隣地使用権とは

(質問)
 私は、この度、老朽化した自宅の修繕工事をしようと考えています。しかしながら、敷地が狭いため、工事をする上でどうしても隣の土地に立ち入る必要があります。
 隣人が立ち入りを承諾してくれない場合には工事ができないのですが、どうすればいいのでしょうか。

(回答)

1 隣地使用権とは
 所有権は物に対する絶対的な権利ですので、原則としてその物をどのように使用するかは所有権者が自由に決めることができます。
 そのため、他人の土地を無断で使用することは、その土地の所有者の所有権を侵害することになりますし、不法占有による損害賠償義務も生じます。
 もっとも、この原則を貫くと、今回の事例のように不都合が生じることから、民法は、一定の場合に隣地の使用請求権を認めています。
 具体的には、民法第209条第1項が、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」と規定しています。
 本件でも、自分の敷地に余裕がない場合には、工事に必要な範囲で、敷地に立ち入ったり、足場を設置すること、材料や機械を隣地に一時置くこと等が認められます。

2 隣人が承諾してくれない場合
 上記のとおり、民法上の隣地使用権が認められる場合に、これを隣地所有者が拒否した場合はどうなるのでしょうか。
 民法第209条第1項の場合には、一方的に隣地所有者に通知することで使用が認められるのか、あくまでも隣地所有者の承諾が必要なのかが問題になります。
 この点について、一般的には、使用について隣地所有者の承諾が必要と解されています。
 そのため、隣地の所有者が承諾をしてくれない場合には、裁判所に、「承諾に代わる判決」を求めて訴えを提起し、勝訴判決を取得する必要があります。
 隣地使用が認められる場合であるからといって、相手の承諾がないのに使用を強行することは、違法な自力救済にあたりますし、場合によっては住居侵入罪等に問われる恐れもあります。
 もし、判決を待っていては壁が崩壊して修復不可能となる等、緊急を要する場合であれば、隣地使用に関する保全処分として、仮処分決定を得て隣地に立入ることになります。
 以上のように、一定の場合には隣地の使用請求権が認められますが、無断での使用が認められているわけではありません。
 また、承諾を得て隣地を使用する場合でも、使用によって隣地所有者に損害を与えた場合には、これを賠償する義務があることにも注意が必要です。