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書面でする消費貸借契約

(質問)
 XはYに対して事業資金として100万円を貸付ける約束をしました。ただし,Xの資金調達の都合があったため,金銭の交付は1か月後とすることで合意して契約書を作成しました。ところが,1か月後,Xは100万円を交付しませんでした。この場合,YはXに対して,100万円の交付を求めることができるでしょうか。

(回答)

1 書面でする消費貸借契約
 民法は,従来,消費貸借契約を物の交付を要件として成立する要物契約としてのみ規定していました。しかし,現代では,借主が,融資受けられることを前提として,事業活動を営むケースが多々あり,当事者の合意のみで成立する諾成契約として貸主に貸す義務を認めなければ,借主に不測の損害を与える場合があります。そこで,民法改正では,書面による場合に限り,金銭その他の物の引渡しを約束し,その返還を約束すれば,物の交付を要せず,例外的に,諾成契約として消費貸借契約が成立するという規定が新設されました(民法587条の2第1項)。これを「書面でする消費貸借契約」といいます。この場合,契約に基づき,貸主には「貸す義務」が,借主には「借りる権利」が発生します。また,消費貸借契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その消費貸借は,書面によってされたものとみなされます(同条第4項)。
事例では,契約により,YはXに100万円の交付を求めることができます。また,Xの「貸す義務」の債務不履行を理由として,YはXに対し,履行遅滞となった時点の法定利率あるいは法定利率を超える約定利率による損害賠償請求ができます。

2 受け取り前の解除権
 では,金銭を受領する前に,Yに資金需要の必要がなくなった場合は,どうでしょうか。書面でする消費貸借契約では,借主は,貸主から金銭その他の物を受け取るまで,契約の解除をすることができます(民法587条の2第2項前段)。そのため,Yは理由を問わず,契約を解除できます。ただし,金銭その他の物を受け取る前の解除によって,貸主が損害を受けた時には,貸主は、借主に対し損害賠償を請求できます(同項後段)。

3 「書面でする消費貸借契約」のポイント
 民法改正で新設された「書面でする消費貸借契約」のポイントは,①諾成契約として,消費貸借契約を成立させるには,合意を書面にする必要があることが明文化されたこと,②書面でする消費貸借によれば,貸主に「貸す義務」が生じるため,借主は,貸付を義務付けることができることです。借主が,予め融資を確保しておきたい場合に,書面でする消費貸借契約が活用できるかもしれません。ただし,金銭等を受け取る前に解除する場合には,貸主の損害を賠償しなければならないリスクに注意しなければなりません。

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従業員の休職への対応について

(質問)
 従業員が精神疾患で欠勤をしていますが、休職、解雇等、どのように対応すればよいでしょうか。

(回答)

1 休職制度とは?
 そもそも、従業員が私傷病で働けない状態であることは、労働契約の内容である労務提供ができない状態です。労務提供ができないということであれば、通常は解雇することが考えられます。
 しかし、解雇は簡単にはできないと聞いたことがある方も多いかもしれませんが、解雇は、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、解雇権の濫用として無効とされる場合があります。そして、多くの会社では、従業員の長期雇用を前提としていますので、私傷病で働けないことから、労務提供ができないとして直ちに解雇することは、解雇権の濫用にあたる可能性があります。
 そこで、実務では、私傷病欠勤を理由に直ちに解雇するのではなく、一定期間の猶予を与えて回復を待ち、それでもなお回復しない場合に労働契約を終了する制度として休職制度が設けられてきました。

2 休職規定について
 休職規定の内容は会社によってさまざまですが、例えば、勤続年数に応じて、6ヶ月から1年半程度の休職期間を設け、休職期間が満了したときには、当然退職の扱いとすることが考えられます。当然退職とすることで、解雇の際のトラブルが生じにくいということになります。
 また、休職期間中の給与は無給としている会社が多いと思われます。なお、従業員が健康保険に加入している場合には、傷病手当金が支給されることになります。

3 復職の基準とは?
 復職はどのような場合に認めればよいのでしょうか。一般的には、従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復する必要があると考えられています。復職可能かどうかはトラブルになりやすいので、会社指定医への受診を行わせる等の復職の手続を明確にしておくことが必要です。

