取締役の第三者責任リスク

(質問)
 当社は、製造業を行っていますが、業績が低迷し、債務超過となってしまいました。
 ただ、先月から展開している新製品が好調ですので、取引先に材料を発注し、事業を継続して挽回したいのですが、債務超過のまま事業を継続した場合、社長個人の責任が取引先から追及されることはないのでしょうか。

(回答)

1 取締役の第三者責任
 会社法では、取締役や監査役などの役員が、会社に対する義務に違反することをわかっていながら、もしくは、多少注意を払えば義務に違反することが容易にわかったにもかかわらず、義務に違反し、それにより第三者に損害を被らせたときは、その役員等は、連帯して、第三者に対し、損害の賠償をしなければならないとされています(会社法第429条第1項、第430条)。
 ご質問のケースの場合、債務超過の会社について、事業を継続することが、会社に対する義務違反となり、それにより取引先に損害を被らせた場合には、取締役等は、取引先が被った損害の賠償をする責任が生じるリスクがあります。

2 債務超過状態での事業継続
 債務超過会社の取締役が事業を継続した場合に、善管注意義務となるか判断した裁判例として、高知地方裁判所平成26年9月10日判決があります。同裁判例によると、①当該企業の業種業態、②損益や資金繰りの状況、③赤字解消や債務の弁済の見込みなどを総合的に考慮判断し、事業の継続又は整理によるメリットとデメリットを慎重に比較検討し、企業経営者としての専門的、予測的、政策的な総合判断を行うことが要求され、このような判断が善管注意義務に違反するかは、その判断の過程(情報の収集、その分析・検討)と内容に著しく不合理な点があるかどうかという観点から、審査されるべきであるとされています。
 ご質問のケースでは、社長の善管注意義務違反が認められるかどうかは、新商品等からの利益がどの程度見込めるか、それらにより赤字を解消し、仕入れ先への代金支払いが可能となるかどうか、事業を継続することにより、かえって赤字幅を拡大させ、ひいては株主や会社債権者等が不利益を被る可能性の方が高いかなどを比較考慮して判断されることになります。

3 回答
 貴社の事業を継続するとの社長の判断が著しく不合理でなければ、仮に、経営環境の急変などにより、取引先へ代金の支払いができなくなろうとも、社長個人の責任が追及されるリスクは少ないといえます。