印鑑の管理リスク

(質問)
 当社は、突然Y社から当社の代表者印が押印されたコンサルタント契約書のコピーを示され、それに基づくコンサルタント料の請求を受けました。    
 しかし、当社の社長は、その印鑑が代表者印とは思われるものの、そのような契約書に押印した記憶はないとのことです。
 当社とすればどのように対応すれば良いのでしょうか。

(回答)

1 文書管理の重要性
 企業においては、社印、代表者印、取締役の印鑑、銀行印などの印鑑の管理が極めて重要なので、それが適切になされているかどうかを改めて確認しておく必要があります。
 印鑑管理のリスクとしては、次のことが挙げられます。
 ①印鑑が偽造されるリスク
 ②部外者による不正使用リスク
 ③内部の者による不正使用リスク

2 二段の推定の法理
 訴訟においては、コンサルタント契約が貴社の意思に基づいて作成されたかどうか(真正に成立したかどうか)が、まず問題となります(形式的証拠力)。
 訴訟において、貴社がコンサルタント契約書の真正を争った場合は、Y社は、コンサルタント契約書が貴社の意思に基づいて作成されたこと(文書が真正に成立したこと)を立証する必要があります。
 この点につき、判例は、私文書の作成名義人の印影が、その名義人の印章(印鑑)によって顕出(押印)された事実が確定された場合には、反証がない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定できるとしています(最高裁判所昭和39年5月12日判決)。これを一段目の推定といいます。
 次に、民事訴訟法第228条第4項は、私文書は本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立した(意思に基づいた)ものと推定すると規定しています。これを二段目の推定といいます。
 したがって、Y社は、コンサルタント契約に押印された印影が貴社の印章の印影と同一であることさえ立証すれば、文書の真正が推定されることになります。これを二段の推定の法理といいます。
 すなわち、本人の印影→本人の意思に基づく規制→文書の成立の真正ということになります。
 以上の次第で、代表社印の管理は大変重要ですので、施錠している引き出しに保管するなど厳重な管理が要求されます。

3 回答
 貴社は、コンサルタント契約に押印された印影が貴社の代表者印の印影である以上、貴社の代表者の意思に基づいて文書が作成されたと推定されてしまいます。
 貴社としては、コンサルタント契約書に押印された印影が貴社の印章により押印されたものでないとか、印章が第三者に盗用されたとか、貴社が白紙の契約書に代表者印を押印後に変造されたなどを立証できない限り、コンサルタント契約の契約書の成立は争えません。
 次に、契約書の真正が認められたとしても、その内容を争うことは可能です。
 貴社とすれば、コンサルタント契約は真正に成立したとしても、コンサルタントの実体がなかったからコンサルタント料金の支払義務はないなどといった争い方をすることも検討する必要があります。