4 就業規則に休職規定がない場合には?
 万が一、就業規則に休職規定がない場合には、私傷病により欠勤している従業員を直ちに解雇することになるのでしょうか。
 先に述べたとおり、解雇には客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。したがって、解雇が無効とされないように、休職規定がない場合でも、休職に相当する期間については欠勤を認めて解雇を猶予するなどしておき、その期間を待って解雇に踏み切るといった対応が考えられます。

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従業員の秘密保持-秘密情報流出のリスクに備える-

(質問)
 当社を退職予定の従業員が、退職後において、在職中に得た秘密情報を悪用しないかどうかが心配です。秘密情報の悪用を防ぐには、何か方法はあるでしょうか。

(回答)

1 転職をめぐる秘密流出のリスクが増加している!
 令和3年6月、大手回転すしチェーンを運営する会社の社長について、自身がかつて取締役を務めていた同業他社の元同僚から営業秘密を受け取っていた疑いがあるという報道がされました。
 従来の終身雇用制度が崩れつつあり、転職が増加する昨今において、このような転職をめぐる秘密情報の漏えいは増加傾向にあると言われています。
IPA(情報処理推進機構)の営業秘密管理に関する実態調査によれば、様々な情報漏えいルートのうち、「中途退職者による情報漏えい」は平成28年の調査では28.6%であったところ、令和2年の調査では36.3%に増加しており、すべての情報漏えいルートの中で最多のものとされています。

2 従業員は秘密保持義務を負う?
 ところで、そもそも、従業員は企業に対し秘密保持義務を負うのでしょうか。
 まず、その情報が不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるものである場合には、従業員は、在職中であると退職後であるとを問わず、これを不正に取得し、利用や開示をすることは、法律上禁止されています。そして、従業員がこの法律に違反した場合、企業はその従業員に対し、漏えい行為の差止め、損害賠償や信用回復の措置を求めることができます。
 ただし、ある情報がこの不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるというためには、その情報が①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3つの要件を充たすものであることを企業が立証しなければならず、これが認められるには相当程度高いハードルがあるといえます。
 それでは、「営業秘密」にあたるとはいえない秘密情報については、どうでしょうか。「営業秘密」にあたらない秘密情報について、法律上、その不正な使用や開示などを直接禁止する規定はありません。もっとも、在職中の従業員については、労働契約法に定められた信義則上の義務として、企業の秘密を保持する義務があるとされています。他方、退職後の従業員に関しては、悪質な態様の場合を除いて、秘密情報の使用や開示も自由競争の範囲であるとみなされてしまうことが一般的です。
 そこで、退職後の従業員に対し秘密保持義務を課し、また、在職中・退職後を問わず従業員が保持すべき秘密情報の範囲を明確にするためにも、従業員の在職中に、従業員との間で秘密保持契約を締結しておくことが有効です。

3 秘密保持契約書を作成しよう
 秘密保持契約は、従業員との間で秘密保持契約書を作成することによって締結します。その際、最も重要なのは、「秘密情報」の範囲を明確かつ具体的に特定することです。この点が曖昧であればトラブルの元になりますし、漠然と広く秘密保持義務を課す契約は、無効と判断されてしまう可能性があります。また、従業員の退職後も将来にわたって秘密保持義務を負わせるには、期間の定めのない契約とすることが有効です。
 なお、従業員の秘密保持義務は、個々の従業員と秘密保持契約を締結することのほか、就業規則で定めることも可能です。もっとも、就業規則でこれを定めた場合、就業規則そのものが従業員に周知徹底されていなければ秘密保持を定めた条項も有効なものとみなされないこととなりますので、注意が必要です。このような点が争われた場合に備え、やはり、個別に秘密保持契約書を作成しておくことがより望ましいと考えられます。

4 情報化社会の中で安全な経営を目指す
 秘密情報は、競業などに利用されるのみならず、インターネット上に流出させられる危険性もあるところ、SNSの普及により情報が拡散されやすくなっている現代において、秘密情報をしっかりと守る体制を整えることは、企業にとってとても重要です。

 秘密保持契約書の作成や従業員の秘密保持を始めとした秘密情報の管理についてお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。

内定者の突然の辞退

(質問)
 入社日の直前になって、内定者から「他社に就職することにしたので、内定を辞退したい」と連絡がありました。辞退の連絡が突然すぎて、非常識だと思います。
 このような非常識な内定辞退が許されるのでしょうか。また、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

(回答)

 内定を辞退するにしても、できるだけ早めに連絡をしたりお詫びをしたりするなど、常識的な対応をしてほしいというのは当然のことだと思います。
 入社日直前の辞退や事前連絡がないままの辞退に対しては、何かしらの対応をしたくなるという気持ちも分からないではありません。

