2 著作権に該当するかの判断 
 これは著作権法2条1項で定義がありまして,著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定されています。
 この定義を聞いても分かりづらいと思いますから,部分ごとに分けたうえで,具体例を挙げて説明しましょう。
 まず「思想又は感情」という部分ですが,これは人間の考えや気持ちといった広い範囲を含むものですが,反対に単なる事実の伝達や,時事の報道はこれに該当しません。
 例えば,レストランのメニューで料理の代金という事実を伝達することや,5月の平均気温が何度であったとの時事の報道等は,「思想又は感情」に該当しないので著作物には当たりません。
 次に,「創作性」という要件があります。創作性とは,作成者の独創性までは要求されていませんが,その作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要とされています。自分の言葉で書いた論文や,オリジナルの構図の写真等は,作成者の個性が表現されているので創作性があります。
 そして,このように作成された物が,「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」であり,かつ外部に「表現」されることによって,著作物としての保護を受けることになります。

3 引用の4つの要件 
 さきほどまでは著作物の説明をしましたが,この著作物が公表されたものであることが1つ目の要件です。
 公表はその名のとおり,世間に発表することです。  
 引用の要件の2つ目は,引用部分が分かるようにするということです。このためには,引用部分にかぎかっこをつけたり,ポイントを変えたりしたうえで,注で引用した著作物を明示する方法等があります。
 そして③の公正な慣行に合致することと,④の引用の目的上正当な範囲内で行われていることですが,これは抽象的な文言なので具体例を挙げにくいところですが,引用にあたっては,その文言通り,引用の「慣行」を踏まえるとともに,一般常識に照らして「正当」と思われる範囲内で利用すれば要件に合致するものと思います。
 最後の2つの要件は引用の慣行や,一般常識が判断のベースになります。
 自分の判断に自信が持てないときは,専門の弁護士に相談することをお勧めします。