取引先からの同時履行の抗弁権の主張

(質問)
 当社は、先日、住宅建設工事を完成させました。
 しかし、注文主は、「工事の内容に瑕疵があるので瑕疵修補を請求する。ただし、修補事態ではなく、修補に替わる損害賠償を請求し、それと工事代金債務を相殺するから工事残代金は支払わない。」と言って、工事代金の残額1,000万円を支払ってくれません。このような主張は認められるのでしょうか?
 また、工事請負契約には、請負代金債務の遅延損害金は年14.6%と定められています。注文主が工事残代金を支払わない間、遅延損害金は年146万円生じると考えて良いのでしょうか?

(回答)

1 同時履行の抗弁権 
 まず、御質問のケースは、
・貴社→注文主 1,000万円の請負代金債権・年14.6%の遅延損害金
・注文主→貴社 瑕疵補修に替わる損害賠償請求・年6%の遅延損害金
 を有することになります。
 しかしながら、民法634条2項により両者の債権は「同時履行の関係」、すなわち、相手方が履行するまではこちらも履行しなくてよい関係にあるとされており、それにより他方当事者がお金を支払うまではお互いに遅延損害金は発生しません。
 したがって、原則としては、注文主が瑕疵補修請求をする場合には、注文主は請負代金も遅延損害金も支払わなくてもよく、貴社は注文主にこれらを請求できません。

2 瑕疵が軽微な場合 
 ただし、注文主の瑕疵修補請求が余りに軽微な場合にまで、注文主が請負代金の支払義務を全て免れるというのは明らかに妥当ではないと考えられます。
 本件と類似の事例において、最高裁判例は、注文主は原則としては全額について履行遅延に陥らないが、例外的に瑕疵の程度や交渉の経過を考慮して報酬債権全額の支払いを拒むことが信義則に反するときはこの限りではない、という判事をしています(最高裁平成9・2・14)。
 そして、46万円分の瑕疵補修請求権をもって請負代金1,325万円の支払いを拒もうとした注文主が信義則に反するとされたケースがあるように(福岡高裁平成9年11月28日判決)、上記最高裁判例の「例外的な場合」は、瑕疵修補請求と請負代金額との比率や、瑕疵修補の対象となっている瑕疵が目的物において重要な瑕疵であるか否かといった観点で判断されます。

3 貴社の請求の可否 
 したがって、御質問のケースにおいては、注文主の主張する瑕疵が軽微であって上記最高裁判例のいうところの「例外的な場合」に当たれば、貴社は注文主に対して遅延損害金を含めて請負代金全額を請求できます。
 なお、仮に「例外的な場合」に当たらないとしても、貴社若しくは注文主が相殺の意思表示をした後は、請負代金の残額について、貴社は遅延損害金も請求することができます。