1 内定者は自由に辞退できるのか
 法律的には、内定が決まった時点で労働契約が成立したことになります。したがって、「内定者が内定を辞退する」ということは「労働者が労働契約を解約する」ということになり、その意味では退職と同じです。
 民法上、労働者はいつでも労働契約の解約の申入れをすることができ、解約の申入れの日から2週間を経過することによって労働契約が終了することになっています(民法627条)。このルールは、労働者の退職の自由を保障するための強行規定であると考えられています。
 したがって、労働者に退職の自由が認められる以上、内定者にも辞退の自由が認められるということになります。

2 損害賠償を請求することができるのか
 労働者の退職の例でいえば、退職が社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われた場合には、債務不履行責任や不法行為責任を負うこともあるとされています。しかし、悪質な一斉大量引抜きなどが行われない限り、債務不履行責任や不法行為責任が成立することはほとんどないと思われます。
 これとパラレルに考えれば、辞退の連絡が突然すぎるという点のみをもって、辞退が社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われたと評価することは困難です。会社が内定者のために多額の設備投資などの特別の準備をしていて、そのことを内定者も十分に認識していたような場合でない限り、損害賠償を請求することは難しいと思われます。

3 見方を変えると・・・
 仮にそのような内定者を採用していた場合、会社の業務でも重要な連絡をしないなどの問題が生じていたかもしれません。しかし、問題のある労働者であっても、簡単に解雇できるわけではありません。
 見方を変えると、そのような事態が生じずに済んだ、会社がそのような問題に巻き込まれずに済んだと考えることもできます。新たに良い人材を採用することができるよう、気持ちを切り替えるのが生産的だと思います。

 お困りの際は、弁護士にご相談ください。

高齢者の雇用確保と就業確保

(質問)
 2021年4月から高齢者の雇用のルールが変わったと聞きました。どのように変わったのでしょうか。 

(回答)

 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(通称:高齢者雇用安定法)が改正され,70歳までの雇用確保と就業確保に関する新しいルールが導入されました。70歳就業法といわれることもあり,4月1日から施行されています。
 これまでのルールと,70歳就業法によって新しく導入されたルールを確認していきましょう。

1 これまでのルール‐60歳以上の定年と65歳までの雇用確保
 企業が従業員の定年を定める場合,60歳以上とする必要があります(60歳以上の定年)。
 また,企業が65歳未満の定年を定めている場合,①65歳まで定年を引き上げる,②65歳までの継続雇用制度を導入する,③定年を廃止する,のいずれかを講じなければなりません(65歳までの雇用確保)。
 これらは努力義務ではなく,義務です。多くの企業は,定年を60歳とした上で,65歳までの再雇用制度を導入しているといわれています。

2 新しく導入されたルール‐70歳までの雇用確保と就業確保
 70歳就業法では,これまでのルールである65歳までの雇用確保義務はそのままで,さらに70歳までの雇用確保と就業確保の努力義務が規定されました。
 努力義務の内容は,①70歳まで定年を引き上げる,②70歳までの継続雇用制度を導入する,③定年を廃止する,④70歳まで業務委託契約を締結することができる制度を導入する,⑤70歳まで社会貢献事業に従事することができる制度を導入する,のいずれかです。
 ①②③の内容は,これまでのルールである65歳までの雇用確保義務の延長線上にあるといえます(70歳までの雇用確保)。
 これに対し,④⑤の内容は,①②③とは少し異質です。フリーランスとして仕事を受けたり,社会貢献事業に参加したりして収入を得るのですから,従業員ではなくなるわけです(70歳までの就業確保)。その影響から,④⑤を導入するためには,過半数組合か過半数代表者の同意を得ることが必要とされています。

3 企業の対応
 現時点では努力義務にとどまりますが,政府は義務化を検討すると明言しており,今後,義務になることも十分に考えられます。
 義務化された場合,70歳までの再雇用制度を導入する企業が多いのではないかと思われますが,いずれの措置を講じるにせよ,就業規則の見直しは必須です。

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売主の担保責任と契約書作成のポイント

(質問)
 Xは、自家用車としてYから中古車を購入し、引き渡しを受けました。数日後、Xがその中古車を運転していると、エンジンが不具合を起こして動かなくなりました。原因を調査したところ、購入前からエンジンに不具合があったことが判明しました。XはYに対してどのような法的請求ができるでしょうか。 

