おかやま財界 インタビュー「大都市制度の改革 -政令市岡山はどう変わるか」

大都市制度の改革 -政令市岡山はどう変わるか

(おかやま財界 2013年3月20日 インタビュー)

地方制度の在り方などを検討する首相の諮問機関「地方制度調査会」が昨年末、21回の審議を経てて中間報告をまとめた。同調査会は近く最終報告をまとめ、2014年の通常国会に関連法案を提出する。政令市を持つ岡山県にとって市の独立性、県から市への財源移譲は、今後の県勢発展に不可欠な課題。岡山県で唯一委員に委嘱されている小林裕彦弁護士(53)=小林裕彦法律事務所所長、岡山弁護士会所属=に、今回の中間報告の意義や今後の地方都市のあるべき姿について話を聞いた。


-中間報告のポイントは?

まず、道府県は都市計画、教育、福祉などの権限を大幅に政令市に委譲し、二重行政を解消する。「二重行政」の解消には、事務の移譲、税財源の配分に加え、指定都市と道府県が公式に政策を調整する場の設置が必要であり、協議で解決が見込まれない場合は、何らかの新しい裁定等の仕組みを設けることも併せて検討すべきであると提言した。

次に、人口規模が大きい政令市では、住民に身近な行政サービスを行うため、都市間分権の強化策として、区役所に人事や予算権限の一部を付与するなど区役所の役割を拡充することや、区長を副市長並みに市長が議会の同意を得て選任する任期4年の特別職とすることを可能とすることなどを提言した。

さらに、中核市の人口30万人以上という要件を20万人以上に緩和し、人口20万人以上の特例市は保健所設置を条件に中核市への昇格を認めることなども新たに課題とした。

-委員として1年余り議論をしてきたわけだが、中間報告をどう評価する?

県と政令市の二重行政を解消するとともに、住民に身近な行政サービスを効率的に行うという観点から、政令市が処理できる都市計画、教育、福祉などの権限はできるだけ道府県から政令市に移譲することは必要不可欠だ。問題は県費負担教職員の給与まで政令市が負担することになるので、税源配分を含めた財政措置をどうするかだ。中間報告では税源移譲や税交付金などが提示はされているが、今後、全国知事会がいたずらに既得税源の維持に固執する可能性もある。結果、負担ばかりが政令市に押し付けられたのでは本末転倒だ。今後、注視していかなければならない。

-規模が大きい政令市の区役所に予算、人事権等一定の権限を与え、区長の特別職化や公選を検討するとあるが?

政令市は、住民に身近な行政を行う基礎自治体であると同時に、多数の人口と広範囲の権限と行政能力を有する存在で地域の産業と経済と文化の牽引車となるべき極めて重大な役割を有している。
しかし、一人の首長と相当数の議員だけで住民の声を市政に十分に反映できるかどうか。区役所の役割の強化に関しては、横浜市や大阪市のような規模の大きな政令市だけでなく、岡山市のような規模の小さい政令市も区の役割の強化等を市が独自に政策的に選択できるように制度設計を行うべきである。

この点、補足すると事務の義務付けの緩和のみならず、地方の沿革、諸事情等を踏まえ、地方が自らの創意工夫により最適の行政サービスの提供体制を実現できるよう地方の自律性をもっと高めるべき。区レベルでの住民の行政参加を促進させるには、住民の創意による地域おこしやアイデアに、行政が金銭的にバックアップすればいい。行政が市民を政策的に誘導するのではなく、市民が自らアイデアを出した地域の取り組みや運動に行政がお金と人とアドバイスを出すという本物の住民参加の発想の転換が大事。これは町内会や市民の団体の活動が従来から盛んな岡山市なら十分機能する。

-二重行政の解消には、県と市の執行部、議員らで構成する協議会で政策を調整し、さらには県と市で調整がつかない場合には、裁定の仕組みづくりが新たに必要だと提言しているが、これはどうか?