(回答)

1 売主の担保責任
 「瑕疵担保責任」という言葉が浮かんだ方もいるかもしれませんが、ご存じのとおり、2020年4月1日に施行された改正民法で、「瑕疵担保責任」は姿を消し、「契約不適合責任」の規定に改められました。民法では、売主が買主に対して売買の目的物を引き渡した場合、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対して①追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④解除権の行使ができる旨規定されています(民法562条から564条)。これは、「契約不適合責任」などと呼ばれます。従来の瑕疵担保責任との違いは、「隠れた瑕疵」という文言がなくなったこと、①追完請求、②代金減額請求が新設され、買主の救済方法の選択肢が増えた点が挙げられます。
 事例では、Xは中古車を自家用車として購入しており、不具合がなく走行できる車であることが契約の内容となっています。本件中古車はエンジンの不具合で動かなくなったため、その品質は契約の内容に適合していません。したがって、XはYに対して①~④の請求ができる可能性があります。

2 履行の追完請求
 目的物に契約の不適合がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できます。この際に、追完の方法は買主が選択できますが、売主は買主に不相当な負担を課するものではないときにはそれと異なる方法により履行の追完をすることができます。XはYに対して中古車の修理、契約の内容によっては代替物の引渡しを求めることもできます。

3 代金減額請求
 目的物に契約の不適合がある場合、買主が相当な期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がないときなどには、買主は、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。XがYに対して修理や代替物の引渡しを求めたが、これに応じない場合、XはYに対し、代金減額請求ができます。すでに代金を支払っている場合は、減額した金額について、不当利得返還請求ができると考えられます。

4 損害賠償請求及び解除
 目的物に契約の不適合がある場合、買主には、追完請求権及び代金減額請求権が認められますが、それによって債務不履行による損害賠償請求権及び解除権の行使は妨げられません。XはYに対して、解除権の行使や損害が生じた場合には損害賠償請求ができます。

5 契約書作成のポイント
 民法改正により買主の救済方法が増えましたが、かえって、目的物の修補の方法、代替物の引渡しの可否、代金減額の算定方法など多様化した救済手段に関連するトラブルが増加するのではないかと予想しています。
契約書を作成する際の重要なポイントは、売主の担保責任の規定が任意規定であるため、法律上の制限がない限り、当事者間の合意でこれと異なる定めができることです。例えば、追完請求や代金減額請求を排除したり、追完請求の方法や代金減額の算定方法を予め合意したりすることもできます。売買契約書を作成する際には、予め、契約の不適合があった場合にどのように処理するか定めておくことで、売主のリスクを軽減できます。買主も契約の不適合があった場合の処理について予め合意しておけば、不要なトラブルを避けることができます。ただし、買主側で契約書を作成する際には、救済方法が過度に制限されていないかに注意する必要があるでしょう。

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従業員の自転車通勤

(質問)
 当社では,多くの従業員が自転車で通勤しています。従業員が自転車で通勤中に交通事故を起こした場合,会社も責任を負うことがあるのでしょうか。 

(回答)

 公共交通機関や自動車で通勤していた人が,通勤ラッシュや渋滞がない,運動になる,環境にやさしいなどの理由で自転車通勤にするということもあるようです。また,いわゆるコロナ禍において,公共交通機関を避けたいという思いから自転車通勤にする人も少なくないと聞きます。

1 使用者責任
 従業員が加害者となる交通事故であっても,事故が会社の事業の執行について発生したといえる場合,会社も損害賠償責任を負います(使用者責任,民法715条1項)。例えば,従業員が社用車に乗って業務中に交通事故を起こした場合であれば,事故が事業の執行について発生したといえ,使用者責任が成立することになるでしょう。
 それでは,従業員の自転車通勤中の交通事故は,事業の執行について発生したといえるでしょうか。通勤に限っていえば,従業員があくまでも個人的な便宜のために自転車を通勤に利用していたということであって,事業の執行について発生したとはいいにくいのではないかと思います。
 ただし,自転車が業務にも利用されていて,会社もそれを容認していたというような場合は,事情が異なってきます。この場合,自転車が社用車に近くなってくるためです。したがって,会社としては,従業員の交通安全意識を高めるだけでなく,通勤用の自転車は業務に利用しないように徹底する必要があるといえます。

2 自転車事故の損害額
 ところで,自動車事故と比較すると,自転車事故は損害額が小さいイメージがあるかもしれません。一般的に,自動車事故の方が衝撃も大きいでしょうから,発生する損害も重大になり,損害額も大きくなる傾向があるとはいえます。
 しかし,損害額は発生した損害によって決まるのであって,自動車だから,自転車だからということによって決まるわけではありません。自転車事故であっても,後遺障害事案や死亡事案になれば,損害額が数千万円に上ることもあるのです。
 最近は,スポーティーな自転車がかなりのスピードで走行しているのを見て,ちょっと怖いなと感じることもあります。接触や衝突の仕方によっては,十分に危険だと思います。

3 自転車保険
 そうすると,自転車であっても自動車と同じような保険に加入しておく方がよいですし,加入しておくべきだということになります。
 岡山市では,令和3年4月1日から,自転車利用者や事業者に対して自転車保険の加入を義務づける条例が施行されました。罰則はありませんが,この機会に,会社の自転車には自転車保険をかけ,自転車通勤の従業員には自転車保険の有無を確認しておくのがよいと思います。

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テレワーク導入-働きやすい職場環境へ-

(質問)
 今話題のテレワークについて、そのメリットとデメリット、導入するために必要なことを教えてください。 

(回答)

1 今後はテレワーク導入が必須となる!
 テレワークとは、会社のオフィスから離れた場所で働くことをいいます。
 テレワークは、近時の働き方改革の流れを受け、また新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、今、急速に広まりをみせており、東京都では、令和3年2月時点で約65%もの企業がこれを導入しているとされています。
 このテレワークは、感染症への対策として有効であることはもちろんのこと、育児や介護のためのキャリアロスが問題視されている現代社会においては、従業員に仕事と育児や介護との両立を可能にさせ、安心して働き続けることのできる環境を提供する手段として、今後、企業が採るべき必須の手段となっていくものと考えられます。

2 メリットとデメリット
 テレワークを採用するメリットは、まず何よりも、仕事と育児や介護とを両立させたいと考える労働者に訴求し、新たな人材採用への足掛かりとなることや、既存の従業員の流出を防止することが期待できるということです。
 また、テレワーク導入に向けてITツールを導入したりペーパーレス化を進めることは、結果として業務効率化や業務改善にも繋がることとなります。
他方で、テレワークを実施する場合、情報セキュリティ上の問題が生じやすくなるという点や、従業員同士のコミュニケーションが不足しがちになる点にデメリットがあります。
 また、同時に、会社以外の場所で勤務する従業員の労働時間をどのようにして適正に把握するかということも、大きな問題となります。
 もっとも、これらのデメリットは、きちんと制度を整備することで解消したり、リスクを軽減することができるものです。

3 テレワークの導入には何が必要?
テレワークを導入する際、テレワーク勤務時に採用する労働時間制度や、その他の労働条件が通常勤務の時と同じである場合は、必ずしも就業規則を変更する必要はありません。
 もっとも、通常は、就業規則上、新たにテレワークを定義した上で、テレワークを実施する対象者、申請方法、服務規律、労働時間、出退勤管理、賃金や費用負担などについて、ルール作りをすることが必要となります。
この際、特に重要となるのが、労働時間の管理方法についてしっかりと定めておくことです。具体的には、始業・終業の旨を、メールや電話などの方法で連絡することが考えられます。現在は様々な企業から勤怠管理ツールが提供されているため、そういったものを利用することも有効です。
 また、従業員が私用で業務を離れることによって生じる中抜け時間をどのように取り扱うかということも、ルールを決めておくことが必要です。
 さらに、前記の情報セキュリティリスクを軽減するため、セキュリティガイドラインを策定することや、従業員間のコミュニケーションを円滑にするため、ウェブ会議システムやチャットを有効に活用した制度設計をすることも望まれます。

4 働きやすい職場環境づくりへ
人材確保が困難となった現在、従業員に働きやすい職場環境を提供し多様な人材の確保を目指すことは、企業が選択しうる生き残り戦略の重要な手段です。
 「働きやすさ」とは、従業員が誇りとやる気を持ち、スキルの向上と自己実現を妨げられることなく目指していける環境をいいます。テレワークの導入や、フレックスタイム制などの柔軟な労働時間制度を採用することにより働き方の多様性を確保することは、企業が従業員に提供することができる「働きやすさ」の1つの形といえます。
 テレワークの導入を始め、より働きやすい職場環境を作るための就業規則の整備等にお悩みの場合は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めします。