大変斬新ないい発想だと思う。公の施設や事務処理の二重構造はそれなりの理由があり、即一元化という結果にはなりにくい。その時に、「何らかの裁定」がないと、結局うやむやになっていしまう。裁定は県、市のどちらにも利害関係がない第三者機関で対応すべきだ。さらにもう一歩踏み込んで「裁定」の案件は県、市の自治体だけからの要求に限定せず、県または市の有権者数の一定割合の要求があれば、裁定案件として認められる道を開くことも視野に入れておくべきだろう。

県と市の関係で言えば、二重行政解消のための協議だけではなく、条例で県の事務を市へ移譲するという事務処理特例制度のさらなる積極的な活用も重要。県から市へ移譲する事務の種類や事務処理交付金の金額をめぐって県と市で協議がデッドロックに乗り上げた場合においても第三者機関による裁定を用いてはどうか。

行政の弱点は、ずばり、外部の専門家を十分活用していないこと、行政機関同士の協議がデッドロックに乗り上げたときに裁定的又は第三者機関的解決が図られないこと、行政目的と効率性、有効性、経済性の検証が事前及び事後に十分になされていないことであると常日頃考えている。この意味で、この新たな裁定制度には行政の閉鎖性、自己完結性に風穴を開ける役割を期待している。

-政令市としての岡山市の現状をどう見るか?

岡山市は岡山県と比べまだ財政的な余裕はあるようにみえるが、少子高齢化による人口減少社会の到来がもたらす社会保障費の急激な増大と社会インフラや箱ものの維持更新コストなどで、今後財政的な負担は急速に増えていく。財政が厳しくなる中で、全国の都市間競争を勝ち抜いて岡山県を発展させていくには、政令市の岡山市が中心となって、周辺の倉敷、玉野、総社市などと水平的、広域的な連携をこれまで以上に積極的に進めていって、効率性と専門性を高めていかなければならない。同時に、政令市にふさわしい市のガバナンスや職員の専門能力強化もさらに徹底していく必要がある。平面的で模範的でややもすると地味な政令市から、政策何でもありの全国から注目されるユニークで活力のある政令市に変貌してはどうか。例えば、先頃、市議会でライフワークバランスを実現している会社への減税をしてはどうかという議員の質問があったが、税の公平性とか、効果が不明といった陳腐な答弁で終わるのではなく、このような問題意識をきっかけにさまざまな大胆な政策にチャレンジしてみてはどうか。いずれにせよ、近い将来必ず実現すべき道州制の礎となるよう、岡山市は政令市としてのポテンシャルを質的に高めていくべきだと思う。


地方制度調査会専門小委員会がまとめた「大都市制度についての中間報告」の概略(抜粋)

現行制度の見直し

①指定都市制度の現状 指定都市は1956(昭和31)年に創設され、以来、現在に至るまで50年以上にわたり制度の基本的な枠組みは変更されていない。この間、指定都市と都道府県との実際の行政運営で、いわゆる「二重行政」の問題が顕著化している。大都市における効率的・効果的な行政体制の整備のためには、この「二重行政」の解消を図ることが必要である。また、指定都市においては、市役所の組織が大規模化し、そのカバーするサービスも幅広くなるため、個々の住民の距離は遠くなる傾向にある。対策として住民がより積極的に行政に参画しやすい仕組みづくりを検討する必要があり、人口が多い指定都市は行政区の役割を強化し明確にする必要がある。

②具体的な方策としては、法廷事務を中心に都道府県が指定都市の存する区域で処理している事務全般について、指定都市が処理できるものについては、できるだけ指定都市に移譲し、同種の事務を処理する主体を極力一元化する。都道府県から指定都市に移譲する事務としては、都市計画と農地等の土地利用の分野や、福祉、医療分野、教育等の対人サービスの分野を中心に検討すべきである。事務の移譲により、指定都市に新たに生じる財政負担については、適切な財政措置を講じる必要があり、県費負担教職員の給与負担等まとまった財政負担が生じる場合には、税源の配分(税源移譲や税交付金など)も含めて財政措置の在り方を検討すべきである。  「二重行政」の解消には、事務の移譲、税財源の配分に加え、指定都市と都道府県が公式に政策を調整する場の設置が必要。調整連絡機関としての協議会は指定都市と都道府県の執行機関と議会が共に参画することが重要。例えば会長は市長または知事とし、委員は各議長、あるいは議員、職員から選任することを検討すべきである。

③住民自治強化のため、「都市内分権」を強化する。具体的方策として区の役割を拡充する。そのためにまず条例で市の事務の一部を区が専ら所管する事務を定め、区長が市長から独立した人事、予算等の権限、例えば区の職員の任命権、歳入歳出予算のうち専ら区に関わるものの管理権などを持たせる。区長は副市長並みに市長が議会の同意を得て選任する任期4年の特別職とし、任期中の解職や再任を可能とすることを検討すべきである。また条例で区に教育委員会や区単位の市教育委員会の事務局を置くことも視野に入れるべきである。