相続欠格制度

(質問)
次のような場合,Ⅹは相続資格を有するかどうか教えてください。
(1) ⅩはAの配偶者です。XはAの多額の資産に目がくらみ,薬を使ってAを殺害しました。Xは殺人罪で実刑判決を受けました。
(2) Aには子であるXとYがいます。AはXが同居して生活の世話をしていたことから,「Xに対して全ての遺産を相続させる。」という遺言を作成しました。その後,XのAに対する態度が悪くなったため,Aは遺言書の撤回を考えたが,Xは言葉巧みにAを騙して,遺言書の撤回を断念させました。その後,Aは死亡しました。
 

(回答)

1 相続欠格制度とは?
事例(1)はまるで和歌山県の大富豪の事件の被疑事実のような話ですが、ごく稀にこのような事件が起こります。このような相続制度の基盤を破壊するような行為をした者に対して、民法は,被相続人の意思にかかわらず,法律上当然に相続資格をはく奪する制度を定めています。それが相続欠格制度(民法891条)です。

2 5つの欠格事由
民法891条は次の5つの相続欠格事由を定めており、これらの事由に該当する場合、当然に相続資格を失う効果が生じます。
①故意に被相続人又は相続人について先順位・同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者(同条1号)
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告発しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りではない(同条2号)。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者(同条3号)
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者(同条4号)
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(同条5号)

3 Xの相続資格はどうか?
事例(1)は1号事由に該当するため、Xは相続資格を喪失します。もっとも、通説によると、「故意」とは、殺人の故意のみならず、殺害により相続上の利益を得ることの故意も必要と解されること、執行猶予付き判決を受けた者は、執行猶予期間が経過すれば、刑の言渡しが効力を失うため、相続欠格とならないと解されていることにも注意が必要です。
 事例(2)は3号事由に該当するため、Xは相続資格を喪失します。ただし、Xに子がいる場合には、代襲相続(民法887条1項)により、その子が相続人となります。
 このように被相続人または先順位・同順位相続人の殺害に関わった場合や遺言行為への不正な干渉をした場合には、相続資格を喪失するケースがあります。相続や遺言に関するトラブルは弁護士にご相談ください。

空き家と相続問題

(質問)
 先日、Aが死亡しました。Aには、Aの子であるBがおり、配偶者のCはAより先に亡くなっています。Aの財産には、土地とその土地上の建物があります。ところが、それらの不動産は、田舎の実家で空き家になってから数年が経っています。Bはその空き家の処分をどうしたらいいでしょうか。

(回答)

1 空き家と相続問題
昨今、空き家が放置されている問題が社会問題として取り上げられています。空き家が発生する原因には、所有者の死亡や高齢者の転居などが挙げられます。特に、相続財産に不動産が含まれていることは多々あり、相続が発生した場合に、空き家となっている不動産の扱いが問題となります。

2 相続放棄をすれば、空き家の管理をせずともよいのか?
空き家を相続した場合、空き家の所有者として土地の工作物責任など法的な責任を負います。それを避けるために、相続放棄をすればよいのではないかと考えられます。しかし、相続放棄により相続人が不在となった場合にも、相続放棄をした者は、相続財産管理人が選任されるまで相続財産について管理義務を負うことになるため、注意が必要です。 
 民法では、相続の放棄をした者はその放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされます。相続人が不在の場合には、相続財産管理人が選任され、相続財産の管理がされるまで、相続放棄をした者は、相続財産の管理義務を負うことになります。相続財産管理人を選任しないまま、空き家を放置した場合には、建物の倒壊などが起きれば管理義務違反により、損害賠償責任を負うリスクがあります。

3 不動産の売却・賃貸借による活用
相続人が空き家を相続した場合には、不動産を第三者に売却、賃貸することで活用することが考えられます。この場合も様々な法的な問題やリスクを検討する必要があります。
例えば、相続した不動産の売買では、稀に、所有権移転登記がきちんとなされておらず、被相続人の名義で登記されていない場合があります。この場合、所有者の確認ができず、売却が直ちにできない可能性があります。また、賃貸借契約を締結する場合は、借地借家法の適用があることや賃貸人として義務やリスクを検討して、契約を締結することが大切になります。
 相続にともなった法律問題は様々なものがあります。相続に関する法律問題の相談については弁護士にご相談ください。